男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2026/07/14 18:34:45|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−08−
夜の訪問者−08−

 光義は、初めて聞くあの世の世界の話を興味深く聞いている。
「ええ、恨みの残して死ぬと大変なのよ。でも、そうでなくて天寿を全うして死んだ人は幸せだわ。年金は出るし、蓮の花の上でゆったりと暮らしているのよ。」
「ふ〜ん、それじゃあ幽子だって恨みを晴らせば良い生活ができるんだろう?」
「そうね、私は騙された以外にはそんなに悪いことはしていないから恨みさえ晴らせば、きっとあの世で成仏できると思うわ。」
「そうか、それじゃあ、あいつ・・・、おっとっと名前も聞いていなかったな。そのあいつに仕返しをしなけりゃな。」
「そうね、あなたにはあいつの名前も言っていなかったわね。あいつは黒岩建設の部長、と言ってもつい先日部長になったばかりなんだけど、黒岩利之って言うの。私に何をしたかは、この間話したとおりだわ。」
「そうか、黒岩利之だな。ところで、どうすればいいんだろう?」
「それをあなたに考えて欲しいのよ。」
「冗談じゃないぜ、俺は、そいつに何の恨みもないんだぜ。なんで俺がそんなことを考えなくちゃならないんだ。」
「あらっ、それはないんじゃない。あたしは、あんたが飢え死にしそうなときに、食事を運んで来てあげたのよ。もしあたしが食事を運んで来なきゃあ、あんたは今頃この布団の中で飢え死んでいるのよ。」
「そりゃあ、そのことについては感謝しているよ。でも、それとこれじゃあ問題が違うじゃないか。食事は昨日、今日のことだけど、お前の恨みを晴らすかどうかは一生の問題だからねえ。」
「あらっ、同じだわ。どっちも人の生死に関係することだもの。」
「う〜ん・・・・・」
 光義は、返事に困ってうなった。結局その夜も、2人は問題解決の糸口さえ掴むことができないまま、明け方を迎えることになった。
          −続く−







2026/07/13 18:40:20|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−07−
夜の訪問者−07−

 次の日、光義は朝から何もしないで寝ていた。昨夜、久し振りに美味しい食事をし、美味しい酒も飲んだ。でもそれが果たして夢なのか現実なのかがはっきりしない。それは、今晩幽霊の彼女が出て来るかどうかではっきりする筈である。
 光義は、夜になるのが待ち遠しかった。何も食べず、話し相手もいなくて寝てだけでいるのは大きな苦痛である。
 夜の7時になり、8時になっても幽霊は出て来なかった。9時になっても出て来ない。やっぱり夢だったのかと諦めて寝ることにした。
 やっと寝付いた頃、「うらめしや〜。」と言う声が聞こえた。
「なんだ、遅いじゃないか。」
光義が言った。
「あんた、いい加減にしてよ。あんたが何か食べ物を持って来いなんていうものだから、あたしは頑張ってレストランの厨房から持って来たんじゃない。あたし達は、明るいときは外に出られないのよ。暗くなってから食べ物を集めてここに来るには、遅くなっても仕方がないじゃないの。そのくらいわかってよ。」
「そうだったのか、ごめん、ごめん。」
 そういう光義に、幽霊の女はワインの栓を抜いてグラスに注いだ。
「ところで、名前を聞いていなかったけど、君の名前は何って言うの?」
「あらっ、そうだったわね。私、幽子って言うのよ。幽霊の幽に子供の子って書くのよ。」
「ふ〜ん、変な名前だけど、それってこの世にいたときからの名前なの?」
「違うわよ。そんな名前を付ける親なんかいないわ。生きているときには菅原裕子って言っていた。でも死んだとき、あの世の入り口で「幽子」って名前を付けられたけど、これは仮名なの。これで成仏できれば、ちゃんとした名前、戒名が与えられるのよ。」
「そうか、死んでからも大変なんだねえ。」
 光義は、同情するようにそう言った。
         −続く−







2026/07/12 20:54:54|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−06−
夜の訪問者−06−

 女の話は続いた。
「あたしもねえ、こうしてあんたみたいないい人といられるのはいいのだけど、いつまでも宙ぶらりんじゃあの世で待っている両親だって心配するわ。そうそう、言っていなかったけど、両親はあたしが小さい時に死んで、叔父さん夫婦に育てられたの。」
「そうか、苦労したんだな。」
「そうよ、小学校に入る前に両親が交通事故で死んで、叔父夫婦のところに引き取られたけど、叔父夫婦っていうのが欲張りというかケチだったの。学用品も満足に買って貰えなかったのよ。でも叔父夫婦には実の子がいなかったから、差別されることはなかった。アッ、でもこんな話をしても仕方がないわ。とにかく両親はすでに天国なのよ。きっと私を待っているわ。それなのにこんなところを彷徨っていたんじゃ、両親にも会えないのよ。」
「じゃあ、恨みを晴らせばいいんだな。」
「そうなの、お願いできる?」
「う〜ん、でもできるかなあ?」
「嫌だって言えば、私、あなたに恨みを晴らすわ。」
「おいおい、そんなことはよせよ。俺はお前には何も悪いことをしていないんだぜ。」
「あたしだって、誰かに恨みを晴らさなきゃずっとこのままでいなきゃならないのよ。そんなことできないわ。そうなったら誰でもいいから恨みを晴らすの。」
「冗談じゃない、そんなことされてたまるものか!」
 光義は、大きな声で言った。話をしているうちに、外が白み始めて来た。
「あたし、帰らなくっちゃ。」
「もう帰るのかい?せっかく知り合いになれたのに。」
「さっきも言ったように、あたし達は、昼間はこの世界にいられないのよ。明日の夜暗くなったらまた来るわね。」
「頼むから、また食べ物を持って来てくれよ。」
 その返事を聞く前に、彼女は襖の向こうに消えて行った。
           −続く−







2026/07/11 20:04:48|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−05−
夜の訪問者−05−
 
 女は話を続けた。
「だからこうしてここに出て来たんじゃない。でなければ、こんな汚いところになんか出ないわよ。今までは寒かったりしたから遠慮していたけど、やはり夏になると出なくちゃいけないの。でないと、仲間から怠け者だって言われてしまうわ。」
「ふ〜ん、幽霊にもシーズンがあるのか。」
「当り前よ。昔から冬の寒い時に厚着をして出てきた幽霊って見たことがないでしょう。」
「たしかに、そりゃあそうだな。」
「それはいいから、もっと飲んで食べてよ。昨日から食べていないんでしょう。」
「だって、ここで死んだなどと言われては食欲もなくなるよ。」
「あらっ、当人が目の前にいるんだから大丈夫よ。幽霊でも実際に話してみると情が湧くものよ。生きている人間より、余程情が深いわよ。」
「そうかも知れないなあ。こうやって恨みを忘れずに出て来るくらいだからな。でも、こうしてずっと彷徨っていなけりゃあならないの?」
「そうね、現世に恨みを残している限り、あの世で受け入れてくれないの。天国にも地獄にも行けずに、こうして彷徨っていなければならないのよ。」
「恨みを消す方法ってないの?」
「それがないのよ。死ぬときに持っていた恨みは、ずっとそのまま残るの。でもひとつだけ方法があるわ。それは恨みの対象に復讐をすることなの。でもあたしには霊はあっても身体がないでしょう。だから彼に手を下すことができないの。せめて「恨めしや〜」と言って脅かすくらいしかできないのよ。」
「それはやってみたの?」
「ええ、何度か。でも駄目なのよ。まず、彼のマンションはここと違って完全に密封状態だから、出入りするのも大変なの。それに他の人がいる前で出ると他人に迷惑をかけることになるから一人になったときに出ようと思うでしょう。でもなかなか一人にならないし、いつも帰って来るのは明け方近く、こっちが帰らなければならない時間なのよ。あたし達幽霊は、昼間は消えなければならないの。これに違反するとひどい目に遭うのよ。結局、2、3回チャンスはあったけど、彼は気付かないままだったわ。」
「なるほどねえ・・・」
 光義は、腕を組んで話を聞いていた。
          −続く−
 







2026/07/10 21:58:09|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−04−
夜の訪問者−04−

 更に、女の話は続いた。
「次に会ったとき、あたしは彼に結婚するという噂は本当かと聞いた。彼は知らない、根も葉もない噂だろうと言って、あたしを抱いたわ。だからあたしは、ほかの女との噂のことは聞かなかった。おそらくあたしの心の中に聞きたくないという思いもあったのね。
 それから一か月ほどしたとき、私は体の異変に気がついたの。生理がないのよ。しばらく悶々としていたけど、2週間たっても3週間たってもないので、とうとうお医者さんに行ったの、そしたら妊娠しているって言うの。私は、すぐに彼にそのことを告げた。ところが彼は、堕せって言うのよ。絶対に産んではいけないと言うの。私が産みたいというと言うと、殴られたわ。堕すのなら金は出してやるけど、そうでないとこれきり別れると言い出したの。あたしは産もうと思った。あたしの体の中に宿った命、これは母親のあたしのもの、これを死なせる権利はないと思ったわ。あたしは彼に、別れてもいいから産むと言った。彼はしばらく考えていたけど、わかったと言ったの。そしてまた来るからと言って帰って行ったわ。
 次に来たとき、彼はいつになく優しかった。お腹の子供は順調かなどと聞いたわ。あたしは順調よと答えた。彼が、ワインを買って来たから飲もうと言った。あたしは赤ちゃんのことが気になったけど、せっかく彼がそう言ってくれるので飲んだわ。
 実は、記憶はそこまでなの。気がついてみると、あたしは心が身体から離れていた。つまり死んでいたというわけよ。きっと眠り薬か何かを入れられて、その後でドアのノブに紐を引っ掛けて自殺に見せたのね。」
「そんなこと言ったって、警察は調べなかったのかい?」
「一応、調べるには調べたけど、自殺で片づけられたわ。解剖もされたけど、妊娠を苦に睡眠薬と首吊りで自殺したのだろうということになったみたい。」
「で、奴はどうしたんだい?その課長とかいう奴。」
「噂のあったどこかの社長令嬢と結婚するみたいよ。あたしは、霊が宙ぶらりんだからどこにでも行けるの。一番いい情報源は、やはり女子トイレね。昔はお茶くみ場などがあったようだけど、今じゃそんなものないでしょう。それと昼間の会議室、そこにはOL達が集まってお弁当を食べたりするでしょう。あのときの噂話なんか、なかなか普段は聞けないような会話が飛び交っているわ。」
「ところで、君が殺されたというアパートはどこにあったの?」
「ここよ!」
「エッ?」
「ここよ、この部屋。そこのノブに首を引っ掛けて死んでいたのよ。」
「え〜〜〜ッ!」
 光義は恐怖で腰を抜かしそうになった。幽霊を見てもさほど怖いとも思わなかったが、実際にここで人が殺されたと思うと背筋が寒くなった。手酌で酒を注ぐと2、3杯立て続けに飲んだ。
            −続く−