春の行方−21−
一恵からのメモは、クリスマスイヴの夜に会いたいというものであった。 しかし、その日はスキーの打ち合わせを兼ねて寮の仲間と飲む約束があった。光太郎はその旨をメモで返したが、一恵は再度、じゃあその翌日にと言って来た。 イヴの夜は、スキーに行く仲間5人が集まった。男は、大室、飯坂、光太郎、女は久恵と今年の新人の陽子である。 陽子は、陽気にはしゃいでいた。彼女がいるだけで、その場の雰囲気が明るくなる。 光太郎は、スキーのウエアは準備するが、スキーと靴は借りることにした。行き先は湯沢である。それだけ決まると、後は飲むだけである。みんな冬の休みに期待しつつ楽しく飲んだ。しかし、光太郎は明日の一恵との約束が気にかかっていた。久恵の顔を見る度に後ろめたい気持ちになる。 「三永さん、何か元気がないんじゃない?」 陽子の言葉に、ハッとして言った。 「いや、何でもないよ。ちょっと考え事をしていてね。」 そんな会話を、久恵は怪訝そうな顔をして聞いていた。 翌日、光太郎は残業があったので、会社から直接スナック「再会」に行った。時間は9時を過ぎていた。店では、一恵がカウンターで飲んでいた。他にも客がいて、カラオケを歌っている。光太郎がビールを頼んで、一恵と乾杯する。 「メリー・クリスマス!」 「メリー・クリスマス!」 一恵は、光太郎と目を合わせると、軽くウィンクをした。 しばらく飲んでいたとき、客の誰かがブルース調の歌を歌い始めた。そのとき一恵が「踊りましょうか。」と言った。 光太郎は、一恵に手を取られてフロアに立った。ダンスの知識も経験もなかった。 しかし、一恵は上手に光太郎をリードした。ブルースの緩やかな曲に、光太郎は軽く身体を揺するだけだったが、けっこう雰囲気は盛り上がる。一恵の胸の膨らみが、光太郎の胸に触れた。光太郎の股間が膨らみ、一瞬腰を引くようにしたが、一恵はそれを感じ取っているようだった。 「これが終ったら出ましょうか。」 一恵が耳もとでささやいた。光太郎は小さく頷いた。 店を出ると、そのまま最初に行ったラブ・ホテルに向かう。チェックインを終えて部屋に入ると、光太郎の方から一恵を抱き寄せてキスをした。一恵も、しっかりと光太郎を抱き、強いキスを返した。 ダンスの効果か、光太郎はいつになく情熱的になった。普段は、どっちかというと一恵の方が積極的だったが、この日は違った。 愛の行為が終った後で、一恵が言った。 「今日の三永君、とても素敵だったわ。」 「うん、前中さんの魅力に負けたのかな。」 「三永君って、恋人がいるのでしょう。しかも東京じゃないわね。故郷?」 「エッ?」 「わかるわ。だって、私だって女ですもの。」 「はい・・・・・」 「セックスが初めてじゃなさそうだし、しかも遊んだという経験じゃないわ。それに、心もどこかよそにあるみたいだし。」 「・・・・・」 「彼女を大事にしなければダメよ。私、彼女を守るためにこうしているのかしらね。」 そう言って、一恵は笑ったが、その笑いには寂しさがあった。 −続く− |