春の行方−38−
考えた末、結局、光太郎は今年もスキーに行くことにした。そのことを佳津枝にメールで伝えると、楽しんで来てとは返事が来たものの、行間には残念そうな気持ちが滲んでいる。 今回のメンバーも去年と同じ5人、大室、飯坂、久恵、陽子それに光太郎だった。暮れの休みに入ると、すぐに湯沢に向けて出発である。 光太郎は、去年のレッスンの成果もあって、中級向け程度のスロープなら滑れるようになっていた。こうなるとスキーも楽しい。大室は、久恵や陽子に付きっきりで教えているが、飯坂と光太郎は、それぞれに別の場所で滑っていた。 2日目の午後になって、光太郎はもうちょっと上から降りて来ようとゲレンデの一番上までリフトで上って行った。スロープもかなりきつい。それでも慎重に滑り降りて来た。2回目、3回目になると自信もついて来る。だんだんとスピードを上げて降りるようになった。元々運動能力は高い方なので、上達の度合いも早かった。 4回目の滑降に入り、スロープの半ばまで来たときである。突然、衝撃を受けて転倒した。後ろから誰かに衝突されたのである。光太郎の体はスロープを流された。ストックは、手になかった。スキー板は足から外れ、そのままスピードが落ちない。必死で雪面を手で押さえようとするが、一向に効果はなかった。そして行く先に、リフトの鉄塔が近付いて来た。光太郎の記憶はここまでであった。 気が着いたとき、光太郎は病院のベッドに寝ていた。脚にはギブスを巻かれ、頭には包帯がされていた。脚も、頭も強い痛みがある。枕元には、大室と久恵がいた。 「大丈夫か?」 大室が聞いた。 「うん、申し訳ない。」 「俺、どうしたんだろう。」 「うん、滑っていて転倒したんだ。骨折しているんだよ。」 「頭が痛いんだけど。」 「うん、頭から鉄塔にぶつかったみたいだ。今、検査結果が出るのを待っているんだよ。」 「そうか・・・。休暇が明けたら、仕事ができるだろうか?」 「仕事のことは心配するな。営業課長にも言ってあるが、身体を治すことに専念しろということだった。」 「そうか・・・・・」 そこまで言うと、また眠ったようである。 結局、頭については、レントゲンでは異常がないが、詳しいことはCT検査でなければわからないということであった。脚の骨折は複雑骨折には至っておらず1か月でギブスがとれるだろうという。 そんな話を聞いているうちに、光太郎の母親と佳津枝がやって来た。 「光太郎、マア、なんてことを。皆さんには、大変ご迷惑をお掛けしました。」 部屋に入って来ると、大室や久恵にしきりに謝っていた。 「光太郎君、大丈夫?痛みはないの?」 佳津枝が、聞いた。 「うん、心配をかけて申し訳ない。来てくれたんだね。」 その会話を、久恵は誰だろうというような顔で見ていた。妹がいることは知っている筈だが、兄妹の言葉遣いではなかったからである。 −続く− |