男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2026/06/13 4:13:48|小説「春の行方」
春の行方−27−
春の行方−27−

 光太郎は、一恵の言葉に答える代わりに抱き締めてキスをした。そしてせっかちに彼女のコートとセーターを脱がせると、そのままベッドに倒れ込んで行った。
 行為が終った後で、一恵が言った。
「三永君、誰かを好きになったけど振られたの?誰かっていうのは、松島さんじゃないわね。三永君には、田舎に恋人がいる、だから私を求めた、そんなところかしらね。」
「・・・・・」
「答えなくてもいいわ。私だって、会社に入った最初の頃は、何人か好きになった人がいたし、また私に交際を求めて来る人もいた。そんな相手の男性をそれぞれ比較した。ハンサムな人もいたし、優しい人もいた。また身体だけを求めて来る男だっていたわ。男の三永君が何人かの女性を好きになったとしても不思議じゃないと思う。でもねえ、何か信義のようなものは必要だと思うわ。それでなけりゃあ、ただのプレイボーイになってしまうものね。」
 光太郎は、一恵がこれまでにどんな恋愛をして来たのだろうかと思った。しかし、それを聞いては却って口を閉ざしてしまうかも知れない。黙って話を聞いていた。
「青春って、迷いが多いわね。特に、男女の仲のことになるとそうだわ。私も、ある時、ある人と恋人と言える関係になった。とても優しくて紳士的な人だったわ。その時、他の男の人の全てがただの人に見えて来た。これが恋だと言うことに気付いたの。でも、その恋は実らないものだった。彼には、既に奥さんがいたのよ。」
「・・・・・」
光太郎は、彼女の言葉にただ黙っているだけだった。
 一恵は、話を続けた。
「彼とは2年ほど続いた。彼が私を愛してくれているのは確かだった。恋に夢中だった私は、彼の家のところまで行ったこともあったわ。勿論、彼には内緒で。そしたら奥さんが庭先で洗濯物を干していた。夏のことで、彼は開け放った部屋に寝そべって奥さんの方を見て、何かを話し掛けている。これが家庭で、結婚生活だと思った。その次のときから、私は彼の誘いに応じなくなった。電話があっても無視したわ。そう、あの頃までは、部屋に電話を置いていたのよ。でも、その後、電話も引き払ったの。だから、今でも電話を置いていないのよ。彼との関係を精算したかったの。」
 光太郎は、彼女が部屋に電話を置いていない理由を初めて知った。
「苦しかったわ。恋を失うことが、こんなに苦しいものだと初めて知った。それ以来、恋はしないことにしたの。でも私だって女、一度知った男とのことが思い出されることもあるわ。でも女って不自由なものね。男の人みたいに自由になるものではないわ。そこに去年、三永君が現れたってわけ。三永君は素敵だわ。でも、すぐにこの人には好きな人がいるってわかった。確かに、松島さんと親しくしていることはわかるけど、彼女じゃないと思った。身体の関係のある男女って、女の目で見ればすぐにわかるの。別なところに恋人がいるんだなって思った。私の誘いへの応じ方でもそれがわかるわ。恋人のいるゆとりのようなものがあるのね。」
 光太郎は、一恵の言葉に、大きな恋をし、それを失った一人の女の心の大きさを感じていた。
            −続く−







2026/06/12 2:09:27|小説「春の行方」
春の行方−26−
春の行方−26−

 光太郎は、久恵の言葉の意味がわからず、しばらく目を見つめていたが、やがて話を聞いて欲しいのが光太郎だと言っているのに気付いた。愛を告白しているようでもある。しかし光太郎は、何と言って良いかわからなかった。何かを話せば、野暮なような気がした。
 不自然な空気が流れる。光太郎は、立ち上がって久恵のところに行くと、彼女の頬に手を添えて額にキスをした。久恵が顔を上げた。光太郎は、唇にキスをした。二人には長い時間が過ぎたように思えたが、実際はそんなに長い時間ではなかったのであろう。
 次にビールのグラスを手に取ったとき、二人は横に並んで座っていた。
「私、三永君のことを最初から好きだった。」
「僕もだ。」
「でもキスしてくれたのは初めてだわね。」
「そうだね、東京に出て来て最初に知り合った仲なのにね。」
「しかも、部屋はお隣さんなのに。」
「不思議だね。」
「ホント、不思議だわ。」
 そのとき、光太郎の心の中に、佳津枝の存在が浮かんだ。
 もしこのまま久恵の手を取れば、ベッドに行くことも拒まないだろう。むしろ、それを望んでいるのかも知れない。体の関係で言えば一恵ともことあるのだが、それはドライな関係、はっきり言って体だけの関係だった。しかし、久恵とは違う。心を伴っている。それが、光太郎を躊躇させていた。
 光太郎は自分の心を抑え、情熱の世界からビールと会話の世界に戻って行った。
 結局、翌日からの仕事もあるので、光太郎は11時過ぎには帰ると言った。玄関まで送りに来た久恵にキスをした。キスを終えるのが勿体ないような気がして、二人はしばらく抱き合っていた。久恵の玄関のドアを開ける時、廊下に誰かがいないか耳をすませた。今までに、何度か久恵を訪ねて来たことはあったが、こんな用心をしたのは初めてだった。
 自分の部屋に戻った光太郎は、シャワーを浴びてからベッドに入ったが、なかなか寝付けなかった。久恵の唇の感触が忘れられなくて、身体が興奮している。久恵をベッドに誘わなかったことさえ後悔のような気がしていた。そのとき、一恵が、光太郎の恋人を守るために寝ているのだと言った言葉を思い出した。
 一恵との関係は月に一度程度続いていたが、光太郎から求めることはほとんどなく、大抵は一恵の方から誘って来た。しかし、このときは、体の高ぶりを抑えることができず、夜遅くになって「逢いたい。」というメモを書いて、玄関の一恵の郵便受けに入れた。
 一恵と会うには、金曜日まで待たなければならなかった。平日は残業があり、時間の約束ができないからである。一恵は、金曜日にはスナック「再会」に行っている。そこで仕事の帰りに寄れば良いのである。
 二人は、「再会」で会い、しばらく飲んでから、いつものようにホテルに入った。部屋に入るとすぐに一恵が言った。
「あなたから誘ってくれるなんて初めてよね。何かあったのね。」
            −続く−







2026/06/11 0:55:34|その他
春の行方−25−
春の行方−25−

 電車が走り佳津枝の姿が見えなくなると、光太郎は空虚な世界に落ちたような気がした。今まで、佳津枝のことをこんなに意識したことはなかった。今回は、スキーに行ったため滞在できたのは正味3日、その中で佳津枝と一緒にゆっくりできたのはほんの数時間だけだった。そのことが、未練を大きくしたのであろうと思った。
 しかし、電車が東京に着いて寮に戻ったとき、光太郎の心はすっかり東京モードに戻っていた。部屋に荷物を置くと、そのままお土産を持って久恵の部屋のチャイムを鳴らした。部屋の明かりが見えるから帰って来ているはずである。久恵はすぐに出てきた。
「俺、今帰って来たんだ。これ、故郷のお土産、大した物じゃないけど。」
 光太郎は、そう言いながら買ってきた土産を差し出した。
「あっ、三永君も帰って来てくれたのね。わたしも、お土産があるの。ところで三永君のって、かまぼこじゃない。私のは、浜名湖のうなぎの白焼きなのよ。明日からの仕事の予定がわからないし、私の部屋で一緒に食べちゃわない?」
「うん、そうだね。じゃあ、俺、部屋からビールを持って来るよ。」
「ねえ、大室君にも声を掛けましょうか。」
「僕達二人だけで、いいんじゃない。」
「そうね・・・・・」
 そこまで聞いた光太郎は、部屋に戻って冷蔵庫から冷えているだけのビールを腕に抱えて、久恵の部屋に戻った。
 光太郎が戻ってきたとき、久恵は、自分で持ってきた鰻の白焼きと光太郎の持ってきた蒲鉾を切って皿に盛り付けていた。
 1年半が過ぎるが、久恵の部屋に入ったのは引っ越しのとき以来二度目である。部屋の雰囲気は、光太郎の部屋とは随分違うが、居間には小さなテーブルがあるだけだった。
 そこで、鰻の白焼きと蒲鉾でパーティーである。二人は、光太郎の持ってきたビールを飲みながら食べたが、どっちも地域の名産だけあって、美味しかった。
「三永君は、お正月楽しく過ごした?」
「うん。お陰さまで。久恵さんはどうだった?」
「ええ、ずっと家族と一緒だったの。でも、最初は良いけど、正月ってある意味退屈ね。だって、みんな忙しそうだし、ゆっくり話もできないでしょう。」
「そうだねえ、どんなに離れていても、家族で話し合わなければならないことなんて、そんなにたくさんある訳じゃないしね。」
「男の人って、特にそうみたいね。でも、女の気持ちって、ちょっと違うのよ。」
「どう違うんだろうねえ。」
 光太郎は、つまみを食べ、ビールを飲みながら聞いた。
「そうねえ、私だって女だからお喋りは好きよ。でもそのお喋りも、聞いて欲しい人の前で喋りたいわ。今は、その人が私の家族じゃないの。」
 光太郎には、久恵の言っている言葉の意味がわからなかった。
「ふ〜ん・・・・・」
 光太郎は、意味がわからないままに生返事をしていた。
              ―続く―







2026/06/10 4:45:27|小説「春の行方」
春の行方−24−
春の行方−24−

 岬の小山を越え、砂洲に差し掛かったとき、光太郎は佳津枝を抱き寄せてキスをした。
 正月に帰って来て、4日には東京に戻らなければならない。明日は、家にいるだろうから、ゆっくり会っていられるのは今日だけである。
 キスをしながら、光太郎がささやいた。
「二人でゆっくりした時間を過ごしたい。」
佳津枝が、小さく頷いた。
 車に戻ると、家とは反対方向に走り、国道沿いのモーテルに入った。そこで数時間愛の時間を過ごし、家に帰って来たときは、夕方になっていた。
 光太郎は、佳津枝に家に寄っていくように勧めたが、家族とゆっくり話があるでしょうと言って、そのまま引き返した。
 いつもは光太郎の行動に興味を示して質問する美子だが、この日はどこに行ったかも聞かなかった。何があったかは、ちゃんと承知しているらしい。
 3日は、家にいた。父親と飲みながら、家族で時間を過ごす。最初は、母親の質問に応じていたが、それも長続きはしない。午後になると退屈を覚えるようになった。美子は、友達のところに行くと言って出掛けて行った。
 光太郎は、佳津枝に電話しようかと思ったが、佳津枝も家族団らんのときを過ごしているはずであり、電話することを躊躇した。そしてその時頭に浮かぶのは、佳津枝の父親の顔だった。
 光太郎は、家族、親子であっても、男と女の感情は存在すると思っている。現に、光太郎の父親はどっちかというと美子びいきであるし、母親は光太郎を可愛がってくれる。光太郎自身、父親は煙たく思う部分があったし、母親には心から甘えられるような気がしていた。従って、佳津枝の父親の佳津枝に対する愛情には、底知れぬものがあるような気がする。ある意味で、二人は佳津枝という一人の女をめぐる男のライバル同士であるような気がしていた。
 結局、光太郎の方からは電話をしなかったが、夜になって佳津枝の方から電話が来た。明日、広島まで一緒に車に乗って行かないかというものだった。佳津枝も広島に帰らなければならない日である。光太郎は、喜んで応じた。
 翌日の朝、迎えに来た佳津枝に対して、父親は機嫌が良かった。普段、感情を表に表さない父親であったが、この日は冗談まで言ったりしていた。
「お父さんって、いい人ね。」
車が走り始めたとき、佳津枝が言った。
「うん、あれでけっこう偏屈で頑固なんだけどね。」
そう言った光太郎の気持ちには、肉親を褒められた嬉しさとともに、軽い嫉妬のようなものがあった。
 2時間ほどで広島駅に着いた。荷物を下ろして駅のホームに向かう。佳津枝もホームまで一緒に着いて来た。
 新幹線が着いた。光太郎は、「次は夏休みだね。寮に着いたらメールをするよ。」と言って、列車に乗り込んだ。
 佳津枝は、光太郎の席のところに来て、手を振った。列車が走り始めると、佳津枝は益々大きく手を振っていた。
              −続く−







2026/06/09 4:21:19|小説「春の行方」
春の行方−23−
春の行方−23−

 一恵のメモは、仕事納めの日に書かれたもので、これから岡山の実家に帰る、良い正月を迎えて欲しい。来年もよろしくという内容のものだった。光太郎は、それを読むと、再びポケットに仕舞い、眠りに就いた。
 故郷の駅に着いたのは、昼を過ぎた時間であった。本当ならそこから在来線に乗り換えるのだが、今回は佳津枝が車で迎えに来ていた。持っていた両手の荷物の片方を手に取りながら、佳津枝は笑顔で出迎えた。
「明けまして、おめでとう。スキー、お疲れさま。骨を折ったりしなくて良かったわ。心配していたのよ。」
「おめでとう。そんな怖いところには行かないから大丈夫だよ。もうちょっと上手になると危ないかも知れないけどね。」
「あまり、無理しないでね。まだ入社して日が浅いし、怪我でもすると大変だわ。」
「うん、でも佳津枝の車に乗るのと、どっちが危ないだろうね?」
「マア、憎らしい! こう見えても、私、ドライブテクニックには自信があるのよ。」
 ちょっと怖そうな目をしたが、そういう佳津枝の表情には光太郎と会っている安堵感のようなものが感じられた。
 車は、そのまま光太郎の家に向かった。当然のように佳津枝も引き止められ、一緒に夕食をした。お互いの家がすぐ近くであるから、運転の心配をすることはない。勧められるまま、佳津枝もビールを飲み、楽しい時間を過ごした。
 とは言っても、佳津枝だけはあまり喋らない。そんな佳津枝を代弁するように、妹の美子が言った。
「お兄ちゃん、スキーに行ったんだって。誰と?」
「うん、会社の仲間だよ。」
「女の人も一緒にいたの?」
 その質問に、光太郎はちょっと戸惑った。
「うん、いたけど、5人で行ったんだ。心配しなくても大丈夫だよ。それより、美子はスキーなんかしたことがないだろう。なかなか面白いぜ。」
 やっとの思いで光太郎が答えた。
「ふ〜ん・・・・・」
 美子は、納得していないような顔つきであったが、続けた。
「お兄ちゃん、明日はどうするの? 佳津枝さんと、初詣にでも行って来たら。」
「そうだねえ。でも佳津枝の都合はいいの?」
「ええ、私は大丈夫だけど、でもお家の方達との積もるお話もあるのでしょう。」
「いいのよ、光太郎。佳津枝さんと行ってらっしゃいよ。」
母親が、横から手助けをしてくれた。
 元旦の夕食が終り、光太郎は佳津枝を家まで送って行った。僅か数百メートルの距離であるが冬の夜道は暗い。佳津枝の家の近くまで来たとき、光太郎は彼女を抱き寄せてキスをした。
 翌日の朝、佳津枝がやって来た。車は、光太郎の家の庭に置いてあった。佳津枝は、家族に挨拶をすると、光太郎を乗せて走り始めた。
「普賢様にお参りする?」
「そうだね。去年もお参りしたよね。」
バスと違って、車で行くとすぐだった。バスだと1時間以上もかかるのだが、車だと15分もあれば着いてしまう。
 正月はさすがに初詣客が多く、参拝するのに行列を作らなければならなかった。佳津枝は、今年も長い間祈っていた。
 参拝が終ると、岬の方に車を走らせた。瀬戸内の海は、冬でも静かである。二人は車から降りて浜辺を歩いた。冬の日が暖かく二人を包んでいる。
 象鼻が岬は、島が砂洲で繋がれ、その先に更に砂嘴が伸びていて、その姿が象の鼻のように見えることからこの名前がある。瀬戸内海でも絶景の景色のひとつなのだが、交通の便が良くないせいか訪れる人は少ない。
 二人は、お互いの想いは秘めつつも黙ったまま海岸の松林を歩いていた。
               −続く−