朧月夜−01−
「うん、いいねえ。素晴らしいよ。あんなに素晴らしい娘を一体どこで見つけたの?」 「そうでしょう。偶然なのよ。私が喫茶店にいたら、彼女の方から声を掛けてきたの。それで、前からあなたに頼まれていたでしょう。彼女ならと思って、誘ってみたら、このとおり、この店で働いてくれることになったのよ。」 「じゃあ、彼女とは話はついているのだね。」 「いいえ、それはあなたがすることよ。でも、脈は十分にあるわ。やって見てよ。」 「じゃあ、取り敢えず半額の50万、明日渡すよ。そして見事口説くのに成功したら残りの半分も持ってくるよ。」 私は、以前から赤坂でクラブのママをしている響子に、自分の女になってくれる若い娘はいないかと相談していた。家に帰れば女房はいるのだが更年期で、碌々口もきかない状態が続いていたし、二人の子供は既に結婚しているので、時間とお金を持て余していた。 幸い、自分の事業も成功していて、お金には不自由していない。 今まで真面目に事業にだけ精力を注ぎ込んでいたのだが、50歳を過ぎたとき、ふと自分の人生はこのまま終わっていいのだろうかと疑問に思った。 人生は苦労して業績を残すことも大事だが、それだけでは虚しいような気がした。それとともに、人生を楽しむことも必要である。だからと言って、今更、芸術や趣味を持つほどの下地はない。そうこう考えた末に行き着いたのが女だった。 自分の人生があとどのくらい残っているのかはわからないが、妻以外の女性と仲良くなれる期間は短いと思う。60歳、70歳になれば、精神的にも肉体的にもそんな元気はなくなるであろう。そういう焦りも手伝っていたように思う。 「じゃあ、これからはあなたの腕次第よ。今日この店でもいいし、別なところでもいいわ。彼女には、ある程度言い含めておきますから。」 響子は、そう言うと席を立ち、入れ替わりに友紀がやって来た。 「こんばんは!」 ミニのワンピースに身を包んだ友紀は、スタイルも抜群だし、色白で鼻筋の通った美人だった。美人に特有の険の強さはなく、やや憂いがかった目はいつも優しい笑みを湛えている。昼間は、ある大手の会社に勤めているのだが、お金が必要なことがあって、夜はこのクラブに手伝いに来ているとのことだった。 「やあ、友紀さんだね。ママさんが、とても美人の女の子が入ったって自慢していたけど、本当にきれいだね。」 「まあ、ママはそんなこと言っていたのですか。恥ずかしいですわ。」 友紀はそう言って、本当に恥ずかしそうにした。 ―続く― |