朧月夜−04−
友紀はすぐに立ち上がって、さっきまで作っていたオードブルを運んで来た。歩く姿が、少しぎこちないのがいかにも新鮮だった。その間に私は、グラスを持ってきて、ワインの栓を開けた。二人並んでソファに座って乾杯し、飲み始める。友紀は、ゆっくりと上品な仕草でグラスを口に運んでいる。その姿は、初めての経験を終えた人とは思えない落ち着きが感じられた。 「セックスはね、最初は痛いかもしれないけど、本当はとても楽しいものなんだよ。そのうち、ゆっくりと楽しさを教えてあげるよ。」 「わたしにはまだわからないけど、でもこれですっきりしました。女って、どうしても最初のときはためらいがあるの。このまま許したら、後戻りできないという観念が頭から離れないのです。これでも両親からは厳格に育てられました。高校生のとき、両親が事故で亡くなってから、少しずつ考えも変わって来たけど、子供の頃から躾られたことってなかなか頭から離れないのね。あなたに処女をあげたことで、気持ち的にはさっぱりしましたわ。」 「良かった。後悔はしていないね。」 「ええ、これで後戻りしようなんてことはなくなったわ。」 その日は、そのままゆっくりと飲んでベッドに入り、静かな眠りについた。 翌日は、友紀のマンションから会社に行く。友紀は、私にワイシャツや背広を着せたりして、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。勿論、友紀も出勤があるから、ゆっくりしているわけにはいかない。友紀が先に出掛け、それからしばらくしてから私がマンションを出た。 翌日、私は随分と陽気だったのであろう、秘書の女性も「社長、何かいいことでもあったのですか。」などと聞くほどだった。その日、私は友紀のところに行った方がいいのかどうか、迷った。愛情はすっかり冷めているとはいえ妻に対する気兼ねもあったし、それに友紀のためにも行った方がいいのか、今日はそっとしておいた方がいいのか迷っていたのである。 しかし、会いたいという欲望には勝てなかった。昼休みに電話をして、「今日も食事を済ませてから、行くよ。」と言った。その時友紀は、仕事中だからだろうか「わかりました。」と言っただけだった。 8時過ぎに、友紀のマンションのチャイムを鳴らした。鍵は持っているのだが、ここは友紀の家であることの証として、チャイムを鳴らす。早速玄関に出てきた友紀は、「お帰りなさい。」と言って、膝に手を当てて、お辞儀をした。 ―続く― |