男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2026/05/13 5:56:05|小説「蛍」
蛍―16―
蛍―16―

 私達は、獣道のような狭い道を川沿いに沿って下って行った。辺りは、次第に暗くなっていく。私は、鎌や鉈を手に道の両脇の木や草を払いながら、進んで行った。帰りのことを考えると、小径を啓いておく必要があった。
 1時間近く進むと、川が広くなり流れが緩やかになっている場所に出た。美紀が言った。
「ここです、もうすぐ蛍が出て来ます。」
 私は、川の傍の草を払うと、レジャーシートを敷き、美紀と並んで座った。私は、リュックら酒を取り出して、美紀と私の紙コップに注いだ。二人は、ゆっくりと飲みながら、蛍が出て来るのを待った。
 7時を過ぎたとき、美紀が川の向こう岸を指差して「あっ、あそこに!」と言った。指差した先を見ると、ひとつの小さな光が点滅をしながら飛んでいた。
 それからは次々と光の点滅の数が増えた。30分もすると、辺りが明るくなるのではないかと思われるくらいに蛍の数が増えた。それは、とても幻想的な光景だった。こんな山奥の川にたくさんの蛍がいるのが不思議だった。私も美紀もそんな様子に見惚れて無言だった。
 しばらくして私が言った。
「こんなにたくさんの蛍は初めて見たよ。今日はありがとう。」
「私も久し振りです。ここ何年かは来ていませんでした。三嶋さんと一緒でなければ、今年は来なかったと思います。」
「それにしても、凄い数の蛍だね。家の近くの川にも蛍はいるけど、10匹もいればよい方で数はずっと少ないよ。」
「子供の頃は両親に連れられてよく見に来ましたが、大人になってからは何年かに一回見に来るだけになりました。」
「お父さんやお母さんはどうしているの?」
「亡くなりました。」
「そう、悪いことを聞いてしまったね。」
「いいのです。蛍を見ていると、両親のことを思い出します。」
 しばらく蛍を見てから、洞窟に帰ることにした。周囲は真っ暗である。来るとき切り開いた道を戻るので今度は歩きやすかった。私は、前方を懐中電灯で照らしながら歩いて行った。
 帰りは、30分ほどで洞窟に着いた。小さくなっている焚火に枯れ枝をくべると、洞窟が明るくなった。私達は、並んで焚火の傍に座った。
「いや〜、本当に感動的だった。あんなにたくさんの蛍の光を見たのは初めてだ。幻想的と言うしかなかった。今日は本当にありがとう。」
「喜んでいただけて良かったです。」
 私は、美紀を抱き寄せると、キスをした。
          ―続く―







2026/05/12 3:26:54|小説「蛍」
蛍―15― 
蛍―15― 

 4月も半ばになると、木々の葉も次第に勢いを増して、新緑が深緑に変わっている。
 この頃になると、蕗の薹や、タラの芽、コシアブラ、わらびやゼンマイなどの山菜が採れる。美紀は、そういう場所にも詳しく、私を連れて行ってくれた。
 山菜が美味しいのは何と言っても天婦羅である。私は、何とか天婦羅にして彼女に食べさせたいと思った。フライパンの代わりには鍋を使うとしても、油や薄力粉、卵とそれを溶くためのボールなどは必ず必要だったし、山菜だけでは寂しいので魚やエビなどがあった方が良い。
 私は、川に行って採って来た山菜を水に活けて新鮮さを保つようにし、美紀と2日後に会う約束をした。
 翌日、翌々日と、私は天婦羅に必要な物をスーパーで買っては山に運んだ。
 約束の日、洞窟に行くと、美紀が先に来て、焚火や竈の火を熾していた。
 私は、川から活けておいた山菜を持って来たり、エビの皮や背ワタを抜いたり、薄力粉をボールで溶いたりと忙しく天婦羅の準備を進めた。竈の鍋には、油をたっぷりと入れた。
 粉を付けた素材をたぎった油に入れると、ジューッという音と共に油が跳ねる。エビ、魚、タラの芽、コシアブラの他、マイタケ、シメジ、平茸などキノコもコロモを付けては油の中に入れた。すぐに鍋の中の油は、素材でいっぱいになった。この間、美紀は大根おろしを作って深皿に入れている。
 焚火は、火の調節が難しい。私は、鍋の高さを変えながら火の具合を調節した。しばらくすると、衣がきつね色になった。私は、良い色になったものから美紀の皿に入れた。彼女は、ふうふうと吹きながら、それを口に入れた。
「美味しいです。」
 彼女の笑顔に勇気付けられて私も食べてみたが、なかなかの出来だった。
「マアマアだね。良かった。どうなるかと思っていたんだ。」
「三嶋さんは、料理名人です。」
「そんなことはないけど、ここで食べるから美味しいのだろうね。それに君と一緒だから。」
「まあ!」
彼女は驚いたような声を出したが、その目は笑っていた。
 私達は、天婦羅でお腹がいっぱいになると、焚火の横で酒を飲みながらゆったりとした時間を過ごした。
天婦羅を作ることは、洞窟の生活では一大イベントだった。私も美紀も、大きな事業をなし終えたような満足感に浸っていた。
 次のときから、また平凡な日が過ぎて行った。
 初夏になった。山の木々は、次第に緑を濃くしていた。そんなある日、一緒に洞窟にいた美紀が言った。
「ねえ、蛍を見に行きませんか。」
「この辺に蛍が出るの?」
「ええ、この川の下流にいけばたくさんいます。それはきれいです。」
「行こう、行こう。是非、見たいよ。」
 夕暮れになって、私達は、懐中電灯を持って川を下った。
          ―続く―







2026/05/11 4:49:18|小説「蛍」
蛍―14― 
蛍―14― 

 この頃には、美紀も酒が飲めるようになっていた。ワンカップや缶ビールなら1本程度は平気である。飲むと陽気になる。私に抱き着いてキスをしたりして積極的になった。私は、そんな彼女と飲むのが好きだった。
 私達は、飲みながら雑煮を食べた。雑煮が終わると、乾き物で飲む。私は、ウィスキーのポケット瓶を取り出すと彼女と自分のカップに注ぎ、彼女のはお湯で割った。
 ゆったりとした時間が流れていく。お互い多くは喋らないが、幸せな時間だった。
 私達は、昼前に洞窟を後にして、家路についた。
 家に帰ると、することがなかった。一人、テレビを見ながら飲んでいたが、心の中は空白だった。
 1月が過ぎ、2月が過ぎて、3月の彼岸が過ぎて、日が長くなった。1月や2月には、雪が降る日もあったが、私は毎日のように山と洞窟に行った。美紀は2、3日に1回の割でやって来た。子猿の小太郎も、毎日のように姿を現した。
 4月になった。木々は新しい芽を吹き、山の自然にも活気が見られるようになった。
 洞窟の近く、夏に泳いだ滝のところに大きな山桜があって、見事な花が淵に覆いかぶさるように咲いていた。私は、美紀とこの下で花見がしたいと思った。彼女に話すと、楽しみですと言う。
 その日、私は酒とレジャーシートを、美紀は竹輪やこんにゃく、大根、茹で卵などが入ったおでんを持って来た。滝のところで石を組んで火を熾し、おでんの入った鍋を載せた。焚火の傍にレジャーシートを敷いて、二人で並んで座った。仰向けになって上を見上げると、桜の花が覆いかぶさるように咲いている。
「見事だねえ。」
「きれいです。」
「でも、君のきれいさには敵わないよ。」
「まあ・・・・・」
 彼女が、私に抱き着いてキスをした。私は、彼女を抱き寄せて、キスを返した。
 そのうちに鍋がグツグツと煮立ってきた。子猿の小太郎は、火から少し離れたところに座っている。
 私達は、紙皿におでんを取って食べた。おでんは出汁が効いていて美味しかった。
 美紀が、竹輪を口で吹いて冷ましてから小太郎に与えた。小太郎は、恐る恐るそれを眺めていたが、私達が食べているのを見ると、安心したように口に入れた。あっという間に食べると、再び欲しそうに美紀の目を見詰めていた。
 美紀と私、小太郎の楽しい時間が過ぎて行った。日が長くなったとはいえ、谷あいの陽が陰るのは早い。3時になると、私達は後片付けをして洞窟に戻った。
 酒のせいもあって何もする気がしない。その日、私達は洞窟に泊まった。
          ―続く―







2026/05/10 3:57:46|小説「蛍」
蛍―13―
蛍―13―

 夕食が終わってからはすることがない。テレビなどはないし、携帯ラジオも谷あいのここまでは電波が届かず聞くことができない。
 私は、焚火に多めの木をくべると、彼女の手を取ってベッドに導いた。
 私達は、ベッドで抱き合っていた。美紀は、私の胸に頭を埋めていて、美紀の髪の匂いが私の鼻をくすぐった。私は、彼女を抱き締めると、手を彼女のシャツの中に入れた。彼女は、いつものとおりブラジャーはしていない。手が乳房に触れた。その先端にある小さな乳首を指で撫でた。彼女の息が次第に大きくなり、私が愛撫を彼女の全身に広げていくと、彼女の息は激しくなって行った。しばらく愛撫を続けた後、私達はひとつに結ばれた。
 行為の後の静寂が訪れると、私達は裸のまま毛布を被って抱き合っていた。
 彼女の髪の匂いを嗅ぎながら、私の胸に顔をうずめている彼女は、どんな身の上だろうと思った。間もなく、今年が終わり、新しい年になる。そんな時に、彼女は家にいなくて大丈夫なのだろうかと心配になる。
 家族はいるのか、どんな暮らしをしているのか、私は全くと言って良いほど彼女のことを知らなかった。知り合って半年になるが、お互いに身の上話をしたことはなかった。無論、関心はあるのだが、聞くのを憚られたのである。彼女も、私のことは聞かなかった。私が離婚していることも話していない。過去も知らず、背景にある人間関係も知らず、お互い知っているのは逢っている今の姿だけである。
 二人の関係は、全く世間から隔絶したものだったから、人目や人間関係などの煩わしさが全くない。手助けが得られなく大変なところもあるが、気楽なことが多い。楽しくやっていけるのも、彼女のおとなしいが明るく無邪気な性格だからである。洞窟を整備し、維持していくことも全く苦にならないというか、むしろ楽しかった。美紀が喜んでくれることが一番嬉しかった。そのために一生懸命働いた。
 焚火の明かりの方に向けて時計を見ると、間もなく12時だった。私は、彼女の耳元でささやいた。
「間もなく今年も終りだね。」
「今年もありがとうございました。」
「こちらこそ、ありがとう。君と出会えて本当に良かったよ。」
 簡単な言葉を交わしただけだったが、それで十分に気持ちは通じ合っていた。彼女は、頷くようにして、私の胸に頭をうずめた。
 目が覚めたとき、洞窟の入り口から光が差し込んでいた。夜が明けたのである。焚火の火が消えかかっていたので、急いで焚き木をくべた。
 私は、やかんを持って川に水を汲みに行った。子供の頃、父親が若水と言って新年最初の井戸水を汲んでいたが、その若水のつもりである。
 美紀は竈に火を起こして網で餅を焼くとともに、焚火に吊り下げられた鍋に野菜などを入れていた。
 焼けた餅を入れると、雑煮の完成である。彼女は、雑煮をお椀についだ。
 私は、リュックからワンカップの酒を取り出すと、ひとつを彼女の前に置いた。
「これをお屠蘇代わりにしよう。新年おめでとう。今年もよろしくお願いします。」
「おめでとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします。」
そう言って酒の入ったカップを合わせて乾杯をした。
          ―続く―







2026/05/09 4:25:28|小説「蛍」
蛍―12―
蛍―12―

 そのとき入り口に人影が映った。振り向いてみると美紀だった。
「来たの?こんなに寒いのに。」
「きっとあなたも来ているだろうと思って。」
「寒いだろう。こっちにおいで。」
 私がそう言って手を差し伸べると、美紀は私の横に座って、小太郎に手を差し伸べた。小太郎は嬉しそうにキキッと鳴くと、彼女の肩に乗り移った。
 その日から、小太郎を含めた私達は家族のようになっていた。
 暮が近付き、寒い日が続いた。雪が降る日も多くなり、山にはうっすらと積るようなことがあった。
 それでも私は、山に行き洞窟に行き続けた。美紀が来るのは基本的には不定期で2、3日に一回だったが、もしかしたら来るのではないかという期待があったし、そんなときに彼女を一人ぼっちにさせるようなことはしたくなかったからである。
 冬の仕事は、焚き木集めが主である。山には枯れ木や倒木が多かった。大きいものはノコギリで切り、小さいものは手で折った。太い木は、火持ちが良いので夜間の種火にするのに良かったし、細いのは焚き付けに使えた。それを紐で束ねては、洞窟の壁際に積んだ。いつしか、洞窟の壁には焚き木が積みあがっていた。
 私が枯れ木を集めているとき、小太郎が着いて来ることもあれば、遠くから眺めていることもあった。
 美紀とは、山で出会うこともあれば、洞窟で会うこともあった。私は、山に登ってしばらく山頂で過ごしてから、洞窟に行くのが行動のパターンになっていたが、寒くなると山でじっとしているのは辛いので、洞窟に行くのが早くなった。そこで彼女が来るのではないかと期待しながら待っていた。
 彼女は、2、3日に一回の割でやって来た。一緒に泊まることもあれば、帰ることもあった。いずれにしても、洞窟で会うときには身体を交えた。
 暮になった。私が大晦日には洞窟に泊まる予定だと言うと、彼女も泊まりたいと言った。
 大晦日の日、私は、蕎麦と餅、酒などを準備して洞窟に向かった。昼に洞窟に着くと、すでに彼女が来ていて、洞窟の内外には箒目があった。掃除を済ませていたのである。焚火は焚かれ、お湯が沸いていた。彼女の傍には、小太郎が来ていて、あたりを走り回っていた。
 彼女は、私を迎えるとすぐにコーヒーを淹れてくれた。二人は、焚火の傍に並んで座って、コーヒーを飲んだ。外は寒かったので、温かいコーヒーが嬉しかった。
 コーヒーを飲んで一息つくと、年越し蕎麦の用意である。洞窟にある火は、焚火と石を積み上げて作った竈(かまど)である。早速、竈に火を入れ、鍋を載せた。
 鍋には、肉や美紀が持って来た野菜を入れ、醤油や砂糖で味付けをし、沸騰してから蕎麦を入れた。
 私達は、紙カップにワインを注ぎ、蕎麦をお椀についで飲みながら食べた。まともな蕎麦料理とは程遠いものだったが、彼女と飲みながら食べていると本当に美味しかった。
「今年も間もなく終わるね。今年は、君と会えて本当に良かった。」
「私も、三嶋さんと会えて嬉しかったです。」
「僕の人生が全く変わったよ。」
「私の人生も変わりました。それに初めて女にしていただきました。」
「初めてだったの・・・」
 それを聞いて、私は意外に思った。確かに初めての時の彼女は、ぎこちなかったが、全く初めてだとは思わなかったのである。
          ―続く―