春の行方−27−
光太郎は、一恵の言葉に答える代わりに抱き締めてキスをした。そしてせっかちに彼女のコートとセーターを脱がせると、そのままベッドに倒れ込んで行った。 行為が終った後で、一恵が言った。 「三永君、誰かを好きになったけど振られたの?誰かっていうのは、松島さんじゃないわね。三永君には、田舎に恋人がいる、だから私を求めた、そんなところかしらね。」 「・・・・・」 「答えなくてもいいわ。私だって、会社に入った最初の頃は、何人か好きになった人がいたし、また私に交際を求めて来る人もいた。そんな相手の男性をそれぞれ比較した。ハンサムな人もいたし、優しい人もいた。また身体だけを求めて来る男だっていたわ。男の三永君が何人かの女性を好きになったとしても不思議じゃないと思う。でもねえ、何か信義のようなものは必要だと思うわ。それでなけりゃあ、ただのプレイボーイになってしまうものね。」 光太郎は、一恵がこれまでにどんな恋愛をして来たのだろうかと思った。しかし、それを聞いては却って口を閉ざしてしまうかも知れない。黙って話を聞いていた。 「青春って、迷いが多いわね。特に、男女の仲のことになるとそうだわ。私も、ある時、ある人と恋人と言える関係になった。とても優しくて紳士的な人だったわ。その時、他の男の人の全てがただの人に見えて来た。これが恋だと言うことに気付いたの。でも、その恋は実らないものだった。彼には、既に奥さんがいたのよ。」 「・・・・・」 光太郎は、彼女の言葉にただ黙っているだけだった。 一恵は、話を続けた。 「彼とは2年ほど続いた。彼が私を愛してくれているのは確かだった。恋に夢中だった私は、彼の家のところまで行ったこともあったわ。勿論、彼には内緒で。そしたら奥さんが庭先で洗濯物を干していた。夏のことで、彼は開け放った部屋に寝そべって奥さんの方を見て、何かを話し掛けている。これが家庭で、結婚生活だと思った。その次のときから、私は彼の誘いに応じなくなった。電話があっても無視したわ。そう、あの頃までは、部屋に電話を置いていたのよ。でも、その後、電話も引き払ったの。だから、今でも電話を置いていないのよ。彼との関係を精算したかったの。」 光太郎は、彼女が部屋に電話を置いていない理由を初めて知った。 「苦しかったわ。恋を失うことが、こんなに苦しいものだと初めて知った。それ以来、恋はしないことにしたの。でも私だって女、一度知った男とのことが思い出されることもあるわ。でも女って不自由なものね。男の人みたいに自由になるものではないわ。そこに去年、三永君が現れたってわけ。三永君は素敵だわ。でも、すぐにこの人には好きな人がいるってわかった。確かに、松島さんと親しくしていることはわかるけど、彼女じゃないと思った。身体の関係のある男女って、女の目で見ればすぐにわかるの。別なところに恋人がいるんだなって思った。私の誘いへの応じ方でもそれがわかるわ。恋人のいるゆとりのようなものがあるのね。」 光太郎は、一恵の言葉に、大きな恋をし、それを失った一人の女の心の大きさを感じていた。 −続く− |