春の行方−04−
1週間の研修では、会社の概要や就業規則の説明があり、うち一日は取手にある工場見学も含まれていた。 そんな中で、みんな同期としての連帯感を深めて行った。自宅から通う者が多かったが、地方から出てきた5人が松戸の寮に入っていることを知った。男が3人、女が2人いた。 研修が終って、配属先が発表された。光太郎は営業課、久恵は総務課に配属され、同じ寮に住む他の3人は取手の工場に配属された。 光太郎は、プラント用の製品の販売の係員で、都内を始めとして全国的に出張することも多いとのことである。係長は35歳の飯島、先輩に30歳の細田、28歳の橋本がいた。 配属されたその日、課の歓迎会が行われた。課長は、40歳の草川、課員は10人ほどである。 最初の仕事は、顧客への挨拶回りだった。早速、連日近いところからの挨拶回りが続いた。 出勤は、同じ寮の仲間と一緒にすることが多かった。慣れて来ると、8時前に寮を出れば良いことがわかったので、その時間に部屋を出ると必ず本社に通う何人かと一緒になった。その中には、大抵久恵がいた。 入社して2週間が過ぎたとき、郵便受けに一枚の紙が入っていた。週末に歓迎会を兼ねて寮のバーベキュー大会を公園でするというものだった。 寮には20人ほどが住んでいた。男が15人、女が5人ほどである。中には、単身赴任の人達が5人ほどいて、年長者は50歳を過ぎていた。独身者だけでいうと、男10人、女5人になる。 バーベキューの当日は、良い天気に恵まれ、春の日差しが暖かかった。 準備は、1年先輩の仕事だという。朝から、寮の玄関に食材や飲み物が積まれていた。これをみんなが手伝って、公園まで運ぶ。 みんな故郷を離れている者ばかりなので、楽しみにしていた。中には、新しく入って来た人、特に女性と話すのを楽しみにしている様子も伺えた。女性の中では、久恵の美しさが群を抜いていた。 バーベキューが始まり、お酒が入ると、男達はみんな久恵と話したがって彼女を取り巻くようにしていた。久恵は、いつもの笑顔で明るくみんなと話をしている。その様子に、光太郎は嫉妬のようなものを感じていた。 それでも酒が入ると、みんなで楽しく過ごした。北海道や東北から来た者もいて、地域のことなど珍しい話も聞くことができ、何人かとは親しくなった。その中に技術部にいる大室純二がいた。青森の出身でいかにも純朴そうである。今度一緒に飲みに行こうと約束もした。 週末には、佳津枝と電話で話した。光太郎の方からかけることもあれば、佳津枝からかかって来ることもあった。お互い営業で、帰りの時間が不規則なので、平日はよほど寂しいときとか、何かがあったとき以外は電話をしなかった。佳津枝は、広島にある自動車メーカーの営業部に就職していた。ディーラー回りの仕事が多いらしく、昼間オフィスにいることは少ないと言っている。自分で借りているワンルームマンションに住んでいて、週末は家に帰っているとのことである。 電話の時間は長く、1時間も話すのは普通だった。普段はあまりお喋りでない佳津枝だが、電話ではよく喋った。それは一人暮らしの寂しさを紛らわせるかのようだった。 −続く− |