赤い糸・白い糸−42−
「おや、これはどうしたんだろう。白い糸が変な形で結べませんよ。」 「どうしました? 赤い糸は真っ直ぐですけどねえ。」 お互いに赤い糸と白い糸を持ち寄った佐賀の神様と、大分の神様が話し合っている。 「この佐賀の男の糸が、細く変形しているんですよ。」 「どうしたのでしょう。ちょっとタグを見てみましょう。」 そう言って、佐賀の神様はタグを確認した。 「あっ、こりゃあいけない。年収が”不安定”とある。これじゃあ、結婚しても食べて行けないよ。」 その頃、地上では・・・・・
ここは福岡のある町、三郎は瑞江と飲み屋街の片隅の小さなアパートで同棲をしていた。 三郎は佐賀から出て来て、大学卒業後一時期福岡でサラリーマンをしていたが、学生時代からの小説が書きたいという夢が忘れられなかった。いろいろな雑誌などに投稿していた。瑞江は、同じ会社のOLだったが、そんな三郎の夢を追いかける姿に憧れて同棲を始めた。同棲を始めて3年目、とうとう三郎は会社を辞めた。会社を辞めるときには、瑞江も賛成した。 やっと夢が叶った三郎は、小説を書くことに必死になった。書いては出版社に持って行ったが、編集者はちょっと目を通しただけですぐに原稿を返した。「うちではちょっと扱いかねますので、他を当られたらいかがでしょう。」と言った。 新聞社も含めていくつか回ったが、返事は皆同じであった。アマチュアとしてはそれなりの出来でも、プロの小説家となると甘くはなかった。たちまち生活が苦しくなった。瑞江は会社勤めを続けていたのだが、収入は少ない。二人で食べて行くのがやっとである。僅かばかりあった貯金も、たちまち底をついた。 それまで優しかった瑞江が、次第に愚痴をこぼすようになった。 洋服が買いたいけど買えないとか、夏の暑いときなどエアコンを欲しがったがそれさえも買えないなどとしきりにこぼしている。親の許しを得ないで同棲していることから、親に経済的支援を求めることもできない。三郎が小説に行き詰っているときに、そんな愚痴を聞かされるのはたまらなかった。必然的に喧嘩になる。そして三郎は酒を飲むようになっていた。 三郎は元々酒が強い方ではなかった。缶ビールを1本も飲めば酔っ払う程度であったが、飲むに従って強くなって行った。小説が売れないことと、瑞江の愚痴や小言で酒量が増えて行った。そんな三郎に、瑞江は次第に愛想をつかすようになった。 この日も仕事から帰って来ると、三郎が言った。 「おい、酒はないのか?」 「だって、朝はまだウィスキーが残っていたでしょう。」 「あんなのちょっとしかなかったよ。」 「だって、給料日前なのよ。お金があると思ってるの?」 「そんなことを言っても、酒を飲まないとアイデアも浮かんで来ないんだ。買って来いよ。」 「お金が無いと言ってるでしょう。」 「馬鹿野郎!買って来いと言ったら買って来い!」 こんな調子で喧嘩が始まり、口をきかない日が続く。 三郎は、手元にあるものを質屋に持って行っては安酒を買って来て飲んだ。 そんな三郎に愛想をつかして瑞江がアパートを出て行ったのはそれからしばらくしてのことだった。 その頃、神様達は・・・・・
「やっぱり無理でしたねえ。」 「そうですね、今の世の中はお金がなければ生活して行けないですものね。」 「この不景気、三郎のようでなくても、失業者とかが多いから大変ですよね。」 「そうですねえ、結婚しないだけでなく、できない人も多くなりそうですね。」 「これって政治の貧困でしょうか?」 「政治の責任もあるけど、真面目に働こうとしない者もいるのでしょうね。」 「そうですねえ、だんだん人間が弱くなっているような気がするのですが、いかがでしょう?」 「僕も、そう思います。景気の良い時代に育った人は、ちょっとした逆境に弱くなっていますよ。」 「そうは言っても、結婚してくれる人間がいないことにはこっちも生活が大変です。ボーナスも減ったんじゃ、子供にお土産のひとつも買って帰れなくなってしまう。」 「さあ、こうしてもいられません。もう少しで今月も終り、頑張らなくては。」 そんな話をしていた神様達は、また持ち場に戻って行った。 「秋田さん、こちらは25歳OL、二人姉妹の妹、早く白い糸をお願いします。」 「はいはい、新潟さん。これはいかがでしょう。28歳のサラリーマン、年収は350万円、これなら良いでしょう。」 「よっしゃ、結んじゃいましょう。」 今まで、いろいろなトラブルのあった事例を紹介して来たが、多くはこんな風に順調に結ばれている。ただ「○○君と、△△さんは家族や友達にも祝福され、幸せな結婚をした。」というような順調な話は読む方も面白くないので、問題のある事例を紹介して来ただけである。 神無月も月末になると、神様達もノルマに追われる。順調な話がどんどん結ばれて次々と幸せなカップルが誕生して行っている。 −続く− |