男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2026/05/26 4:16:13|小説「春の行方」
春の行方−09−
春の行方−09−

 広島駅に着いた。
 佳津枝は仕事で、夕方帰って来る予定なので、喫茶店や本屋で時間を潰してからマンションに向かう。玄関のチャイムを鳴らすと、すぐにエプロン姿の佳津枝が出て来た。
「私も、今帰って来たばかりなの。急いで、夕食を作るわね。」
「ごめん、忙しい思いをさせるね。外食でも良かったのに。」
「いいのよ、私、作りたいの。それより、シャワーを浴びていてよ。今日は暑かったでしょう。」
「うん。じゃあ・・・・・」
 シャワーから出て来ると、テーブルの上に魚の煮付けや野菜の煮物などと一緒にビールが準備されている。
「昨日、下拵えしておいたの。来てくれてうれしいわ。」
 佳津枝はそう言いながら、グラスにビールを注いだ。
 その夜、二人は愛し合った。明日は東京に帰らなければならないし、そうすればしばらく逢うことはできない。その思いが、二人の行為をより情熱的なものにした。
 土曜日、光太郎は午後の新幹線に乗る予定である。朝、目覚めると、佳津枝は既に台所に立って、包丁の音をさせている。
 食事をした後、居間のカーペットの上に寝そべってテレビを見ながら、まったりとした時間を過ごす。
 佳津枝が言う。
「また、しばらく逢えないのね。」
「うん、今度は暮だね。暮には帰って来るよ。」
「長いわね・・・・・」
「でも、すぐだよ。」
 そう言いながら二人は抱き合ってキスをしたが、やがて深い愛の行為に没頭して行った。
 佳津枝は、駅まで見送りに来た。新幹線が到着して乗り込むと、窓のすぐ傍まで来て手を振っている。眼は、涙に潤んでいるようである。列車が動き始めると、さすがに光太郎もホロリとした気持ちになる。出発してしばらくすると、列車はトンネルに入り、光太郎は眠りに就いた。
 寮に戻ったときは夕暮れになっていた。入り口で見上げると、電気の灯っている部屋は少なかった。みんなお盆休みで帰省しているのであろう。
 部屋に入ってパソコンを開いて見ると、久恵と佳津枝からメールが入っていた。
 久恵からのメールは、お盆の休みには浜松に帰るというもので、佳津枝からのは、昨日の楽しかったことが切々と書かれ、早く暮が来るのが待ち遠しい、暮には広島で会って一緒に家に帰りたいと書いてあった。
 月曜日から、光太郎は寂しい日々を過ごした。
 会社に行っても営業の一部の人間がいるだけで、閑散としていたし、寮に帰っても静かなものである。パソコンに向かってメールを送ったが、佳津枝も家に帰っているらしく、返事は来ない。
退屈で仕方なく、一人夕食を兼ねて飲みに出掛けた。
 日曜日、お盆の休みも最後になった。寮のみんなも午前中から少しずつ帰って来ているようである。夕方、部屋にいると玄関のチャイムが鳴った。出てみると久恵だった。
「浜松に帰って来ました。これ少ないけど、おみやげです。」
そう言って、佃煮の包みを手渡した。
「ありがとう。ちょっと待って。」
 光太郎は、部屋に戻り、母親が持たせた菓子箱のひとつを久恵に渡した。
「夕食は済ませたの?」
 光太郎が聞くとまだだと言うので、一緒に食事に行くことにした。その時、同期生で青森出身の大室と玄関で出会ったので、3人で一緒に駅に向かった。
             −続く−







2026/05/25 4:16:58|小説「春の行方」
春の行方−08−
春の行方−08−

 月曜日、光太郎は佳津枝と一緒に、彼女のマンションを出てバス停に向かった。
 佳津枝はこれから出勤で、会社は郊外であるから、広島駅とは反対方向になる。先に駅行きのバスがやって来た。バスに乗る前に、佳津枝は、「ご両親によろしく言ってね。」と言いながら、小さな菓子の包みを渡した。
 光太郎が実家に着くと、妹の美子が夏休みで家にいた。両親は、農作業に出ているとのことだった。
「お兄ちゃん、元気そうね。」
「うん、美子も真面目に勉強しているかい。」
 美子は、県内の短大に通っていた。
「大丈夫よ。それより、ときどき佳津枝さんが電話をくれるわ。お兄ちゃん、広島に寄って来たのでしょう。」
「うん。」
「佳津枝さんって、いい人ね。あの人がお姉さんだったら、私、嬉しいな。」
「うん、いい奴だよね。」
「東京にも、いい人がたくさんいるのでしょうね。」
「そうでもないさ。けっこうみんな他人行儀だよ。」
「ねえ、寮って、どんな人が一緒に住んでいるの?」
「独身者や単身赴任者だよ。」
「女の人もいるの?」
「ああ、いるよ。」
「じゃあ、気を付けないといけないわね。」
「どういうことだよ。」
「だって、お兄ちゃん、けっこう気が多いところがあるから。」
「よせよ、俺はそんなんじゃないよ。」
「さて、お父さん達が帰って来る前に食事を作っておかなくちゃあ。」
 そう言うと、美子は台所に行った。
 その日の夕方は、久し振りに家族が揃って食事をした。特に母親は、光太郎の元気な姿を見て喜んだ。父親も、飲み相手が来て嬉しそうである。
 光太郎は、翌日から途端に退屈を覚えた。家に帰って来たが、まだ同級生達は仕事をしている。美子は、友達と約束があると言って出掛けたし、話し相手もいない。
 ふと佳津枝や久恵のことを思い浮かべていた。
 土曜日には東京に帰らなければならない。その前にここを出て、広島に寄ろうかと考えた。自分も会いたいし、佳津枝も喜んでくれるに違いない。しかし、行きも帰りもでは気が引ける。
 テレビを見ながら過ごしているとき、美子が言った。
「お兄ちゃん、帰りも佳津枝さんのところに寄るの?」
「どうしようかと思っているんだ。この間、会ったばかりだしなあ。」
「寄ってあげなさいよ。彼女も、きっと喜んでくれると思うわ。」
「そうかなあ・・・・・」
「そうに決まっているわよ。」
 光太郎は心を決め、その夜佳津枝に電話をした。
 美子の言うとおり、佳津枝は嬉しそうに「待っているわ。」と言った。
 4日間は、あっという間に過ぎた。金曜日の午後、母親が光太郎を駅まで送った。
 そのとき、いくつかの土産を持たせ、「ひとつは佳津枝さんに、その他は会社の人にあげて。」
と言った。
 ホームまで送りに来た母親は、目に涙を浮かべていた。
              −続く−







2026/05/24 3:40:24|小説「春の行方」
春の行方−07−
春の行方−07−

 二人は食事を終えると、バスに乗って佳津枝のマンションに向かった。マンションは、停留所のすぐ近くにあった。1LDKの狭い部屋であるが、キチンと掃除され、若い女の子らしくきれいに飾り付けがなされている。
 部屋に入ると、光太郎は、コーヒーを入れるという佳津枝の手をとって引き寄せ、抱き締めた。佳津枝も逆らわずにキスを受け、光太郎に導かれるままピンクのシーツの敷かれているベッドに倒れ込んだ。僅か4ヶ月の別離であったが、随分久し振りのような気がした。二人は貪るように愛し合った。
 愛の行為が終ると、そのまま眠ってしまい、目が覚めたときには沈みかけた夏の遅い夕暮れの陽がカーテン越しに差し込んでいた。ベッドから出ると、シャワーを浴びることにした。光太郎は佳津枝に一緒に入ろうと誘った。
 最初、佳津枝は恥ずかしいから嫌だと言っていたが、光太郎の強引さに負けたように、誘いに応じた。佳津枝の身体もちょっとぽっちゃりした感じで美しい。光太郎は、裸になった佳津枝を抱き締めてキスをした。
 シャワーを終えると、佳津枝の作った素麺と野菜の煮物のおかずでビールを飲みながら食事をした。こうして二人で食事をしていて、光太郎は、結婚生活とはこんなものだろうかと想像していた。
 食事中、お喋りをしながらも、ときどき佳津枝は光太郎の顔を見詰めている。それは愛を確かめ合った女が、男を信頼している目であった。
 ゆっくりとした食事を終えると、再びベッドに入った。狭いベッドで抱き合って寝るのであるが、狭いとは感じなかった。
 翌日は休日、二人で過ごすことにした。
 町へ出掛けて、ショッピングをしながら過ごしたが、暑さが酷いので昼食を終えるとすぐに佳津枝の部屋に戻った。
明日は、佳津枝は仕事、光太郎は両親のところに帰る予定である。佳津枝も光太郎と一緒にいたいようであった。冷たいコーヒーを飲みながら午後の時間を過ごす。
「ねえ、東京には素敵な女性がたくさんいるのでしょうね。」
 佳津枝の突然の質問に、光太郎はドキリとした。瞬間的に久恵のことを思い出していたのである。
「う〜ん、今は東京も地方もないよ。東京にも、いろいろな人種がいるからね。」
「でも、会社にもいるんでしょう?」
「うん、でも半分は地方出身の人達だから、どこも同じさ。」
「わたし、一度東京に行ってみたいわ。光太郎君がどんな暮らしをしているのか見てみたいわ。」
「侘しいものさ。部屋だって、ここよりは狭いんじゃないかなあ。」
「ねえ、もし行ったら泊めて貰えるの?」
「さあ、どうだろう? あまり聞かないけどなあ。でも単身赴任の人もいて、家族が来たときなんか泊まっているみたいだから、大丈夫なのかも知れないな。」
「ふ〜ん、みんな独身なのね。」
「うん、独身か単身赴任の人ばかりだよ。」
「ねえ、わたしのこと、嫌いにならないでね。」
「ああ、大丈夫さ。」
 そう言って、佳津枝の頬にキスをしたが、その瞬間に再び久恵のことが脳裏をよぎった。
             −続く−







2026/05/23 4:18:03|小説「春の行方」
春の行方−06−
春の行方−06−

 2通の着信メールのうち、1通は佳津枝からのものであり、もう1通は久恵からのものだった。
 久恵からのは、短い文章で今日の礼が書いてあった。
 佳津枝からのは長い文章だった。
「光太郎君は、元気でやっていますか。私も元気です。
 この週末は、家に帰らず広島で過ごしています。
会社は良い雰囲気で、先輩達も親切にしてくれます。係長が駄洒落の好きな人で、しょっちゅう駄洒落を言っては周囲の人を笑わせています。最初は変な人だと思っていたのですが、そのうちに慣れてしまいました。本来、優しくて、親切な人なんですよ。彼は、社内に好きな女性がいるようなのですが、まだ告白していないようです。どうしたら良いだろうかと相談されてしまいました。先輩に相談されても困りますよね。
 実は、先週末に家に帰ったときに、光太郎君のご両親のところにご挨拶に行って来ました。お母さんが、元気にやっているようだけど電話も寄越さないって言っていましたよ。たまには電話をしてあげてください。
 身体には気を付けてね。
 またメールをします。おやすみなさい。
          佳津枝」
 光太郎は、すぐに返事を書いた。
「メール、ありがとう。母さんのところには明日にでも電話をするよ。
 こっちも楽しくやっている。会社の先輩達もみんな親切だよ。この前なんか、寮で歓迎のバーベキュー大会をしてくれたよ。寮は地方からの出身者が多いので、すぐに仲良くなるんだ。
 お盆には帰りたいと思っている。そのときは会えるよね。
 今日も寮の仲間と飲んでいた。
 じゃあ、おやすみ。
         光太郎」
 光太郎も仕事は順調だった。もっとも新入社員なので、責任のある仕事を任せられているわけではない。先輩に頼まれた書類を届けに行ったり、顧客のところに顔を出すだけのようなことが多い。残業もあるのだが、大抵は9時頃には寮に帰って来ることができた。
 普段、久恵とは通勤のときに話をするだけだった。毎朝のように顔を合わせているので、メールでのやり取りをすることはない。佳津枝からは2日に1回の割合でメールが来ていた。その日あったことや、読んだ本の感想、会社で話題になったことなどを書いて寄越した。光太郎もほぼ同じような内容でメールを送っていた。
 お盆の休みがやって来た。工場は機械を止めて一斉に休みになるのだが、営業は電話当番で誰かが残っていなければならない。光太郎は早めに休みを貰うことにした。遠くから来ている光太郎に先輩達が気を使ってくれたのである。8月5日から1週間の休みである。
 朝の新幹線に乗ると、昼には広島に着くことができる。休みに入ると、すぐに新幹線に乗った。
 広島駅には、佳津枝が待っていた。改札口に近付くと、いち早く光太郎の姿を見付けて手を振っていた。
「やあ、元気そうだね。」
「ええ、光太郎君も。少し太った?」
「うん、会社勤めをしていると運動ができないしね。」
「昼ご飯はまだだろう?」
「ええ。」
「じゃあ、何か食べて行こうよ。」
「美味しいお蕎麦の店があるのよ。光太郎君は、麺類が好きだよね。」
「うん、そこにしよう。」
 光太郎は、佳津枝の後ろから着いて行った。佳津枝の後ろ姿に、学生時代にはなかった色気のようなものを感じていた。
         −続く−







2026/05/22 3:42:16|小説「春の行方」
春の行方−05−
春の行方−05−

 夏のボーナスの時期がやって来た。
 光太郎は両親にその一部を送ると、残りのお金で佳津枝と相談してパソコンを買うことにした。最近になってインターネットなるものができて、電子メールもできるという。たまたま週末に見た映画「ユー ゴット ア メール」に感化されたのである。電話回線に繋ぐのであるが、マニュアルを見ながら1日がかりでやっと繋ぐことができた。
 佳津枝は大丈夫だろうかと心配していたら、先輩が助けてくれたと話していた。その先輩が男か女かは敢えて聞かなかったが、こういうことをできるのはおそらく男だろうと想像した。
 朝の通勤のとき、パソコンや電子メールの話をしたら、久恵も買いたいと言った。光太郎は、週末に一緒に電器店に買いに行くことを約束した。秋葉原の電器店に買いに行き、そのまま部屋にセットするのであるが、彼女も電気は苦手そうである。光太郎は、手伝うことにした。
 久恵の部屋は、女性の部屋らしくきれいに飾られていた。カーテンも華やかで、光太郎の部屋とはまるで雰囲気が違う。ベッドの脇には人形なども置いてある。パソコンは、二度目なので、簡単にセットすることができた。
 メールのチェックでは、自分のパソコンにテスト文章を送ってみた。自分の部屋に戻ってそれを確認して返信する。今度は、久恵から返事が来た。そこにはこう書いてあった。
「ありがとう。お礼に食事にご招待したいのですがいかがですか? 良かったら、6時に私の部屋に来てください。
                 久恵」
 光太郎は、すぐに「了解です。」と返事を送った。
 夕刻がやって来た。光太郎は、近くの酒屋で買ったワインを持って久恵の部屋のチャイムを鳴らした。久恵はすぐに出て来てドアを開けた。
「いらっしゃい、昼間はありがとう。電子メールって便利だわね。」
「うん、何とか無事に使えるようになって良かったね。」
「今日は、ブイヤベースにしたのよ。私って、あまり料理が得意じゃないの。」
 部屋には良い香りが漂っていた。居間の小さなテーブルの上にはコンロの上に鍋が置かれ、その側には料理の本が開いてあった。光太郎がそこに目をやったのに気付いた久恵が、「あらっ、ネタがバレちゃったわね。」と言ってチロっと舌を出した。
 光太郎は、「ちょうど良かった、じゃあこれが合うね。」と言いながら、持って来たワインを渡した。
 久恵は小皿にブイヤベースをよそおい、光太郎は用意されていたグラスにビールを注ぐ。
「今日はありがとう!」
「美味しそうな料理に乾杯!」
 食事は楽しかった。久恵は、機嫌良さそうによくお喋りをした。会社での出来事、東京に出て来るまでのことなどを話した。
 久恵は、兄と2人兄妹であった。ずっと浜松で育ち、大学は静岡である。高校時代からバレーボールをしていて、けっこう活躍していた。スラリとしているが、腕には筋肉質なところがある。
光太郎も自分のことを話したが、佳津枝とのことは話さなかった。
 見ると、ビールの空の缶が数本並んでいる。光太郎は、料理のお礼を言って自分の部屋に戻った。風呂に入ってから、パソコンを開いてみると、2通の新着メールが来ていた。
                 −続く−