春の行方−22−
スキーは、28日から大晦日までの予定である。 28日の午後に上野駅を出て、途中で乗り換えながら鈍行列車で行く旅であるが、これが楽しい。最初は混んでいた電車も、東京から離れる毎に座れるようになる。5人はボックスの席を確保して、ビールやジュースなどを買い込んで既に宴会である。ここでも陽子はヒロインだった。冗談を飛ばしながらも笑顔を絶やさず喋り続けている。今までのヒロインだった久恵も、完全にお株を奪われたという感じで、静かにしている。 スキー場のホテルに着いたときには、既に冬の陽は沈みあたりは薄暗くなっていた。男3人、女2人の別々の部屋に荷物を置くと、そのまま夕食である。このときも、陽子は賑やかだった。その話に、男達の笑い声が絶えない。食事を終えてから温泉に入り、その日は床に就いた。 翌日からスキーが始まる。光太郎と陽子のために、大室はスキーや靴を借りるのを手伝ってくれた。いざスキーを付けると、これが大変である。レッスンのために緩やかな傾斜を歩いて行くのに何度も転んだ。それは陽子も同じで、転ぶ度に照れ笑いをしている。 光太郎と陽子は、スキー場の開催する初心者用のレッスンを受けることにした。久恵と飯坂は、大室が教えることになり、3人はリフトの方に向かっていた。 レッスンは疲れたが、運動神経の良い光太郎は比較的早くコツを飲み込むことができ、午前中には、緩い斜面でのボーゲンくらいは滑れるようになっていた。それに比べて陽子は大変で、何度も転んでいた。 一日が終わったときは、みんな疲れていたが、特に光太郎と陽子はグッタリとしていた。食事のときも、陽子は静かだった。食事を終って、飲みながらお喋りをしているとき、コクリコクリと居眠りをしていた。 3日間のスキーはアッという間に終った。 光太郎は、緩斜面でなら何とか滑れるようになっていた。やっと面白さがわかった頃である。また来たいと思った。 スキーを終えて寮に戻ると大晦日の夕方である。光太郎は、佳津枝の家に電話をした。最初、父親が出てきたが、すぐに佳津枝に代わった。 「今、スキーから帰って来た、明日、そっちに帰るよ。」 「スキー、どうだった?楽しかったのね。」 「うん、お陰さまで。」 「明日は、何時ごろ?」 「うん、朝なるべく早く出るから、昼には着けると思う。」 「じゃあ、時間が決まったら教えて。駅まで迎えに行くわ。私、免許を取って車を買ったのよ。」 「そう、大丈夫?」 「アラッ、やだ。出発したら、電話をちょうだいね。」 「うん、じゃあネ。」 「はい、良いお年を。」 光太郎は、スキーの疲れもあってすぐに寝た。 元旦の朝は忙しかった。昨日の夜、疲れで早く寝たので、荷造りも残っている。やっと支度を終えて寮を出ようとしたとき、ふと郵便受けを見ると一恵からのメモがあった。それを読むゆとりもないままポケットに押し込むと、急いで駅に向かった。 元旦の電車は空いていた。初詣に行ったらしい人達が、破魔矢を持っている。 座席指定を取らなかった新幹線の自由席も空いていた。光太郎は、ポケットに手を入れたとき、紙片があるのに気が付いた。一恵からのメモだった。 −続く− |