春の行方−32−
夕食に出た二人だったが、結局行き先は駅前の居酒屋だった。 光太郎は、さすがに飲みたくなかったが、久恵は意外と平気なようである。光太郎はビールをゆっくり飲んでいたが、久恵のペースは早い。しばらくは会社の話などをしていたが、光太郎は気になっていた昨夜のことを口に出した。 「ねえ、気になっているんだけど、昨日の俺どうしたの?」 「アッ、三永君、まだ気にしていたの?そりゃあ、心配かもね。だって、あんなことをするんだもの。」 ニヤニヤ笑いながら言う久恵に、光太郎は益々不安になる。 これが普段のことだったら、気にすることもないだろう。何と言っても不安なのは、自分の記憶がないことである。二人で飲んで記憶がない後で気付いたら下着姿だった、これはどうにも自分で自分の行動が理解できない。光太郎は、素直に自分の気持ちを白状した。 「頼むから教えてくれよ。変なことをしていたんなら、あやまるから。」 「いいわ、わかった。後で教えてあげる。今日はもうちょっと飲みましょうよ。昨日の続きがあってもかまわないわよ。」 久恵は、そう言うとビールのジョッキを差出して、乾杯の仕草をした。光太郎も、ここでは逆らう意欲もなく黙って自分のジョッキを久恵のジョッキに合わせた。 しばらく雑談が続いた。久恵は楽しそうに喋っている。光太郎は、黙ってそれを聞いていた。また昨夜のことを聞く勇気もない。 「帰ろうか。」 光太郎が言った。 「そうね。それで良いのならそうしましょう。」 久恵が、にやりと笑いながらそう言って、二人は寮への帰途についた。 帰り道、光太郎は無口だった。 光太郎の不機嫌に気付いた久恵もしばらく無言で、しばらく気まづい雰囲気があったのだがそれを破るように久恵が言った。 「三永君、怒ってるの?」 「・・・・・」 「怒っているなら、それはおかしいわ。三永君だって、営業でのお付き合いってあるのでしょう。そんなときに酔っ払って自分を失うって許されないわ。昨日は、私の部屋だったから大丈夫、心配しないで。」 「大丈夫って、何があったんだよ。頼むから教えてくれよ。」 「だから心配することなんかないのよ。私が期待していたこともなかったのよ。」 「だから、何があったんだよ。」 久恵が、軽い笑みを浮かべて言った。 「そんなに心配なの。だったら教えてあげる。三永君、飲んでいるときに、突然床に倒れて寝てしまったのよ。私、大丈夫かと心配になって、脈をとったり、心臓に手をあててみたりしたわ。でも大丈夫だった。心臓も肺も元気に動いていたの。そこで、三永君に『大丈夫?大丈夫?』って声を掛けたの。そしたら三永君が朦朧とした目を開けた。そして立ち上がると、ゆっくりとシャツを脱ぎ始めたの。私、何を考えているのかと気味が悪くなったわ。」 「それから・・・・・?」 光太郎が、不安そうに訊ねた。 「そして今度はズボンのベルトを緩め始めるの。私、何を考えているのか本当に不安になったわ。だって、私の部屋に二人しかいないのよ。」 その言葉に、光太郎は益々不安を募らせた。 −続く− |