男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2026/07/10 0:21:40|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−03−
夜の訪問者−03−

 女は、注がれた酒を美味しそうに飲むと、話を続けた。
「お酒を飲んでも彼は紳士的だった。私は、安心していたの。その日はかなり飲んだわ。学生のときも飲んだことはあったけど、酔っ払うまで飲んだことはなかった。でもその日は何となく安心していたというか、男性と二人という興奮状態も手伝っていたのね。気がついたら、ホテルのベッドの中だったわ。彼は、目覚めたあたしに「好きだ。」と言ってキスをしてくれたの。」
 そこで俺はまた酒を注いでやった。女は話を続ける。
「あたしは、彼を好きになったわ。一度きっかけがあると、男と女が仲良くなるのは早いのね。ましてやあたしは男との付き合いもなく今までやって来たから余計にそうなのかもしれないのね。
 あたし達は、次第に逢う回数が増えて行った。あたしの方から誘うことも多くなったわ。その都度、彼と一緒に寝た。最初のうちはホテルだったけど、そのうちにあたしのアパートに来るようになった。やがて彼はあたしにとってなくてはならない存在になった。もちろん彼もあたしのことを好きだと言ってくれた。
 毎日、仕事に行くのが楽しみだったわ。あたし達が会う最初の時に、彼が『秘密だけは守ろう、僕達は上司と部下、そうしないと示しがつかないから。』と言ったの。だからあたし達のことは誰にも知られないようにしたわ。
 あたし達の関係が1年ほど続いたとき、社内で変な噂を聞いたの。彼がどこかのお嬢さんと結婚するっていうのよ。あたしは嘘だと思った。あんなに優しく愛してくれているのに、そんなはずがない。そんなことあるはずがないってね。
 ある日、トイレに入っていたら、隣の課の女の子達がお喋りしているのを聞いた。彼がかなりのプレイボーイで、社内外の女の子達をかなり泣かせているっていうのよ。どこそこの課の誰それは彼に捨てられて会社を辞めて行ったとか、別の女性はかなりの額の慰謝料をもらって別れたとか、内容が具体的なの。あたしはそれを聞いて大きなショックを受けたわ。」
 女は、そこまで言うと、グイッと酒を飲んだ。
           −続く−







2026/07/09 0:11:31|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−02−
夜の訪問者−02−

 1時間ほどしたときである、再び女の声がした。
「ねえねえ、起きなさいよ。食べ物を持って来たわ。」
起き上がって見ると、手に3段重ねの重箱を持っている。
「どうしたんだ?」
「駅前の料亭があるでしょう。あそこから失敬して来たの。」
「こんな時間にか?もう店は閉まっているだろう。」
「あたしは幽霊なのよ。ちょっとした隙間があれば、屋根裏からだって、どこからだって入っていけるわ。そんなことどうでもいいから早く食べなさいよ。お腹が空いているんでしょ。こうしてお酒だって持って来たんだから。」
「酒かあ、もうしばらく飲んでいないなあ。」
 女は、重箱を広げながら、盃を出すと、光義に徳利の酒を注いだ。
「うん、これはうまいや。いい酒だなあ。」
「そうでしょう、越の寒梅よ。普通に買えば高いのよ。ねえ、これも食べてよ。」
 女は、重箱から焼いた海老や、天ぷらなどを小皿に装って差し出した。光義は、それらをうまそうに食べていた。しばらくすると、お腹が落ち着いて来た。お腹が落ち着くと、何で彼女がここに出て来たのかが気になって来る。
「さっき、天国にも地獄にも行けないって言っていたけど、なぜなんだ。」
「あらっ、やっと聞いてくれたのね。それにはいろいろ事情があるの。」
「だから、その事情ってのを聴いているんだ。」
「そんなに急がないでよ。今から話すわよ。私はOLだったのよ。山梨の高校を卒業すると東京の短大に入ったの。短大を卒業して都内の会社に就職したわ。従業員100人程の建築会社よ。入社したときの上司の課長は33歳、こんなに若くて課長になったのは彼が社長の息子だったからよ。入社して間もないある日、私は残業の後で課長に食事に誘われた。短大は女子ばかりだったし、高校時代から女子高だったので、男性と二人だけで食事、しかも夜遅い時間なのであたしはドキドキしていた。その日は、食事だけで終ったの。
 それからは、何かと残業するように言われては、その後で食事に行った。何回目かに食事の後で飲みに行こうと誘われたの。私は、断れなかったというか、半分は期待もしていたのかしら、彼に着いて行ったわ。ねえ、あたしも少しいただいていいかしら。」
「あゝ、気がつかなくてすまんな。」
 光義は、盃を渡すと、女に酒を注いだ。
         −続く−







2026/07/08 4:30:53|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−01−

夜の訪問者−01−

「うらめしや〜。」
「・・・・・」
「うらめしや〜。」
「・・・・・」
「うらめしや〜」
「・・・・・」
「ねえねえ、あんた。うらめしや〜って言っているのが聞こえないの?」
「・・・・・」
「ねえ、聞こえているの?人が話し掛けているのに、何とかおっしゃいよ!」
「うるさいなあ、一体誰だよ、こんな夜更けに。」
「あたしは、幽霊よ。むこうを向いて寝ながら喋るって失礼じゃない。こっちを向いてちゃんと話したらどうなのよ。」
「うるさいなあ、俺はそんな元気はないよ。寝かしておいてくれないか。」
「そんな不精はダメ、ちゃんと起きてから話しなさい。」
「なんだよ、しつこいなあ。」
 光義は、ようやく蒲団から起き上がると、女の方に向いて座った。
 女は、白いネグリジェを着ていた。手をお腹のところではすに垂らし、長い髪は前に垂らしている。時折、頭を動かすと、髪の毛の間から顔が見えた。
「おっ、なかなかいい女じゃないか。」
光義が言った。
「あらっ、やっとわかってくれたのね。」
「でも、なんで俺のところになんか来たんだ。俺は貧乏こそしているけど、人から恨まれることなんかしていないぜ。」
「そうね、あたし、あんたに恨みなんかないわ。でも他に行くところがないのよ。」
「他に行くところがないからって、俺のところに来られて安眠を妨害されたんじゃたまらないぜ。」
「そんなこと言わないでよ。あたし、浮かばれないのよ。天国にも地獄にも行けずに、こうして彷徨っているのだから。」
「そんなこと言ったって、俺は迷惑だよ。それに昨日から何も食べていないんだ。」
「あらっ、若いのにそんな情けないことを言って、一体どうしたのよ。」
「どうしたもこうしたもないもんだ。俺は会社をクビになって、金がないんだ。」
「会社をクビになったって、今の時代、何をやっても食べてくらいは行けるでしょう。」
「あゝ、人材派遣にも登録したさ。でも何の特技もなく不器用な俺はすぐにクビになって、結局、今じゃ無職、無収入なんだ。このアパートの電気やガス、水道だって止められているんだ。」
「それで昨日から食べてないのね。」
「あゝ、だからもう行ってくれないか。喋るのも空腹に響くんだ。」
「あらっ、あたしだってせっかく出て来て、今更他にも行けないわよ。じゃあ、ちょっと待っていて。何か食べ物を探して来るわ。」
 そう言うと、女の姿がす〜っと消えた。光義は、面倒くさそうに布団に横になった。
          −続く−








2026/07/07 0:37:26|小説「春の行方」
春の行方−51−(最終回)
春の行方−51−(最終回)

 しばらく雑談を続けていたが、大室が「実は、君に報告したいことがあるんだ。」と言った。
「何?」
「実は、僕達、結婚をしようと思うんだ。」
「そうか、それはおめでとう。」
 光太郎の反応に、それまで何となくぎこちなかった二人に安堵の色が見えた。光太郎は続けた。
「俺、大室が久恵さんに好意を持っているのに気付いていたよ。最初は、張り合う気持ちもあったけど、今は心から祝福できるんだ。実は、僕も田舎の幼馴染みと結婚しようと思っているんだ。」
「そう、三永君が入院しているときに来ていた人ね。」
「うん、そうなんだ。」
「じゃあ、もう一度3人でお祝いの乾杯をしよう。」
大室はそういうと、新しいビールを3つ店員に注文した。
 そのとき、入口の方で新しい客が入って来て賑やかな声がした。見ると、陽子達寮の仲間だった。彼等は、すぐに光太郎達に気付いたようだった。
「なんだ、先輩達3人で抜け駆けですか。」
言ったのは、1年後輩の大石だった。
「別に抜け駆けってことじゃないけど、ちょっと3人で話があったのよ。」
 久恵の言葉に、陽子が言った。
「お話って、どんなことですか。良い、お話なの?」
「そうね、じゃあ言うわ。私、大室さんと結婚することにしたの。そして三永さんも結婚することになったんですって。」
すると大石が言った。
「ダブルのおめでたですか。じゃあ、今日の飲み代は3人の奢りですね。みんな、今日は安心して飲もうぜ。」
 途端に、席が陽気になった。
 6人のメンバーで賑やかに飲んだ。飲み会が終ったときは12時近くになっていた。課の飯岡の話を聞き、佳津枝に結婚を申し込んで以来、光太郎は深酒をしなくなっていた。
 このときもそんなに飲んではいなかった。
 寮に戻ると、早速佳津枝にメールを送った。
「夕方、無事に松戸に戻って来た。寮の仲間が結婚するそうだ。その話を聞いていたので、到着の報告のメールが遅くなった。僕も、佳津枝と結婚することを報告しておいたよ。そうしたら後輩達が店にやって来んだ。お陰様で、彼等の分まで支払わなくてはならなかったけどね。こうして部屋で一人でいると、無性に佳津枝のことが恋しくなるんだ。早く結婚したいね。
夏休みには、東京に来ないか。みんなに紹介したいんだ。楽しみにしているよ。
            光太郎」
 するとすぐに佳津枝から返事が来た。
「はい、夏の休みには是非東京に行きたいと思います。あれから考えてみたのですが、結婚は2年後くらいになりそうです。今の会社の仕事にキリをつけて、私が東京に行って光太郎君と暮したいと思います。そのときは、宜しくお願いしますネ♥
              佳津枝」
 日頃、使ったことがない♥マークに、光太郎の顔が思わずほころんだ。
 その日、明け方近くになるまで、二人はメールのやり取りを続けていた。窓からは、冬の冴えた月明かりが差し込んでいた。
            −完−







2026/07/06 4:58:31|小説「春の行方」
春の行方−50−
春の行方−50−

 しばらく間をおいて佳津枝が言った。
「私、子供の頃から願い事があると神様にお祈りしたの。神様は、私の願いを何でも聞いてくれたわ。きっと光太郎君の願いもきいてくれるわよ。」
 そして駐車場で人がいるにもかかわらず、光太郎に抱きついてキスをした。
 二人は車を移動させると、岬の方に歩いて行った。静かな入り江の海が、正月の太陽に輝いている。
「でも、まだいろいろしなきゃならないことがあるね。仕事をどうするかも決めなくちゃいけないし、ご両親にもお願いしなければならないし。」
「そうね、それはゆっくり相談しましょう。でも、これで目標は決まったわ。目標さえ決まれば、後は二人で色々な問題を解決して行けば良いのよ。まずは、それぞれの両親に報告ね。今晩帰ったらまず自分の両親に報告して、明日、二人揃ってそれぞれの両親にお願いするのよ。ただ、結婚の時期については、相談しなくちゃならないわね。私の仕事もあるし、今すぐにってわけにはいかないの。」
 光太郎は、今まで控えめだった佳津枝が、ここまでテキパキと話を進めて行くのに、目を見張っていた。佳津枝もまた、社会人になって大きく成長していたのである。光太郎は、佳津枝の横顔を不思議なものでも見るような目で見ていた。
 正月の太陽が、二人の背中を照らしていた。
 光太郎は、松戸の寮に戻った。去年は事故でできなかったが、久し振りに久恵のためのみやげも買った。部屋に戻って荷物の整理をしていたとき、玄関のチャイムが鳴った。出て見ると久恵だった。
「これ、浜松のおみやげ、相変わらず鰻よ。」
「そうか、ありがとう。僕も、蒲鉾だよ。」
みやげを交換した後で、久恵が言った。
「ねえ、お話があるんだけど、これからいつもの居酒屋に行かない?」
「うん、いいけど。」
「じゃあ、1時間後に。私、用事があるから先に行ってるわね。」
「うん。」
 光太郎は、話とは何だろうと思いながら、居酒屋に向かった。
 店に入ると、奥の方の席に久恵の姿があった。隣には、大室が座っていた。まだ飲んでいないらしく、テーブルには3人前の突き出しが置かれているだけだった。
「やあ、なんだ、大室も一緒だったのか。」
「うん、実は話があってね。」
「そうか、とりあえずビールにしようか。」
「そうだね。」
 3人は、ビールで乾杯した。
「スキーはどうだった?」
光太郎が聞いた。
「うん、相変わらずさ。けっこう楽しかったよ。去年は大変だったね。」
「迷惑を掛けたけど、神様がもう止めろと言ったのかも知れないね。でも、スキーは初めてだったし良い経験をさせてもらったよ。」
「三永君も、楽しいお正月だったのでしょう。」
「うん、お陰さまで。」
 そのとき、大室はしきりに何か言いたそうにしていた。
         −続く−