蛍―02―
私は、話を続けた。 「本当に景色の良いところですね。」 「そうです。四季折々に景色が変わりますから、何度登っても飽きません。」 「この山にはよく登るのですか?」 「えゝ、週に2,3回は登ります。」 「近くにお住まいですか?」 「そうですね、あのあたりに住んでいます。」 彼女は、北の山の間の方を指さした。 「それじゃあ、僕が降りる方向と逆じゃないですか。」 「大丈夫です。麓の道を歩くのは慣れていますから、駐車場のわかるところまではご案内します。」 「すみません。」 私は、申し訳ない思いで丁寧に頭を下げた。 「これをいかがですか?」 私は、リュックからビスケットを取り出すと、彼女に差し出した。 「ありがとうございます。遠慮なくいただきます。」 そう言って、ビスケットを受け取った。私がビスケットを食べると、彼女もそれを口に入れた。 30分ほど休憩した後で、彼女が「じゃあ下りましょうか。」と言った。 私は、リュックを背負うと、彼女の後ろから着いて歩いて行った。彼女の足取りは軽やかだった。途中に急な岩場もあるのだが、彼女はどんどん下りて行った。私は、必死に着いて行った。ときどき彼女は後ろを振り返り、笑顔で私の様子を見て、私が追い着くのを待っていた。 1時間ほどして、かなり下山したとき、下の方に駐車場が見えた。 「あそこに駐車場が見えています。この道を真っ直ぐ行けば、駐車場に行きます。私は、ここでお別れしますが、気を付けて行ってください。」 「ありがとうございました。助かりました。僕は、三嶋と言いますが、お名前を伺っていいですか?」 「山野と言います。」 「またお会いしたいですね。」 「そうですね。楽しみにしていますわ。」 彼女はそう言うと、私と違う方の道を下りて行った。私は、彼女の後姿が見えなくなるまでずっと見ていた。 帰りの車の中で、私は彼女のことを考えていた。 その日から、彼女に会えるのが楽しみになって、毎日のように山に登った。 やっと彼女に会えたのは3日後だった。山頂で休憩していると、人の気配が感じられた。振り向くと、木々の茂みの間から彼女の姿が現れた。 ―続く― |