男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2026/06/25 3:54:07|小説「春の行方」
春の行方−39−
春の行方−39−

 光太郎は、病院のベッドで新年を迎えた。母親と佳津枝は、近くのホテルを取り、そこから病院に通っていた。その間に、医師と相談し、正月明けには光太郎を松戸の病院に移して、脳の検査をすることになった。
 4日、光太郎は松戸の病院に移された。母親と佳津枝も一緒である。
「佳津枝、仕事は大丈夫なの?」
「大丈夫、会社にはちゃんと断ってあるから。」
 母親は農閑期であるから心配はないが、佳津枝には仕事がある。どんな理由で休みを貰ったのか気になったが聞きはしなかった。
 その間、先に帰って来ていた大室や久恵も見舞いにやって来たし、会社の課の仲間や寮の外のメンバーも見舞いに来た。その中に、一恵もいた。
 みんな、佳津枝のことを誰だろうというような顔で見ているのに気付いていた。明らかに妹でないことには気付いているようだった。
 脳の検査の結果は、軽い内出血を起こしているということであった。現在のところ、特に障害はないが、状況によって固まった血が動いたりすると障害が出て来る可能性があるという。手術は難しく、失敗すれば却って障害が出るとのことで、結局、医師も手術は断念した。
 検査結果が出ると、佳津枝は帰って行った。母親は残って、光太郎の身の回りの世話をした。ベッドの傍にいた母親が、光太郎に言った。
「佳津枝さん、お前のことを随分心配していたんだよ。私が、お前が怪我をしたと電話をしたら、すぐに行きましょうと言ったのは、彼女だったの。」
 光太郎は、申し訳なさそうにその話を聞いていた。
 松戸の病院に移ってから、しばらくすると、松葉杖を使って歩けるようになった。しかし、入浴だの着替えなどができないので、入院生活はギブスが取れるまでできない。母親も帰って行った。そのとき母親は、見舞いに来ていた久恵に、すみませんが何かあったらよろしくお願いしますと頼んでいた。
 久恵は、仕事の帰りなどに病院に寄ってくれて、何か用事はないかと聞いた。大抵のことは自分で出来たので、特に頼むことはなかったが、たまに本や雑誌などの買い物を頼んだ。
 そんなとき、久恵が言った。
「お母さんと来ていた女性、三永君の婚約者だってね。とても、きれいな人じゃないの。私、三永君に婚約者がいるって全然知らなかったわ。」
「婚約しているわけじゃなくて、幼馴染みなんだよ。子供の頃からの近所付き合いなんだ。」
「でも、仕事を休んでまで来てくれたんでしょう。三永君のことを好きなのね。」
「うん、そうかも知れない・・・・・」
 光太郎は、この期に及んで、まだはっきり言わない自分に呆れていた。
 しかし、久恵は懲りずに病院に来てくれた。それが男女の気持ちの表れなのか、あるいは同期としての友情なのか、光太郎にはわからなかった。
 1か月後にギブスが取れて、退院になった。脳の後遺症は特に出ないようで、退院前の検査でも特に異常は認められなかった。
 1か月半ぶりに、光太郎は仕事に復帰した。
            −続く−







2026/06/24 5:03:23|小説「春の行方」
春の行方−38−
春の行方−38−

 考えた末、結局、光太郎は今年もスキーに行くことにした。そのことを佳津枝にメールで伝えると、楽しんで来てとは返事が来たものの、行間には残念そうな気持ちが滲んでいる。
 今回のメンバーも去年と同じ5人、大室、飯坂、久恵、陽子それに光太郎だった。暮れの休みに入ると、すぐに湯沢に向けて出発である。
 光太郎は、去年のレッスンの成果もあって、中級向け程度のスロープなら滑れるようになっていた。こうなるとスキーも楽しい。大室は、久恵や陽子に付きっきりで教えているが、飯坂と光太郎は、それぞれに別の場所で滑っていた。
 2日目の午後になって、光太郎はもうちょっと上から降りて来ようとゲレンデの一番上までリフトで上って行った。スロープもかなりきつい。それでも慎重に滑り降りて来た。2回目、3回目になると自信もついて来る。だんだんとスピードを上げて降りるようになった。元々運動能力は高い方なので、上達の度合いも早かった。
 4回目の滑降に入り、スロープの半ばまで来たときである。突然、衝撃を受けて転倒した。後ろから誰かに衝突されたのである。光太郎の体はスロープを流された。ストックは、手になかった。スキー板は足から外れ、そのままスピードが落ちない。必死で雪面を手で押さえようとするが、一向に効果はなかった。そして行く先に、リフトの鉄塔が近付いて来た。光太郎の記憶はここまでであった。
 気が着いたとき、光太郎は病院のベッドに寝ていた。脚にはギブスを巻かれ、頭には包帯がされていた。脚も、頭も強い痛みがある。枕元には、大室と久恵がいた。
「大丈夫か?」
大室が聞いた。
「うん、申し訳ない。」
「俺、どうしたんだろう。」
「うん、滑っていて転倒したんだ。骨折しているんだよ。」
「頭が痛いんだけど。」
「うん、頭から鉄塔にぶつかったみたいだ。今、検査結果が出るのを待っているんだよ。」
「そうか・・・。休暇が明けたら、仕事ができるだろうか?」
「仕事のことは心配するな。営業課長にも言ってあるが、身体を治すことに専念しろということだった。」
「そうか・・・・・」
そこまで言うと、また眠ったようである。
 結局、頭については、レントゲンでは異常がないが、詳しいことはCT検査でなければわからないということであった。脚の骨折は複雑骨折には至っておらず1か月でギブスがとれるだろうという。
 そんな話を聞いているうちに、光太郎の母親と佳津枝がやって来た。
「光太郎、マア、なんてことを。皆さんには、大変ご迷惑をお掛けしました。」
 部屋に入って来ると、大室や久恵にしきりに謝っていた。
「光太郎君、大丈夫?痛みはないの?」
 佳津枝が、聞いた。
「うん、心配をかけて申し訳ない。来てくれたんだね。」
 その会話を、久恵は誰だろうというような顔で見ていた。妹がいることは知っている筈だが、兄妹の言葉遣いではなかったからである。
           −続く−







2026/06/23 3:45:54|小説「春の行方」
春の行方−37−
春の行方−37−

 日曜日の中華料理屋は、人も少ない。
 3人は、腰を落ち着けて飲んだ。光太郎は、ソウル旅行の後でどうしたのかと聞かれるのが怖かったが、大室と久恵もなぜ二人でこの店に来たのかと聞かれるのが怖いのか、話はソウル旅行中のことに集中していた。お互いに、痛いところに触れられたくないので、あたかも触れないという黙契があったかのようである。光太郎も、敢えて二人がなぜここに来たのかは聞かなかった。
 食事を終えて、寮に戻る。光太郎と久恵は同じ階の隣同士であるが、大室は階が違う。
 二人は、大室と別れるとそれぞれの部屋に歩いて行く。いつも二人で出掛けたときなら、ここでキスをしたりすることがあるのだが、この日はお互いに小さな声で「おやすみ。」と言っただけで、それぞれの部屋に入って行った。
 その夜、光太郎は、久恵と大室が二人で食事に来ていたことが気になった。冷静に考えれば、そんなに変なことでもない。たまたま二人が出掛けるときに出会い、ラーメンが食べたいと思ったとしても不思議ではないのである。しかし、もし二人が二人だけで食事に行きたいと相談して行ったのなら、それはまた事情が違う。大室が久恵に気があることは、前にも告白を受けていた。しかし、久恵が自分に気があるとも思っている。あるいは、久恵の気持ちが大室に移ってしまったのか。そんなことを考えているうちに、酔いと疲れもあって、光太郎はいつしか眠りに就いていた。
 翌日から仕事が始まった。入社2年以上が過ぎた光太郎も、忙しい日々を送るようになっていた。日中はお得意さん回りが続き、オフィスに戻ってからは事務処理で忙しかった。寮に帰るのは12時近くになることも多くなっていた。そんな忙しさの中でも、週末は月に一回の割合で寮の仲間と飲んでいた。
 また一恵からも、ひと月に一回の割合で誘いがあった。一恵は、逢瀬には慎重だった。日曜日の夕方に、寮の人間の来ることのないスナック“再会”に誘った。ここだと場末であるし、他人の目に触れることはまずと言って良いほどない。
 そして寮の反対方向のラブホテル、彼女が冷静な性格と頭脳の持ち主であることがわかる。光太郎は、最初、彼女の強引さに不愉快さを覚えていたことが、次第に親しみに変わっていることに気付いていた。
 それにもうひとつ彼女の魅力に気付いていた。それは佳津枝とは違うセックスである。佳津枝は彼女の性格のとおり、受動的なセックスだった。それに比べると、一恵は積極的で自己主張のあるセックスである。男にとって、どっちが良いとは言えない。セックスもまた相性の問題なのである。
 秋も深まったある日、寮の仲間の飲み会のとき、大室が、「今年もスキーを計画した。」と言った。
光太郎にとって、また決断のときが来たのである。
                −続く−







2026/06/21 2:32:56|小説「春の行方」
春の行方−35−
春の行方−35−

 翌日のみんなの出発時刻は朝の10時である。仁川の空港に見送って行ったが、それから佳津枝が来るまでに5時間もある。光太郎は、それまでの時間をどうすることもなく空港内の店を見て回ったり、食事をしながらひたすら佳津枝が来るのを待っていた。
 佳津枝の乗っている便の到着を告げるアナウンスがあった。到着ロビーで出迎える。
 佳津枝はノースリーブのシャツにジーンズ姿だった。光太郎の姿を見付けると、大きく手を振った。二人は、これから泊まるホテルにタクシーで向かった。二人共韓国語はダメなので、運転手に地図の入ったホテルの案内書を見せた。タクシーの中でも、佳津枝はやや興奮気味で、話し続けていた。
 ホテルでチェックインを済ませると、部屋に入ってキスを交わす。抱擁の中、佳津枝の乳房の膨らみが光太郎を刺激した。光太郎が佳津枝をベッドに押し倒そうとすると、「待って、シャワーを浴びてから。」と言った。一緒にシャワーを浴び、愛の時間を過ごした。
 夏の日もすっかり沈んで、外は暗くなっている。光太郎は、佳津枝を夜の明洞の町に連れて行った。行き先は、昨日の居酒屋である。韓国酒と韓国料理に佳津枝も舌鼓を打っている。異国でのことだと思うと、いつも佳津枝のマンションで飲んでいるのとは違った雰囲気である。
 隣に座った青年が韓国語で佳津枝に話し掛けて来た。佳津枝がキョトンとしていると、今度は英語で話し掛けて来る。どこから来たのかとか、韓国は初めてかなどと聞いている。佳津枝は、笑顔で話に応じていた。更に、市内を案内しようかなどと言っている。光太郎は、嫉妬のようなものを覚えていた。その感情が刺激になったのか、光太郎はホテルに帰ると、再び佳津枝に挑んで行った。
 翌日は、ソウル市内の観光である。光太郎は、昨日まで見て来たところを案内して歩いた。まずは、市内が見渡せるソウルタワーに上り、その後で景福宮、博物館、李王朝の位牌の祀られた宋廟(チョンミョ)などを見て歩き、午後には南大門の市場に行った。ここは、日本で言えばアメ横のような雰囲気の町である。食材や、ブランド物に見立てられたバッグなどを売っている。
「おねえさん、これ本物の偽物。安いよ。」などと声を掛けて来る。佳津枝は楽しそうにその様子を見ていたが、さすがに豚の頭が並べられている店の前に来ると気味悪そうにしていた。
 南大門の後は、仁寺洞(インサドン)の町を歩く。ここは骨董品や美術品などを売っている店が並んでいて、佳津枝は興味深そうに見ていた。そしてお土産にするのだと言って、小さな人形を買っていた。
 この日の夕食はレストランでとったが、メニューはやはり韓国料理である。光太郎は焼肉を、佳津枝は鶏料理であるサンゲタンにした。ビールを飲みながらの韓国料理は美味しい。佳津枝は、本当に楽しそうにしていた。
 3日目は、午前中に明洞の町を散策して過ごし、午後からはスーパーでキムチやお菓子などのみやげを買いに行った。
 観光地を歩き回るのも楽しいが、こうしてゆっくり過ごすのも異国の旅の楽しみである。佳津枝はしばしば光太郎のと腕を組んで歩いていた。
 4日目は帰国である。楽しい時間の過ぎるのは早い。飛行機に乗っても、佳津枝は楽しかったを繰り返していた。
 帰りの飛行機の中、佳津枝が言った。
「また、外国に行きたいわね。」
「そうだね。」
光太郎が答えた。
               −続く−







2026/06/20 5:27:19|小説「春の行方」
春の行方−34−
春の行方−34−

 お盆の休みが始まると、その日に成田からソウルに向けて出発した。メンバーは5人、山野、大室、光太郎と男が3人、女は久恵と新入社員の陽子である。
 陽子は、海外旅行は初めてらしく、空港に着いたときからはしゃいでいた。いつものおどけた調子である。
 飛行機が成田を出発すると、2時間ちょっとでソウルに着き、現地のガイドの案内でホテルに向かう。
 ホテルは、明洞(みょんどん)の町の近くにあった。部屋は2室、男3人と、女2人がそれぞれ1部屋ずつである。部屋に荷物を置いて落ち着くと、夕刻である。早速飲みに行こうということになった。
 明洞の町は繁華街である。飲み屋が並んでいて、若者がたくさん歩いている。ちょうど原宿の町を歩いているような雰囲気だった。居酒屋のような店に入ると、キムチのにおいがする。 5人は、ビールや韓国のお酒などをそれぞれ注文すると、早速突き出しのキムチを肴に乾杯をした。
 韓国は、食の国である。出てくる食べ物は日本人の口に合っているし、お酒も美味しい。店は、既に韓国の若者で一杯になっている。隣に座った韓国の若者が、久恵や陽子に英語で話し掛けて来る。
 久恵は上手に相手をしているが、陽子の方は笑顔で話しながらも、言っている内容はとんちんかんなものだった。韓国の若者に親しそうに話している女二人に、日本の男達は憮然として酒を飲んでいた。
 その店で2時間ほど飲んでから、5人は店を出て明洞の通りを歩いた。通りは若者達で溢れかえっていて歩くのもままならないほどだった。見るもの全てが珍しかったが、光太郎は3日後に佳津枝が来たらどこに連れて行こうかと観察を怠らなかった。
 翌日はソウル市内を観光した。その翌日は李王朝の宮殿である景福宮(キョンボックン)や博物館、宋廟などを観光した。聞けば秀吉の朝鮮出兵のおりに宋廟も焼かれており、この頃からこの国は日本の犠牲者だったのである。夜は、南山のソウルタワーに登る。この塔から見えるソウルの夜景は素晴らしかった。光太郎は、佳津枝と二人で登れば、どんなに喜ぶだろうかと思っていた。
 その翌日は、板門店に行くことになっている。板門店は、南北朝鮮の唯一の交渉の場、今でも北と南は休戦状態なのであり、戦争が終ったわけではないのである。「何事があっても自己責任です。」の書類にサインをさせられて、5人は緊張の中で板門店に入った。さすがに久恵も陽子も神妙な顔をしていた。今まで陽気にはしゃいでいた陽子でさえ静かである。
 明日は帰国の日、ソウルの町に帰って来ると、5人は再度明洞の町に繰り出した。お代わり自由のキムチだけで飲むものもいれば、サンゲタンや焼肉などを食べている者もいる。食の国韓国の夜を思い切り楽しんでいた。
 飲んでいるとき、久恵が光太郎に言った。
「明日は、どうするの。私達の後で帰るんでしょう?」
「うん、みんなを見送ってからしばらくしてから福岡の方に帰るよ。」
「そう、気をつけてネ。」
「うん、久恵さんもね。浜松に帰るんだよね。」
「ええ、そうよ。またウナギでも買って来るわ。」
「じゃあ、僕はまた蒲鉾かなあ。」
 そんな話をしている二人は、大室がじっと目を向けていることに気がつかなかった。
          −続く−