男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2026/06/08 5:08:28|小説「春の行方」
春の行方−22−
春の行方−22−

 スキーは、28日から大晦日までの予定である。
 28日の午後に上野駅を出て、途中で乗り換えながら鈍行列車で行く旅であるが、これが楽しい。最初は混んでいた電車も、東京から離れる毎に座れるようになる。5人はボックスの席を確保して、ビールやジュースなどを買い込んで既に宴会である。ここでも陽子はヒロインだった。冗談を飛ばしながらも笑顔を絶やさず喋り続けている。今までのヒロインだった久恵も、完全にお株を奪われたという感じで、静かにしている。
 スキー場のホテルに着いたときには、既に冬の陽は沈みあたりは薄暗くなっていた。男3人、女2人の別々の部屋に荷物を置くと、そのまま夕食である。このときも、陽子は賑やかだった。その話に、男達の笑い声が絶えない。食事を終えてから温泉に入り、その日は床に就いた。
 翌日からスキーが始まる。光太郎と陽子のために、大室はスキーや靴を借りるのを手伝ってくれた。いざスキーを付けると、これが大変である。レッスンのために緩やかな傾斜を歩いて行くのに何度も転んだ。それは陽子も同じで、転ぶ度に照れ笑いをしている。
 光太郎と陽子は、スキー場の開催する初心者用のレッスンを受けることにした。久恵と飯坂は、大室が教えることになり、3人はリフトの方に向かっていた。
 レッスンは疲れたが、運動神経の良い光太郎は比較的早くコツを飲み込むことができ、午前中には、緩い斜面でのボーゲンくらいは滑れるようになっていた。それに比べて陽子は大変で、何度も転んでいた。
 一日が終わったときは、みんな疲れていたが、特に光太郎と陽子はグッタリとしていた。食事のときも、陽子は静かだった。食事を終って、飲みながらお喋りをしているとき、コクリコクリと居眠りをしていた。
 3日間のスキーはアッという間に終った。
光太郎は、緩斜面でなら何とか滑れるようになっていた。やっと面白さがわかった頃である。また来たいと思った。
 スキーを終えて寮に戻ると大晦日の夕方である。光太郎は、佳津枝の家に電話をした。最初、父親が出てきたが、すぐに佳津枝に代わった。
「今、スキーから帰って来た、明日、そっちに帰るよ。」
「スキー、どうだった?楽しかったのね。」
「うん、お陰さまで。」
「明日は、何時ごろ?」
「うん、朝なるべく早く出るから、昼には着けると思う。」
「じゃあ、時間が決まったら教えて。駅まで迎えに行くわ。私、免許を取って車を買ったのよ。」
「そう、大丈夫?」
「アラッ、やだ。出発したら、電話をちょうだいね。」
「うん、じゃあネ。」
「はい、良いお年を。」
光太郎は、スキーの疲れもあってすぐに寝た。
 元旦の朝は忙しかった。昨日の夜、疲れで早く寝たので、荷造りも残っている。やっと支度を終えて寮を出ようとしたとき、ふと郵便受けを見ると一恵からのメモがあった。それを読むゆとりもないままポケットに押し込むと、急いで駅に向かった。
 元旦の電車は空いていた。初詣に行ったらしい人達が、破魔矢を持っている。
 座席指定を取らなかった新幹線の自由席も空いていた。光太郎は、ポケットに手を入れたとき、紙片があるのに気が付いた。一恵からのメモだった。
           −続く−







2026/06/07 5:02:49|小説「春の行方」
春の行方−21−
春の行方−21−

 一恵からのメモは、クリスマスイヴの夜に会いたいというものであった。
 しかし、その日はスキーの打ち合わせを兼ねて寮の仲間と飲む約束があった。光太郎はその旨をメモで返したが、一恵は再度、じゃあその翌日にと言って来た。
 イヴの夜は、スキーに行く仲間5人が集まった。男は、大室、飯坂、光太郎、女は久恵と今年の新人の陽子である。
 陽子は、陽気にはしゃいでいた。彼女がいるだけで、その場の雰囲気が明るくなる。
 光太郎は、スキーのウエアは準備するが、スキーと靴は借りることにした。行き先は湯沢である。それだけ決まると、後は飲むだけである。みんな冬の休みに期待しつつ楽しく飲んだ。しかし、光太郎は明日の一恵との約束が気にかかっていた。久恵の顔を見る度に後ろめたい気持ちになる。
「三永さん、何か元気がないんじゃない?」
 陽子の言葉に、ハッとして言った。
「いや、何でもないよ。ちょっと考え事をしていてね。」
そんな会話を、久恵は怪訝そうな顔をして聞いていた。
 翌日、光太郎は残業があったので、会社から直接スナック「再会」に行った。時間は9時を過ぎていた。店では、一恵がカウンターで飲んでいた。他にも客がいて、カラオケを歌っている。光太郎がビールを頼んで、一恵と乾杯する。
「メリー・クリスマス!」
「メリー・クリスマス!」
一恵は、光太郎と目を合わせると、軽くウィンクをした。
 しばらく飲んでいたとき、客の誰かがブルース調の歌を歌い始めた。そのとき一恵が「踊りましょうか。」と言った。
 光太郎は、一恵に手を取られてフロアに立った。ダンスの知識も経験もなかった。
 しかし、一恵は上手に光太郎をリードした。ブルースの緩やかな曲に、光太郎は軽く身体を揺するだけだったが、けっこう雰囲気は盛り上がる。一恵の胸の膨らみが、光太郎の胸に触れた。光太郎の股間が膨らみ、一瞬腰を引くようにしたが、一恵はそれを感じ取っているようだった。
「これが終ったら出ましょうか。」
一恵が耳もとでささやいた。光太郎は小さく頷いた。
 店を出ると、そのまま最初に行ったラブ・ホテルに向かう。チェックインを終えて部屋に入ると、光太郎の方から一恵を抱き寄せてキスをした。一恵も、しっかりと光太郎を抱き、強いキスを返した。
 ダンスの効果か、光太郎はいつになく情熱的になった。普段は、どっちかというと一恵の方が積極的だったが、この日は違った。
 愛の行為が終った後で、一恵が言った。
「今日の三永君、とても素敵だったわ。」
「うん、前中さんの魅力に負けたのかな。」
「三永君って、恋人がいるのでしょう。しかも東京じゃないわね。故郷?」
「エッ?」
「わかるわ。だって、私だって女ですもの。」
「はい・・・・・」
「セックスが初めてじゃなさそうだし、しかも遊んだという経験じゃないわ。それに、心もどこかよそにあるみたいだし。」
「・・・・・」
「彼女を大事にしなければダメよ。私、彼女を守るためにこうしているのかしらね。」
 そう言って、一恵は笑ったが、その笑いには寂しさがあった。
           −続く−







2026/06/06 3:52:04|小説「春の行方」
春の行方−20−
春の行方−20−

 結ばれることのない愛、そのために一恵はどれだけ耐え忍んでいるのだろう。光太郎は、それを考えると一恵に同情したくなる。しかし、故郷には佳津枝がいる。決して一恵と結婚することはないだろう。そこまでは考えるが、では久恵の存在は何だろう。彼女は魅力的である。もし佳津枝の存在を抜きにして、久恵と一恵だけが相手だったらどうなるだろうか・・・・・、当然、久恵を選ぶだろう。いつもそこまで考えて最初に戻り、思考は堂々巡りになってしまう。
 秋が過ぎ、12月がやって来た。
 いつもの飲み会で、大室が今年の暮もスキーを計画したいが、参加希望者があれば連絡して欲しいと言った。去年は故郷に帰ったが、今年はどうしようというのが光太郎の大きな課題になった。故郷に佳津枝という恋人がいることは、誰にも言っていない。無論、それは久恵を意識してのことである。
 その間も、佳津枝とは電子メールの交換を続けていた。佳津枝は、こまめに日々のことを書いて寄越し、光太郎もその都度返事を送り返していた。今までの夏休み、冬休みのこともあるので、佳津枝は当然光太郎が広島に寄って帰って来るものだと思っているようである。そこで急に年末はスキーに行くと言ったらどう思うだろうか。もし佳津枝がいなくて両親だけだったら、迷うことなくスキーに行くだろう。
 スキーに行った場合、帰省は元旦になってしまう。正月の5日には仕事が始まるから4日には帰って来なければならない。故郷への滞在は実質3日になり、佳津枝とゆっくり逢っている時間はなくなってしまう。
 光太郎は、行くべきか止めるべきか、去年よりその迷いは大きかった。
「三永君、スキーはどうするの?」
 朝の通勤のとき、久恵が聞いた。
「で、松島はどうするの。今年も行くの?」
「ええ、行きたいと思っているわ。」
「そうか、でも俺って、スキーの経験がないんだよ。」
「あらっ、大丈夫よ。去年も九州から来た下園君がいたけど、大室君がスキー教室みたいにして教えていたわ。わたしだって学生時代に何回か行ったことがあるだけで、まるで下手だけど、楽しいわよ。それにもっと楽しいのが、夜の飲み会ね。スキーで疲れているから、飲むとぐっすり眠れるのよ。宿は大部屋だし、本当に楽しいのよ。」
「そうか、そんなに楽しいのか。」
「そうよ、いらっしゃいよ。本当に楽しいわよ。」
「じゃあ、行くか。」
「ええ、楽しいわよ。私も、三永君が来てくれると嬉しいわ。だって、この会社に来て、最初の知り合いですものね。」
「うん、行くよ。今晩にでも、大室に頼んでおく。」
 結局、光太郎はスキーに行くことにし、その夜、佳津枝にメールを送った。
「今年の暮れは、会社の仲間とスキーに行くことになった。そちらに帰るのは、正月が明けてからになると思う。君に逢うのが遅くなるのは残念だけど、これも付き合いだから了解して欲しい。
          光太郎」
 その翌日、ポストを見ると一恵からのメモが入っていた。
                −続く−







2026/06/05 6:25:27|小説「春の行方」
春の行方−19−
春の行方−19−

 光太郎は、仕方なく後ろから歩いていたが、一恵はラブホテルのあるところまで行き、辺りを見回すと、そのまま中に入って行った。光太郎が躊躇していると、一恵は振り向いて手を取り、そのまま入り口で手続きをして階段を上り、部屋に向かって行った。全く、有無を言わせない感じだった。
 二人は、ベッドの中で裸で抱き合っていた。酔いの中で身体を交え、疲れで眠ってしまったらしい。
 目覚めた光太郎に一恵が言った。
「前から、三永君のことを好きだったわ。いつかこうなりたいと思っていたの。」
「・・・・・・・」
「でも、心配しないで。結婚してくれなんて言わないわ。こうしてたまに一緒に付き合ってくれれば良いの。」
「・・・・・・・」
「それに私、誰にも言わないから大丈夫よ。みんなにバレたら、お互い寮に居辛くなるものね。」
「はい・・・」
「私、ときどきあなたの郵便受けにメモを入れておくわ。あなたも、返事は私の郵便受けに入れておいてね。」
「・・・・・・・」
 光太郎は、一方的な言い分にムッとしたが、こうなった以上逆らえないような気がしていた。
 結局、ホテルを出たのは、翌日の朝早くであった。町は寝静まっている。
 寮の玄関に来たとき、一恵は光太郎にキスをしながら、耳元で囁いた。
「ネッ、昨日の約束を忘れないでね。」
 光太郎は、一恵と別れると、音をさせないようにそっと自分の部屋に戻った。
 その後、月に1回ほど一恵からのメモが郵便受けに入っていた。週末に、明日の夜飲みに行かないかいう内容のものである。勿論、飲むだけでは済まない。光太郎は、寮の人達に知れるのが怖かった。噂になれば、仲間に顔向けもできなくなる。
 最初は、都合が悪いからと断ったが、それも何回も続けられるものではない。3回目の誘いのとき、OKの返事をした。
 一恵から、上野で会おうと言って来た。寮のある松戸では、人目につくことを懸念したのであろう。
 そうした付き合いが、1ヶ月に一度ほどの割合で続いた。一恵は、ある意味では強引だったが、それ以上は求めなかった。飲むときには一恵が払ったり光太郎が払ったりしたが、ホテル代は大抵一恵が払った。そしてそのとき以外は、光太郎と接触することはほとんどなかった。
 光太郎の朝の通勤は、相変わらず久恵や大室と一緒で、たまに一恵と一緒になることはあっても、一恵は黙って話を聞いているだけでほとんど何も喋らなかった。
 しかし、一恵との関係は、光太郎の態度に微妙に影響を与えていた。まず久恵への接し方に後ろめたさというか、引け目というか、今までのようにフランクに付き合えない気持ちになっていた。その後も、大室達と一緒に飲みに行くことはあったが、何となく後ろめたさが付きまとっていた。
 就職して2回目の夏休みは、瀬戸内の故郷に帰って佳津枝や家族と過ごした。去年と変わらない夏休みだった。
 夏休みが終わっても、一恵との関係は続いた。
一恵は、普段は光太郎など眼中にないという態度を崩さなかったが、あるとき情事が終った後でポツリと言った。
「私達、いつまでこうしていられるのかしらねえ・・・・・」
その様子は、いかにも寂しそうだった。
           −続く−







2026/06/04 2:32:12|小説「春の行方」
春の行方−18−
春の行方−18−

 光太郎は、焦った。行き先も告げず、トイレに立つふりをして出て来たので、急いでみんなのところに帰らなければならない。しかし一恵は、一方的に話を続けている。
「あの〜、すみません。僕、今日のバーベキューの幹事だったので、今、打ち上げをやっているのです。帰らないと・・・・・」
 話の合間に、やっと光太郎が言った。
「そうだったの、それ、何時頃終るの?」
「多分、あと1時間ほどで終ると思います。」
「わかったわ。じゃあ、それが終ったらまたここに来て。私、待っているから。」
「でも・・・・・」
「いいでしょう。ネッ、早くみんなのところに戻ってあげなさい。」
「はい・・・・・」
 結局、一恵に押されるようにカラオケボックスを出て、みんなのいる居酒屋に戻った。
 席に戻ると、大室が言った。
「おい、どこに行ってたんだ。随分、長いトイレだったぜ。」
「ああ、俺、丑年なんだ。トイレは長いんだよ。」
そう言って誤魔化したが、一恵の言ったことが気になっていた。
 バーベキューでも飲んでいたので、さすがに誰も二次会に行こうとは言わなかった。
 打ち上げが終って、みんなが揃って寮に帰ろうとするのを、「俺、ちょっと用事があるから。」と言って別れ、そのまま一恵の待つカラオケボックスに向かった。
 部屋に入ると、一恵は一人で歌を歌っていた。
「三永君、待っていたわ。打ち上げは、もう終ったの?」
「ええ、先ほど。」
「そう、歌は得意なのでしょう。歌いましょうよ。」
「でも、僕、歌は苦手です。」
「そう、じゃあ、もうちょっと飲みに行きましょう。明日は、休みだし大丈夫でしょう。」
 一恵はそう言うと、インターフォンでフロントに電話をして、清算してくれるように頼んだ。
「すぐ近くに私の行きつけのスナックがあるの。」
 一恵はそう言うと、さっさと歩き始める。光太郎は、断わりきれずに黙って後ろから着いて行った。一恵が入ったのは、小さなスナックである。看板には、「再会」とあった。
 店に入ると、カウンターの中の中年のおやじが「おっ、一恵さんいらっしゃい。」と言った。その言い方から、一恵はこの店の馴染みらしい。
 一恵は、キープしてあるウィスキーのボトルを出すようにマスターに言い、水割りを頼んだ。光太郎は、今までにかなり飲んでいたので、あまり飲む気になれなかったが、水割りを薄くしてくれるよう頼んだ。
「今日は、お疲れさまでした。大変だったでしょう。」
「ええ、でもみんなが協力してくれたので、大したことなかったです。」
「ここは気楽な店だから、安心して飲んでね。私、仕事で嫌なことがあったりすると、たまに来るのよ。マスター も良い人だから、あなたも一人で飲みたいときは来たらいいわ。」
「はい・・・・・」
 一恵はウキウキした感じで、光太郎は何となく腑に落ちないものを感じながら飲んでいた。しばらく飲んでいたとき、一恵が「行きましょうか。」と言った。
 時計を見ると、11時を回っている。
 光太郎は、「帰ろうか。」ではなく、「行こうか。」と言う一恵の言葉に奇異なものを感じていた。
 店を出た一恵は、寮と反対方向に歩き始めた。
「あっ、先輩、方向が逆ですよ。」
 思わず光太郎が言ったが、一恵はそれを無視するように歩いていた。
            −続く−