男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2026/07/19 17:48:20|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−13−

夜の訪問者−13−

 その夜のことである。やって来た幽子が、いきなり言った。
「あなた、今日はやったわね。素晴らしかったわ。」
「あれで利之に効果があったんだろうか?」
「あったなんてものじゃないわ。大ありよ。あいつ、午後から部下に怒鳴りっぱなしだったわ。あんたの言ったことが、相当堪えたのね。」
「そうか、それは良かった。明日も行って来るかな。」
「それはやめておいた方が良いわ。」
「だってそれじゃあ・・・・・」
「いい、聞いて。あんたは、彼を尾行するのよ。しかも見えないように気を付けているふりをしながら、実際は彼の目に入るように後を付けるの。そうすれば、彼の恐怖心は益々大きなものになると思うわ。」
 この日の、料理は中華だった。横浜の中華街の何とかというレストランから失敬して来たとかで、ツバメの巣のスープ、北京ダック、ふかひれの煮付け、鯉の揚げ物など宮廷料理さながらである。酒は、高級な老酒だった。
「たまには、コンビニのおにぎりが食べたいものだ。」
 光義は、声に出さず口の中でそっと呟いた。
 その後も散々飲んだ後で、明け方近く幽子はフラフラになって帰って行った。

           −続く−








2026/07/18 17:44:31|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−12−
夜の訪問者−12−

 翌日、光義はリサイクルショップに行って、背広の古着と帽子を買った。刑事コロンボを真似てコートも買おうかと思ったが、夏にコートはいらないのでやめておいた。店で買ったものに着替えると、今まで着ていた物を預かって貰い、今度はアメ横に行って、警察手帳のレプリカを買った。そしてその足で、利之の会社に向かった。
 時間は、ちょうど昼休みに入ったところである。ちょっと待っていたら、利之が数人の仲間と一緒に出て来た。光義は尾行をして行った。そして彼らの食事中、外で待っていた。彼らが食事を終えてレストランから出て来て、会社の近くまで戻って来たとき、利之に近付くと、「黒岩さんですよね。すみませんが、ほんの数分だけ話を聞かせてください。」と言って、警察手帳のレプリカを見せた。利之は、「みんな先に行っていてくれ。」と言って、光義に着いて来た。二人きりになったところで、光義が言った。
「突然、すみません。実は、菅原優子さんが亡くなった事件について、検察の方から再捜査を命じられましてねえ。あなたからも、もっと事情をお聞きしなければならなくなると思うので、ちょっとお知らせしておこうと思いまして。」
「だって警察も、あの事件は自殺で何の疑問もないって言っていたじゃないか。」
「それはそうですが、検察のお偉いさんの誰かがどうも不自然な点があるって言っているみたいなんですよ。担当刑事の私も、まだ詳しくは教えられていないんですけどねえ。」
「そんなバカな、何を今さら。」
「時間を取らせまして申し訳ありません。遠くへの出張とかはないですよね。警察においでいただく場合には、こちらから連絡致しますので、そのときはよろしくお願いしますよ。」
 それだけ言うと、光義はさっさと後ろを向いて歩いて行った。
           −続く−







2026/07/18 5:12:10|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−11−
夜の訪問者−11−

 幽霊になれという、幽子の言葉に驚いた光義が言った。
「冗談じゃないぜ。俺は、まだ死にたくなんかないよ。」
「そうじゃないのよ。あなたが利之の前に幽霊の姿で出るの。」
「それなら、お前が出ればいいじゃないか。俺の前にさえ平気で出ているんだから、恨みのある利之の前に出られないことはないだろう?」
「それが駄目なのよ。あいつ、夜は飲み歩いているの。あたし達幽霊は、人ごみとか大勢の前には出られないの。利之は、いつも誰かに囲まれているわ。だから出づらいのよ。」
「そうか。」
「そうなのよ、四谷怪談のお岩だって、牡丹灯篭のお露だって、銀座の雑踏にゃ出て来ないでしょう。みんな恨みにかこつけてでしか出歩けないのよ。」
「ふ〜ん、幽霊も大変なんだなあ。」
「仕方がないから、私がまた幽霊として出るかなあ。」
「そうだよ、そのままで良いんだからいいじゃないか。それに、あいつの前に出るのが大変だからって、俺のところに出るなんてお門違いだぜ。」
「でも、それであなたも助かったんだからいいじゃない。」
「俺さあ、ちょっと考えたけど刑事になって脅かすってのはどうだろう。お前の死んだ事件に疑問が残るから、再捜査を始めたって言うんだ。」
「それは良いわ。じゃあ、私の幽霊とあなたの刑事の二本立てで行きましょう。」
 そこまで決まったところで、幽子が光義の盃に並々と酒を注いだ。更に細かい打ち合わせをしていたとき、どこかで飼っている鶏の「コケッコー!」という鳴き声が聞こえた。
「夜が明けるわ。帰らなくっちゃ!」
 幽子は、慌てて襖の隙間から消えて行った。
            −続く−







2026/07/16 17:28:24|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−10−
夜の訪問者−10−

 幽子の恨み相手の利之は、電車に乗り、渋谷で降りると駅前の喫茶店に入った。そこで彼女を待っているようである。
 しばらくして彼女がやって来た。
「利之さんし待った?」
「いや、今来たばかりだよ。」
「そう、良かったわ。」
 二人は、コーヒーを飲むと、店を出た。
「ねえ、映画でも見に行こうか。」
「ええ、いいわ。」
 二人は、仲良く手を繋いで歩いている。光義は、どうすれば二人の邪魔ができるかと考えていた。しかし、どうして良いかわからず、結局その日は諦めて帰って行った。
 その夜、現れた幽子がいきなり言った。
「あんたって、本当に役立たずね。何にもしなかったじゃないの。」
「なんだ、見てたのか。」
「そりゃあ、見てたわよ。昼間は姿こそ現わせないけど、見ることはできるのよ。」
「だけど、どうして良いかわからなかったんだよ。」
「それにしても、あんたはもうちょっと頼りになる人かと思っていたけど、情けないわねえ。」
「そんなに言うなよ。俺だって、幽霊の手助けをするのは初めてのことなんだぜ。」
「わかったわ。じゃあ、食事をしてから相談しましょう。」
 そう言ってから、幽子は食べ物と酒の入った包みを開いた。今日は、築地の何とかいう老舗料理屋の和食である。酒は新潟の銘酒、次第に舌の肥えて来ている光義も、舌鼓を打ちながら食べて飲んだ。
 しばらくは飲みながら食事をしていたが、幽子が真剣な顔をして言った。
「ねえ、あなたが幽霊にならない?」
光義はびっくりした。
             −続く−







2026/07/15 20:46:06|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−09−
夜の訪問者−09−

 3日目の夜がやって来た。
 幽子は、手にオードブルの入ったバスケットを持っている。
「あなた、ワインも好きみたいだから今日もワインにしたわ。」
「そうか、いつもすまないなあ。」
「いいのよ、それで急な話だけど、あいつが明日彼女とデートをするみたいなの。何とかその邪魔をしたいのよ。あなたにその邪魔をして欲しいのよ。あたしは、昼間は活動できないから。」
「ふ〜ん、それでどうすりゃいいんだ?」
「そうね、どこに行くかわからないから、尾行して行って邪魔をするの。」
「そう言ったって、俺には金がないんだぜ。尾行だって容易じゃないよ。」
「お金は何とかするわ。銀行に行けば、何とかなるわ。」
「俺には預金なんかないし、強盗なんか嫌だぜ。」
「心配しないで、そこはあたしが何とかするわ。」
そう言うと、ス〜ッと姿を消した。
 1時間ほどして幽子が帰って来た。手には紙袋を持っている。そこから100万円の札束を3つ差し出した。
「こんな大金、どうしたんだ。」
「銀行の金庫から借用して来たのよ。金庫は密閉されているから大変だったのよ。ちゃんと自分の口座番号と借用書も書いて置いて来たわ。」
「明日になったら銀行の連中も驚くだろうな。」
「大丈夫よ、あたしだってそれなりの預金はあったんだし、その中からほんの一部を返してもらっただけなんだから。」
 それから二人で飲んだ。幽子もかなり飲んでいた。明け方になって、幽子はフラフラしながら襖の隙間から帰って行った。
 翌日、光義は、幽子から教わったとおり、黒岩利之の家の前で待った。しばらくすると利之が家から出て来た。光義は、利之の後をつけた。利之は、顔を知らない光義の尾行に気付いている様子はなかった。
           −続く−