蛍―04―
私は、水に入った。これまで散々汗をかいていたので、水の冷たさが心地良かった。 滝つぼは、広く深かった。直径が10mほどの広さで、深いところでは私の胸ほどの高さがある。彼女はその中をぐるぐる回りながら泳ぎ、私も彼女の後ろから泳いだ。 30分ほど泳いでから、私達は裸のまま岩に座った。私は息を切らしていたが、彼女は平然としていた。彼女の裸身が、太陽に光に眩しかった。 私が、「山野さんは、随分泳ぎが上手ですね。」と感心するように言うと、彼女は「わたし、子供の頃から夏は川で泳いでいました。」と言った。きっと子供の頃から、自然の中で育って来たのだろう。 周囲は、深い緑で覆われていて、滝の落ちる音だけが聞こえている。そのとき、何かが叫ぶような音が聞こえた。私が、驚いて振り向くと、彼女が言った。 「猿です。この辺には何頭かいますが、人を襲ったりはしませんから大丈夫です。」 「この辺には、猿がいるのですか。」 「えゝ、いろいろな動物がいます。猿の他にイノシシもいますし、キツネやタヌキもいます。みんな悪戯はしますが、人間を襲ったりはしません。彼等は、ある意味で森の仲間なのです。」 「そうですか、山野さんは怖くはないのですね。」 「そうですね、山の中で暮らしているとみんな友達のようなものです。」 彼女は、やゝ自嘲気味にそう言うと、また水に入った。私も、後を追うように彼女の後に続いた。 その後、30分ほど泳いでは休み、30分ほど泳いでは休んだ。夏とはいえ谷あいの森の日暮れは早い。3時になると、すっかり陽が陰る。 彼女が衣類を身に着けるときの様子は、いかにも純真そのものだった。私が目をやっても、恥ずかしがるような様子はない。私の方を見て、微笑んでいた。 私達は、服を着終えると滝を後にした。 先に歩いている彼女が、分かれ道に来たときに言った。 「ここから一旦山の方に戻るのは大変でしょう。こっちの道を行けば、平坦な道を通って駐車場に行けます。」 そう言うと先に歩き始めた。私は、彼女の後ろを一緒に下りて行った。分かれ道に来たとき、彼女が言った。 「私はここで失礼しますが、こっちに行けば駐車場に行きます。ちょっと距離はありますが、一本道ですから間違えることはないと思います。」 「今日はありがとう。とても楽しかったです。また一緒に泳ぎたいですね。」 私はそう言うと、彼女の肩に手を載せて身体を引き寄せ、唇に軽いキスをした。 彼女はちょっと驚いた様子だったが、すぐに私のキスに応じた。それは唇と唇が触れるだけの軽いものだったが、私の胸は高鳴っていた。 私達は、2日後に会うことを約束してそれぞれの道を歩いて行った。 ―続く― |