男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2026/05/21 3:23:32|小説「春の行方」
春の行方−04−
春の行方−04−

 1週間の研修では、会社の概要や就業規則の説明があり、うち一日は取手にある工場見学も含まれていた。
 そんな中で、みんな同期としての連帯感を深めて行った。自宅から通う者が多かったが、地方から出てきた5人が松戸の寮に入っていることを知った。男が3人、女が2人いた。
 研修が終って、配属先が発表された。光太郎は営業課、久恵は総務課に配属され、同じ寮に住む他の3人は取手の工場に配属された。
 光太郎は、プラント用の製品の販売の係員で、都内を始めとして全国的に出張することも多いとのことである。係長は35歳の飯島、先輩に30歳の細田、28歳の橋本がいた。
 配属されたその日、課の歓迎会が行われた。課長は、40歳の草川、課員は10人ほどである。
 最初の仕事は、顧客への挨拶回りだった。早速、連日近いところからの挨拶回りが続いた。
 出勤は、同じ寮の仲間と一緒にすることが多かった。慣れて来ると、8時前に寮を出れば良いことがわかったので、その時間に部屋を出ると必ず本社に通う何人かと一緒になった。その中には、大抵久恵がいた。
 入社して2週間が過ぎたとき、郵便受けに一枚の紙が入っていた。週末に歓迎会を兼ねて寮のバーベキュー大会を公園でするというものだった。
 寮には20人ほどが住んでいた。男が15人、女が5人ほどである。中には、単身赴任の人達が5人ほどいて、年長者は50歳を過ぎていた。独身者だけでいうと、男10人、女5人になる。
 バーベキューの当日は、良い天気に恵まれ、春の日差しが暖かかった。
 準備は、1年先輩の仕事だという。朝から、寮の玄関に食材や飲み物が積まれていた。これをみんなが手伝って、公園まで運ぶ。
 みんな故郷を離れている者ばかりなので、楽しみにしていた。中には、新しく入って来た人、特に女性と話すのを楽しみにしている様子も伺えた。女性の中では、久恵の美しさが群を抜いていた。
 バーベキューが始まり、お酒が入ると、男達はみんな久恵と話したがって彼女を取り巻くようにしていた。久恵は、いつもの笑顔で明るくみんなと話をしている。その様子に、光太郎は嫉妬のようなものを感じていた。
 それでも酒が入ると、みんなで楽しく過ごした。北海道や東北から来た者もいて、地域のことなど珍しい話も聞くことができ、何人かとは親しくなった。その中に技術部にいる大室純二がいた。青森の出身でいかにも純朴そうである。今度一緒に飲みに行こうと約束もした。
 週末には、佳津枝と電話で話した。光太郎の方からかけることもあれば、佳津枝からかかって来ることもあった。お互い営業で、帰りの時間が不規則なので、平日はよほど寂しいときとか、何かがあったとき以外は電話をしなかった。佳津枝は、広島にある自動車メーカーの営業部に就職していた。ディーラー回りの仕事が多いらしく、昼間オフィスにいることは少ないと言っている。自分で借りているワンルームマンションに住んでいて、週末は家に帰っているとのことである。
 電話の時間は長く、1時間も話すのは普通だった。普段はあまりお喋りでない佳津枝だが、電話ではよく喋った。それは一人暮らしの寂しさを紛らわせるかのようだった。
        −続く−







2026/05/20 3:58:21|小説「春の行方」
春の行方−03−
春の行方−03−

 翌日は日曜日、荷物が着く日である。
 昨日、久恵とは、荷物が着いたらお互いに手伝おうと約束をしていた。
 最初に着いたのは、光太郎の荷物だった。大した荷物ではなく、しかも運送屋が運んでくれるので手伝いは必要なかった。余程黙って自分だけで済ませてしまおうかと思ったが、それでは久恵も遠慮するのではないかと思い、彼女の部屋のチャイムを鳴らした。久恵は準備していたらしく、ジーンズ姿で出てきた。
 荷物の搬入は30分ほどで終った。部屋で片付けをしていると、チャイムが鳴った。片付けを途中で止めると、急いで外に出た。久恵が立っていて、荷物を運んできた小型トラックが、寮の下に止まっているのが見えた。
 久恵の荷物は光太郎のよりは少し多かったが、それでもすぐに搬入を終えた。
「片付けを終ったら、昼ご飯に行きましょうか。」
「そうですね。」
 二人は約束をしてそれぞれの部屋に戻り、荷物を片付けた。光太郎は、片付けながら佳津枝と久恵について考えた。
 佳津枝は、愛くるしい顔付きをしている。幼馴染みで気心は十分に知れている。優しくて、細かいところにもよく気が付いた。一方、久恵は端正な顔つきで、まだよくはわからないが、やや気が強そうなところがあった。そして何よりの違いは、久恵の洗練された雰囲気に対して、佳津枝には田舎臭さがあった。
 12時になり、光太郎は廊下に出て、久恵が出て来るのを待った。
 久恵は、スカート姿で、ブラウスの上にベージュのセーターに着替えていた。背が高く、端正な顔立ちによく似合っている。光太郎は、眩い目でその姿を見つめた。
 二人は、並んで駅の方に向かって行ったが、さてどこの店に入ろうかと悩んだ。光太郎が、どんな食事が良いかと聞くと、久恵は、好き嫌いはないから何でも良いと言う。しかし、さすがにラーメン屋とか大衆食堂は久恵に相応しくないような気がしたが、そんなにお金を持っている訳ではないので、ファーストフードの店に入った。
 久恵は、スポーツをしていただけあって、明るい性格だった。常に笑顔を絶やさないし、話し方もハキハキしていた。佳津枝が詩や小説などの文学好きであるのに対して、スポーツが好きな活発な女性である。学生時代には、バレーボールでかなり活躍していたと話していた。
 食事を終えて寮に戻ると、明日は一緒に出社しようと約束して別れ、午後はそれぞれ荷物の片付けと、明日の入社式の準備に取り掛かった。
 翌日は入社式である。
 電車の事情がよくわからないので、二人は早めに寮を出た。駅に着くと、昨日の日曜日とは違ってたくさんの人である。西日暮里で千代田線に乗り換えるのであるが、乗り換えにも思わぬ時間がかかる。
 やっと丸ノ内の本社に付いたときには、二人共ラッシュの疲れでぐったりしていた。
 入社式には20人ほどの同期入社の者がいた。みんな紺のスーツで、不安と期待の入り混ざった顔をしていた。入社式が終ると、総務の担当者が管理事項などを説明した。1週間の研修があって、その後配属先が決まるとのことだった。
             −続く−







2026/05/19 3:56:29|小説「春の行方」
春の行方−02−
春の行方−02−

 新幹線が東京駅に着いた。
 光太郎は、高校の修学旅行で来たことはあったが、これから働く町かと思うと、まるで感慨が違って来る。電車を乗り換えてそのまま松戸にある会社の独身寮に向かう。
 寮は1DKの間取りで、一通りの家具などは揃っていたから、寝具や食器などを揃えれば良いだけである。
 交番で尋ねながら寮に着いたときには、夕方になっていた。管理室で鍵を受け取り、3階にある部屋に入ろうとしたとき、廊下を一人の若い女性が近付いて来た。
「こちらに入居ですか?」
「そうです、三永です。」
「私も、今度隣に入居しますの。よろしくお願いします。」
 会社案内によると、このマンションは、そっくり会社で借り上げているはずである。
「じゃあ、今度アジア製作所に入社するのですか?」
「ええ、そうです。松島です。よろしくお願いします。」
「もう、引越しは終ったのですか?」
「いいえ、明日荷物が着きます。」
「そうですか、僕も明日の予定です。どうでしょう、これから食事にでも行きませんか。」
「そうですね、私も来たばかりで町の状況がよくわからないのですが。」
「僕もですが、駅の近くにいくつか店がありましたから、行ってみましょう。じゃあ、30分後にここで。」
 部屋に入ると、光太郎はすぐに佳津枝に電話をした。
無事に着いたことなどを報告したが、佳津枝は色々と質問したり、月曜日が入社式であることなど、自分の状況を長々と話し始めた。
 時計を見ると20分が過ぎていた。
「じゃあ、ちょっと用事があるから。」と言って、光太郎は電話を切った。
 着替えをして、廊下に出てみると、既に彼女は廊下で待っていた。
「すみません、家に電話をしていたのですが、母親の話が長くて・・・・・」
 光太郎は、自分の嘘に驚いていた。
 駅まで10分の道のりを二人は並んで歩いていた。来るときはまだ明るくて気付かなかったが、駅の近くには居酒屋やファーストフードの店、レストランなどのネオンがけっこうたくさんあった。
「お酒、飲めます?」
光太郎が聞いた。
「そんなに強くはないですが、少しなら。」
「じゃあ、居酒屋にしませんか。」
「いいわ。」
 二人は、チェーン店の居酒屋に入った。
 飲みながら話していると、彼女が松島久恵で、静岡の浜松出身、今回、同じアジア製作所に入社することがわかった。同期入社になる。
 背が高く、学生時代はバレーボールをしていたという。光太郎は、自分が高校時代テニスをしていたことなどを話したら、私もしてみたいと言った。
 久恵は、出されたビールをゆっくりと飲んでいる。光太郎は、学生時代、先輩に飲まされていたからけっこう飲める方である。久恵がやっと1杯目のジョッキを空けたことには、3杯目を空けていた。
 最初は、ちょっとだけのつもりであったが、気が付いたときには9時近くになっていた。
 二人は、寮に帰ることにした。途中、久恵がコンビニで明日の朝の朝食を買おうと言い、買い物をしてから部屋に戻った。
 部屋に戻ると、母親に無事に着いたことを報告するため、電話をかけた。
              −続く−







2026/05/18 4:45:28|小説「春の行方」
春の行方−01−
春の行方−01−

 光太郎は、新幹線の車窓を眺めながら、昨夜のことを思い浮かべていた。
 昨夜は、佳津枝と飲んだ後で、カラオケに行った。二人で歌った最後に、佳津枝が歌った「木綿のハンカチーフ」のことを思い出していたのである。
 光太郎と佳津枝は、瀬戸内の小さな町に生まれ、家が近くの幼馴染みであった。二人とも農家の子供で、幼い頃から一緒に遊び、同じ幼稚園、小学校、中学校、高校と進んだ。高校の頃には、お互いに家に行って受験のための勉強をした。光太郎は数学が得意で、佳津枝は英語が得意だったから、勉強には効果があった。
 3年の夏休みの頃、二人は初めてキスをした。それは不器用なものであったが、今でも甘い懐かしい思い出として残っている。
 二人共、大学の試験に合格し、佳津枝は広島の大学に、光太郎は山口の大学に行った。普段は広島と山口なので逢うことはできなかったが、夏休みなどには帰省してデートを重ねた。車がなかったので自転車で海や山に行ったり、電車で広島や山口の町に行って映画を見たり、観光をした。
 二人が初めて結ばれたのは、大学1年が終った春休みのことだった。
 佳津枝が、光太郎の家に遊びに来たとき、両親はみかんの手入れのために畑に作業に出ていた。妹も、出掛けていた。光太郎の部屋に入ったとき、いつものようにキスをした。そのとき、佳津枝の胸が光太郎の胸に触れた。その感触に、光太郎はいつにない興奮を覚えていた。
 光太郎は、佳津枝の背中に回した手に力を入れ、唇を強く押し付けた。
 気が付いたときには、二人はベッドの上にいた。光太郎の裸の腕の中に佳津枝が頭を載せている。その瞳は、今、あったことに思いを寄せているようであった。
「ねえ、わたしのことを好き?」
佳津枝が聞いた。
「勿論だとも。」
光太郎が答える。
 二人共、初めての経験に夢の中にいるような気分に浸っていた。
 その後も、二人はデートの度に身体を交えるようになっていた。大抵は、どっちかの家であったが、家族が家にいるときにはそれができず、二人共空しい思いをすることがあった。
 一度結ばれてからは、普通の日の休日に逢うこともあった。佳津枝も光太郎も逢うごとに愛情を深めて行った。口にこそ出さないが、いずれ結婚することは当たり前のように感じていた。それは家族も半ば承知の事実になっていた。
 大学も4年になると就職の話が大きなウエイトを占めてくる。お互いに電話で相談したが、結局光太郎は東京のプラントメーカーに、佳津枝は広島の自動車会社に就職することになった。
 昨日は、光太郎の送別会のため、二人で町に飲みに行き、その後でカラオケに行ったのである。
            −続く−







2026/05/14 3:59:11|小説「蛍」
蛍―17―(最終回)
蛍―17―(最終回)

 私は、美紀の手を取るとベッドに誘った。
たくさんの蛍がいた幻想的な光景が瞼の裏に残っていて、その感動が私を燃えさせた。私は、激しく彼女に挑んで行った。美紀も、私の情熱に十分に応えてくれた。いつにない激しい愛の行為の後で、私は眠りに就いた。
 翌朝目覚めたとき、美紀の姿がなかった。辺りを見まわしたがいない。これまで、彼女は先に目が覚めても私の傍から抜け出すようなことはなかったので不安を覚えた。
「美紀!」と呼んでみるが返事はなかった。ベッドから起き出して洞窟の外に出てみたが彼女の姿はなかった。
 私の不安は次第に大きなものになった。
「お〜い、お〜い、美紀〜!」
 大声で叫んでみるが返事はなく、「お〜い、お〜い、美紀〜!」という自分が発したと同じ木霊が山の間から返って来るだけだった。
 それでも諦めずに何度も何度も叫んでみるが、木霊が返って来るだけで彼女の返事はなかった。
 私の不安は増すばかりだった。滝つぼにも行ってみたが、彼女の姿はなかった。次第に探す範囲を広げて、昨日蛍を見に行った場所にも行ってみたが、彼女の姿はない。
 一人で帰ったのかと思ったが、私は彼女の家を知らなかった。いつも別れる場所まで行って、彼女の行く方向に歩いて行ったが、どこまで行っても家らしいものはなく、やがて道も途絶えていた。
 もしかしたら、洞窟に戻っているのではないかと思って引き返してみたが、彼女の姿はなかった。私は、今迄に行ったことがあるすべての場所を探してみたが彼女を見付けることはなかった。この日は、子猿の小太郎も姿を見せなかった。
 私は、山頂に行ってみたが、そこにも彼女はいなかった。私は、再び洞窟に戻って待つことにした。その日は一日待っていたが、彼女は現れなかった。
 二日間待ったが、彼女は現れなかった。仕方なく家に帰った。
 それから毎日のように山に登り、洞窟に行ったが、彼女に会うことはできなかった。
 一か月が過ぎ、二か月が過ぎても、彼女は現れなかった。毎日のように行っていた山にも、2日に一回、3日に一回行くだけになっていった。
やがて秋が来て、冬になったが、彼女が姿を見せることはなかった。
 彼女が姿を消して一年が過ぎ、最後に会った季節になった。私は、蛍を見た川の淵に行ってみた。
その日もたくさんの蛍が飛んでいた。
 私は、乱舞する蛍を見ながら、彼女との一年間が何だったのか、あの夢のような時間が何だったのかと思った。私の脳裏に、彼女との日々が走馬灯のように瞼に浮かんでいた。
 そのとき、蛍の群れの真ん中でひとつの光が大きく輝いた。しばらく点滅を繰り返していたが、やがて光の中のひとつになった。私には、それが美紀のように思えて、夜が更けるまでそこに佇んでいた。
            ―完―