蛍―14―
この頃には、美紀も酒が飲めるようになっていた。ワンカップや缶ビールなら1本程度は平気である。飲むと陽気になる。私に抱き着いてキスをしたりして積極的になった。私は、そんな彼女と飲むのが好きだった。 私達は、飲みながら雑煮を食べた。雑煮が終わると、乾き物で飲む。私は、ウィスキーのポケット瓶を取り出すと彼女と自分のカップに注ぎ、彼女のはお湯で割った。 ゆったりとした時間が流れていく。お互い多くは喋らないが、幸せな時間だった。 私達は、昼前に洞窟を後にして、家路についた。 家に帰ると、することがなかった。一人、テレビを見ながら飲んでいたが、心の中は空白だった。 1月が過ぎ、2月が過ぎて、3月の彼岸が過ぎて、日が長くなった。1月や2月には、雪が降る日もあったが、私は毎日のように山と洞窟に行った。美紀は2、3日に1回の割でやって来た。子猿の小太郎も、毎日のように姿を現した。 4月になった。木々は新しい芽を吹き、山の自然にも活気が見られるようになった。 洞窟の近く、夏に泳いだ滝のところに大きな山桜があって、見事な花が淵に覆いかぶさるように咲いていた。私は、美紀とこの下で花見がしたいと思った。彼女に話すと、楽しみですと言う。 その日、私は酒とレジャーシートを、美紀は竹輪やこんにゃく、大根、茹で卵などが入ったおでんを持って来た。滝のところで石を組んで火を熾し、おでんの入った鍋を載せた。焚火の傍にレジャーシートを敷いて、二人で並んで座った。仰向けになって上を見上げると、桜の花が覆いかぶさるように咲いている。 「見事だねえ。」 「きれいです。」 「でも、君のきれいさには敵わないよ。」 「まあ・・・・・」 彼女が、私に抱き着いてキスをした。私は、彼女を抱き寄せて、キスを返した。 そのうちに鍋がグツグツと煮立ってきた。子猿の小太郎は、火から少し離れたところに座っている。 私達は、紙皿におでんを取って食べた。おでんは出汁が効いていて美味しかった。 美紀が、竹輪を口で吹いて冷ましてから小太郎に与えた。小太郎は、恐る恐るそれを眺めていたが、私達が食べているのを見ると、安心したように口に入れた。あっという間に食べると、再び欲しそうに美紀の目を見詰めていた。 美紀と私、小太郎の楽しい時間が過ぎて行った。日が長くなったとはいえ、谷あいの陽が陰るのは早い。3時になると、私達は後片付けをして洞窟に戻った。 酒のせいもあって何もする気がしない。その日、私達は洞窟に泊まった。 ―続く― |