朧月夜−21−
私達は、話を続けた。 「もし、私が彼と恋人になったら、私達の関係はもうおしまいなのでしょう?」 「うん、君に対しても、君の恋人に対しても悪いしね。好きな人がいるのに、いつまでもこんな関係を続けているわけにはいかないよ。」 「でも、あなたのことを忘れられないの。もし彼と恋人になっても、もし結婚しても、付き合って欲しいとお願いしたらいけないかしら。勿論、手当なんかいらないわ。付き合って下さるだけでいいの。」 「それは今結論を出さない方がいいね。君の気持ちもどう変わるかわからないし、それにまずは彼を本当に好きになるように努力することが必要だよ。」 「でも、あなたとも別れたくないの。お金のことではないわ。私、本当にあなたなしではいられない身体になってしまったの。」 「でも、中途半端はいけないよ。それは、君のためにもならないよ。」 「・・・・・」 友紀は、再び目に大きな涙を浮かべていた。 私は、そんな友紀が愛おしくなり、肩を抱いて引き寄せた。そして涙を浮かべている友紀瞼に優しくキスをした。しばらく沈黙が続いた後で、私が言った。 「いいんだ。このまま別れるかどうかは、ゆっくり考えてごらん。もし、彼を選んだとしても、君が会いたいなら会ってあげるよ。それはそのときゆっくりと考えればいい。今、結論を出す必要はないしね。」 その日は、そのまま家に帰った。 帰りの車に乗ってからしばらくすると、急に寂しさがこみ上げてきた。最初に友紀と知り合ったときは、お金だけで繋がっている関係と割り切っていた。それが1年以上も身体を交えていると、いつしか強い心の結びつきになっていたのである。それは友紀の口から、別れるかもしれないという言葉を聞いて、実感として湧き上がってきたのだった。私の心の中では、このまま友紀を手放したくないという気持ちと、友紀の幸せを奪ってはいけないという気持ちが葛藤していた。 その次に友紀のマンションに電話をしたとき、いくら呼んでも出なかった。今までにこんなことはなかっただけに、ちょっと心配になった。翌日、もう一度電話をしたが、やはり呼び出しベルが鳴るだけだった。 私は、友紀のマンションに行ってみることにした。 ―続く― |