遭難記−06− 村の長は、隣の男達と何かを喋っていたが、俺には何を言っているのかわからない。隣に座っていた娘が、空になった俺のコップに酒を注ぐ。会話ができないのは不自由なものである。ゆっくりではあるが、俺は料理を食べながら飲み続けていた。 村の長や男達と目が合うと、俺はカンパイと言ってコップを持ち上げた。彼等も、カンパイと言ってコップを持ち上げて酒を飲んだ。カンパイが、初めて彼等と交わした言葉だった。 その後も、カンパイを続けながらの時間が流れた。男達は酒が強いらしく、饒舌にはなっていたが、酔い崩れる様子はなかった。さすがに俺は酔いが回ってウトウトしたらしい。男も女も、そんな俺を見ながら笑っていたが、いつしか意識を失っていた。 気が付くと、自分の小屋に寝かされていた。傍には、隣で俺に酒を注いでいた少女が寝台の横に座っていた。頭がズキズキしていた。彼女が、水甕から汲んだ水を、竹のコップに入れて差しだした。俺は、それを一息に飲んだ。彼女は、名前をモナと言った。村の長の孫娘だった。手振りで彼女が18歳であることを知った。南方なので色は黒いが、スタイルは抜群でセクシーである。再び眠って目が覚めると、彼女はもういなかった。 翌朝、目が覚めてぼんやりしているとモナが食べ物を運んできた。焼いた魚と蒸した芋と果物だった。二日酔いであまり食欲はなかったが、食べ物を喉に押し込んだ。そんな俺をモナは笑顔で眺めていた。 午前中寝台で寝ていたら、昼には昨日畑で出会った娘が食べ物を運んで来、夜には別の娘が食べ物を運んで来た。その後もそんなことが続いた。モナが付き添って来ることもあれば、他の娘が一人でやって来ることもあった。モナと彼女達は親し気に話をしているが、モナが他の娘たちを仕切っていることはその態度でわかった。 俺は村の散歩をすることにした。村には、広場を中心に2〜30軒の家があった。村の中心には幅10m程の小川が流れ、魚が泳いでいた。村からは、四方の畑に通じる道があった。広場を過ぎるとジャングルに入り、人がやっと歩けるほどの狭い道である。 畑に向かって歩いていると、後ろから足音が聞こえた。振り向いて見ると、モナだった。彼女は、俺に近付くと俺の腕を取った。顔は笑っている。俺は、彼女と腕を組むと、一緒に歩いて行った。 途中で彼女が指さす方を見ると、バナナやマンゴーのような果物があった。畑に着いてみると、そこにはタロ芋が植えられていた。彼等は、完全に自給自足の生活を送っているようだった。おそらく着ている麻の衣類も、自分達で作っているのだろう。 モナは、相変わらず俺と腕を組んだままだった。 ―続く― |