蛍―16―
私達は、獣道のような狭い道を川沿いに沿って下って行った。辺りは、次第に暗くなっていく。私は、鎌や鉈を手に道の両脇の木や草を払いながら、進んで行った。帰りのことを考えると、小径を啓いておく必要があった。 1時間近く進むと、川が広くなり流れが緩やかになっている場所に出た。美紀が言った。 「ここです、もうすぐ蛍が出て来ます。」 私は、川の傍の草を払うと、レジャーシートを敷き、美紀と並んで座った。私は、リュックら酒を取り出して、美紀と私の紙コップに注いだ。二人は、ゆっくりと飲みながら、蛍が出て来るのを待った。 7時を過ぎたとき、美紀が川の向こう岸を指差して「あっ、あそこに!」と言った。指差した先を見ると、ひとつの小さな光が点滅をしながら飛んでいた。 それからは次々と光の点滅の数が増えた。30分もすると、辺りが明るくなるのではないかと思われるくらいに蛍の数が増えた。それは、とても幻想的な光景だった。こんな山奥の川にたくさんの蛍がいるのが不思議だった。私も美紀もそんな様子に見惚れて無言だった。 しばらくして私が言った。 「こんなにたくさんの蛍は初めて見たよ。今日はありがとう。」 「私も久し振りです。ここ何年かは来ていませんでした。三嶋さんと一緒でなければ、今年は来なかったと思います。」 「それにしても、凄い数の蛍だね。家の近くの川にも蛍はいるけど、10匹もいればよい方で数はずっと少ないよ。」 「子供の頃は両親に連れられてよく見に来ましたが、大人になってからは何年かに一回見に来るだけになりました。」 「お父さんやお母さんはどうしているの?」 「亡くなりました。」 「そう、悪いことを聞いてしまったね。」 「いいのです。蛍を見ていると、両親のことを思い出します。」 しばらく蛍を見てから、洞窟に帰ることにした。周囲は真っ暗である。来るとき切り開いた道を戻るので今度は歩きやすかった。私は、前方を懐中電灯で照らしながら歩いて行った。 帰りは、30分ほどで洞窟に着いた。小さくなっている焚火に枯れ枝をくべると、洞窟が明るくなった。私達は、並んで焚火の傍に座った。 「いや〜、本当に感動的だった。あんなにたくさんの蛍の光を見たのは初めてだ。幻想的と言うしかなかった。今日は本当にありがとう。」 「喜んでいただけて良かったです。」 私は、美紀を抱き寄せると、キスをした。 ―続く― |