遭難記−02− 眼下には無数の島々が見えている。さすがに世界一島が多いと言われるインドネシアである。群青色の海に浮かぶ島々の景色は実に美しかった。俺は、それらの景色を見ながら飛行を続けた。 セスナの航続距離は650マイル(約1000Km)ほどだから、そろそろ引き返そうと思ったときである。突然エンジンの出力が落ちた。スロットルを押したり引いたりしてみるが、回復の兆しはなく高度がどんどん落ちている。俺は、離陸前に部品を持って首を傾げていた整備員のことが頭に浮かんだ。 そのとき悪いことに空が暗くなってきた。南方特有のスコールである。無線で緊急事態を宣言しようとしたが、高度が低く島影であることから応答はなかった。 前方には雲が広がっている。有視界飛行なので、雲の中に入ると大変である。俺は、雲の中に入らないよう徐々に高度を低くして行った。相変わらずエンジンのパワーは出ない。最終的に不時着を決心し、降りられそうな海岸を探した。 しばらく低空飛行を続けていると、海岸の砂浜が見えて来た。俺は、海岸近くの洋上に不時着することにした。 激しい振動と共に機体は着水した。幸い機体が大破することはなく、俺に怪我もなかった。浅瀬なので機体から出ると水の中を歩いて砂浜に上がった。そこはどうやら島のようで、海岸にはヤシの木が茂り、砂浜と共に延々と広がっていた。人の気配はなかった。 浜辺に座ると、俺は途方にくれた。取り敢えず生きて行くための食糧の確保が必要であるし、暗くなれば寝るところも確保しなければならないが、当面何をすれば良いのかわからない。 椰子の林に歩いて行くと、大きな実が落ちていた。何とか飲み物は確保できそうだが、割る手段がない。飛行機に非常脱出の斧やナイフがあるのを思い出して、工具などと一緒に取りに戻った。苦心惨憺したあげくやっとの思いで椰子の実を削って中の水を飲んだ。生き返る思いがした。 時計を見ると午後3時だった。そろそろ寝る場所の確保が必要である。南国なので寒さの心配はないが、雨を防ぐ必要があった。椰子の倒木と葉を利用して簡単な小屋のようなものを作った。その日は、その小屋で寝た。 寝ながらも、今後どうやって食料を確保しようか、どうすれば救助を求めたら良いかなどと考えると不安が募る。やっと寝たのは深夜だった。空には無数の星が輝いてきれいだったが、俺はそれどころではなかった。 ―続く― |