男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2026/07/07 0:37:26|小説「春の行方」
春の行方−51−(最終回)
春の行方−51−(最終回)

 しばらく雑談を続けていたが、大室が「実は、君に報告したいことがあるんだ。」と言った。
「何?」
「実は、僕達、結婚をしようと思うんだ。」
「そうか、それはおめでとう。」
 光太郎の反応に、それまで何となくぎこちなかった二人に安堵の色が見えた。光太郎は続けた。
「俺、大室が久恵さんに好意を持っているのに気付いていたよ。最初は、張り合う気持ちもあったけど、今は心から祝福できるんだ。実は、僕も田舎の幼馴染みと結婚しようと思っているんだ。」
「そう、三永君が入院しているときに来ていた人ね。」
「うん、そうなんだ。」
「じゃあ、もう一度3人でお祝いの乾杯をしよう。」
大室はそういうと、新しいビールを3つ店員に注文した。
 そのとき、入口の方で新しい客が入って来て賑やかな声がした。見ると、陽子達寮の仲間だった。彼等は、すぐに光太郎達に気付いたようだった。
「なんだ、先輩達3人で抜け駆けですか。」
言ったのは、1年後輩の大石だった。
「別に抜け駆けってことじゃないけど、ちょっと3人で話があったのよ。」
 久恵の言葉に、陽子が言った。
「お話って、どんなことですか。良い、お話なの?」
「そうね、じゃあ言うわ。私、大室さんと結婚することにしたの。そして三永さんも結婚することになったんですって。」
すると大石が言った。
「ダブルのおめでたですか。じゃあ、今日の飲み代は3人の奢りですね。みんな、今日は安心して飲もうぜ。」
 途端に、席が陽気になった。
 6人のメンバーで賑やかに飲んだ。飲み会が終ったときは12時近くになっていた。課の飯岡の話を聞き、佳津枝に結婚を申し込んで以来、光太郎は深酒をしなくなっていた。
 このときもそんなに飲んではいなかった。
 寮に戻ると、早速佳津枝にメールを送った。
「夕方、無事に松戸に戻って来た。寮の仲間が結婚するそうだ。その話を聞いていたので、到着の報告のメールが遅くなった。僕も、佳津枝と結婚することを報告しておいたよ。そうしたら後輩達が店にやって来んだ。お陰様で、彼等の分まで支払わなくてはならなかったけどね。こうして部屋で一人でいると、無性に佳津枝のことが恋しくなるんだ。早く結婚したいね。
夏休みには、東京に来ないか。みんなに紹介したいんだ。楽しみにしているよ。
            光太郎」
 するとすぐに佳津枝から返事が来た。
「はい、夏の休みには是非東京に行きたいと思います。あれから考えてみたのですが、結婚は2年後くらいになりそうです。今の会社の仕事にキリをつけて、私が東京に行って光太郎君と暮したいと思います。そのときは、宜しくお願いしますネ♥
              佳津枝」
 日頃、使ったことがない♥マークに、光太郎の顔が思わずほころんだ。
 その日、明け方近くになるまで、二人はメールのやり取りを続けていた。窓からは、冬の冴えた月明かりが差し込んでいた。
            −完−







2026/07/06 4:58:31|小説「春の行方」
春の行方−50−
春の行方−50−

 しばらく間をおいて佳津枝が言った。
「私、子供の頃から願い事があると神様にお祈りしたの。神様は、私の願いを何でも聞いてくれたわ。きっと光太郎君の願いもきいてくれるわよ。」
 そして駐車場で人がいるにもかかわらず、光太郎に抱きついてキスをした。
 二人は車を移動させると、岬の方に歩いて行った。静かな入り江の海が、正月の太陽に輝いている。
「でも、まだいろいろしなきゃならないことがあるね。仕事をどうするかも決めなくちゃいけないし、ご両親にもお願いしなければならないし。」
「そうね、それはゆっくり相談しましょう。でも、これで目標は決まったわ。目標さえ決まれば、後は二人で色々な問題を解決して行けば良いのよ。まずは、それぞれの両親に報告ね。今晩帰ったらまず自分の両親に報告して、明日、二人揃ってそれぞれの両親にお願いするのよ。ただ、結婚の時期については、相談しなくちゃならないわね。私の仕事もあるし、今すぐにってわけにはいかないの。」
 光太郎は、今まで控えめだった佳津枝が、ここまでテキパキと話を進めて行くのに、目を見張っていた。佳津枝もまた、社会人になって大きく成長していたのである。光太郎は、佳津枝の横顔を不思議なものでも見るような目で見ていた。
 正月の太陽が、二人の背中を照らしていた。
 光太郎は、松戸の寮に戻った。去年は事故でできなかったが、久し振りに久恵のためのみやげも買った。部屋に戻って荷物の整理をしていたとき、玄関のチャイムが鳴った。出て見ると久恵だった。
「これ、浜松のおみやげ、相変わらず鰻よ。」
「そうか、ありがとう。僕も、蒲鉾だよ。」
みやげを交換した後で、久恵が言った。
「ねえ、お話があるんだけど、これからいつもの居酒屋に行かない?」
「うん、いいけど。」
「じゃあ、1時間後に。私、用事があるから先に行ってるわね。」
「うん。」
 光太郎は、話とは何だろうと思いながら、居酒屋に向かった。
 店に入ると、奥の方の席に久恵の姿があった。隣には、大室が座っていた。まだ飲んでいないらしく、テーブルには3人前の突き出しが置かれているだけだった。
「やあ、なんだ、大室も一緒だったのか。」
「うん、実は話があってね。」
「そうか、とりあえずビールにしようか。」
「そうだね。」
 3人は、ビールで乾杯した。
「スキーはどうだった?」
光太郎が聞いた。
「うん、相変わらずさ。けっこう楽しかったよ。去年は大変だったね。」
「迷惑を掛けたけど、神様がもう止めろと言ったのかも知れないね。でも、スキーは初めてだったし良い経験をさせてもらったよ。」
「三永君も、楽しいお正月だったのでしょう。」
「うん、お陰さまで。」
 そのとき、大室はしきりに何か言いたそうにしていた。
         −続く−







2026/07/05 4:39:40|小説「春の行方」
春の行方−49−
春の行方−49−

 暮も押し迫って、明日から年末の休みに入る日、年末最後の寮の仲間の飲み会があった。大室や久恵、陽子達はスキーの話に夢中である。最初は、光太郎のことを意識していたようであったが陽子が言い出して、光太郎が笑顔で聞いているのを知り、みんな遠慮が無くなったようである。
 翌日、光太郎は朝早く新幹線に乗った。広島に行けば、佳津枝が待っている。そこで佳津枝と落ち合い、一夜を過ごして家に帰る予定である。寮の仲間は今頃スキーに向かっているだろうが、光太郎は気にならなかった。去年まで、スキーに行こうかどうかで悩んでいたことが、無駄な悩みだったような気さえしていた。
 広島に着くと、佳津枝が待っていてくれた。佳津枝は、光太郎が元気を取り戻したことを、心から喜んでくれた。マンションに着くと、駅で買ってきた土産を渡しながら、抱き寄せてキスをした。光太郎は、本当に佳津枝を愛しいと思った。今までに、何回も身体を交えていたが、それ以上に身近な存在に感じていた。
 人の心は通じる。ましてや幼い頃から親しみ、感の良い佳津枝であるから、そうした光太郎の気持ちはすぐに察していた。佳津枝もまた光太郎をしっかりと抱いてキスに応じていた。
 夕食は水炊きだったが、その間も光太郎も佳津枝も、よく食べ、よくお喋りをした。光太郎が東京に出て以来、これほどまでに一体感を持つのは初めてだった。それはそのまま佳津枝に伝わり、その夜二人は深く愛し合った。
 光太郎は、結婚するなら佳津枝しかいないと思っていた。
 しかし、結婚となると、解決しなければならない問題があった。それぞれ東京と広島に仕事を持っていて、どっちかが仕事を辞めなければならない。そのことが、光太郎のプロポーズの障害になっていた。
 翌日、二人は佳津枝の車で実家に向かった。
 暮は大掃除、餅つきなどで忙しい。昔ながらの家なので、それなりにすることは多い。佳津枝も忙しい筈である。結局、元旦の朝に初詣に行こうという約束だけして、別れた。
 正月、朝の食事を終えると、佳津枝が迎えに来た。二人は、例年通り神社にお参りした。参拝のとき、光太郎は例年になく長い時間祈っていた。
 車に戻ったとき、佳津枝が聞いた。
「光太郎君、今年は何をお祈りしたの。随分、長くお祈りしていたみたいだけど。」
「うん、ちょっとね。佳津枝は何を祈っていたの?」
「光太郎君が、元気になったお礼よ。」
「そうか、ありがとう。僕は、佳津枝にお礼を言わなくちゃいけないね。スキーで怪我をして以来、随分心配をかけたし、世話になったからね。」
「あらっ、それはいいのよ。光太郎君も、ちゃんと神様にお礼を言った?」
「うん、でも、それよりもっと大事なお願いをしたんだ。」
「あらっ、何?」
「うん、佳津枝と結婚できますようにって、お祈りしたんだよ。神様は、願いを聞いてくれるだろうか?」
 佳津枝は、黙ったまま光太郎の目を見詰めていた。
          −続く−







2026/07/04 6:41:04|小説「春の行方」
春の行方−48−
春の行方−48−

 陽子の大らかな態度は、大室と久恵にも影響を与えた。光太郎に対してあまり遠慮はしなくなったのである。
 11月の末になって、スキーの話が出た。大室は、みんなに今年もスキーを計画したいと言った。今までだったら光太郎のいないところで相談したのだろうが、意識的に光太郎がいるところで話したのだった。これに対して、光太郎は笑いながら「今回は遠慮しておくよ。」と言った。光太郎の笑顔を見た久恵はホッとしたような顔をした。
 年末を迎えると、光太郎の仕事も忙しくなる。仕事の憂鬱さよりも、忙しさの方が先になった。それも一段落したとき、課の忘年会が行われた。課の仲間と飲むのは初めてである。普通なら光太郎が来たときに歓迎会が行われるのであるが、怪我に遠慮してか行われていなかった。
 飲み会の席で、係長の飯岡が光太郎に言った。
「お疲れさん。少し元気になったみたいだな。」
「はい、仕事にも慣れました。」
「みんな君のことを心配していたんだぜ。うちの課に来たときは、随分暗い顔をしていたからな。」
「はい、すみません。」
「俺も、昔は営業にいたんだ。ひとつの商談に失敗してからここに異動させられたのだが、そのときはガックリしたよ。会社としては、お客さんに対してもそのまま営業に置いておくことはできなかったのだろうな。」
「・・・・・」
「最初は、やはりやる気を無くしたよ。だって日々緊張の営業と違って、ここは自分の力や意志を出せるセクションじゃないからなあ。」
「・・・・・」
 光太郎は何と言って良いかわからず、黙って飯岡の話を聞いていた。飯岡は話を続けた。
「でもな、会社の仕事で、これは不要だという仕事はないんだ。それに気付いたのは、この課に来て3年目だったろうか、自分で経営陣の考えていることがわかるようになってからだよ。俺達がまとめている数字によって、経営陣は次の戦略を練る、そのための資料の作り方によって彼等の判断に微妙な違いがあることがわかってからだ。今の三永にはまだわからないかも知れないが、やがてはわかって来るよ。」
「はい。」
 その日、光太郎はずっと飯岡と話をしていた。飯岡の話は、同じような道を歩いて来ているだけに説得力があった。聞いてみれば、課の人達も大なり小なり同じような経験を持っているようだった。
 飯岡の話を聞いて、光太郎はかなり元気を取り戻した。
 人の心は強いようで弱い。逆境にあるときは強くて、逆に緊張が解けたときに落ち込んだりする。光太郎も、営業で忙しいときや、営業企画課に来た当初は落ち込むこともなかったが、仕事が一段落してから落ち込んだ。そして飯岡の話を聞いて、再び心に明るさを取り戻した。
 その日、寮に帰ると、そのことを佳津枝にメールで送った。佳津枝からは、すぐに返事が来て、光太郎が元気を取り戻したことを心から喜んでいた。
 光太郎は、再び、もうすぐ帰るから、そのときを楽しみにしていると書いて送った。
         −続く−







2026/07/03 4:24:03|小説「春の行方」
春の行方−47−
春の行方−47−

 盆の休みが終り、光太郎は松戸に戻った。広島まで久恵の車で来て、そこから新幹線に乗ったのだが、乗った途端に憂鬱になった。明日からの出社のことを思うと気が重いのである。今まで、松戸に戻るときには、いつも楽しさがあった。しかし、今回はまるで憂鬱だった。
 寮に着くと、久恵に買ってきた土産を手渡そうとしてチャイムを鳴らしたが、返事はなかった。そんなことさえ、光太郎の気分を暗くした。光太郎は、冷蔵庫からビールを取り出して飲んだ。気が付いたときには、缶ビールが5、6本空になっていた。
 そのとき、玄関のチャイムが鳴った。出て見ると久恵だった。
「今帰って来たの。これ、いつもの鰻よ。あらっ、もう飲んでいるの?」
「うん、喉が渇いたもんでちょっとネ。」
そう言いながらみやげを交換したが、お互い夕食に行こうとか一緒に飲もうという言葉は出なかった。
 翌日から仕事であるが、出社しても気が重い。隣の人と話をするような雰囲気はない。営業のときのように外出することもない。じっと数字と睨めっこをし、資料作りばかりである。昼食に一緒に行くような雰囲気もない。営業企画に来てから、昼食はいつも一人だった。会社にいて、一日が長かった。年度末、年度始めの忙しいときはそうも感じなかったが、一段落してからの一日は本当に長く感じられた。月末、四半期末は忙しいことがあるが、そうでないときは遅くまでの残業はなかった。7時には会社を出ることができた。寮に戻ると、一人で酒を飲むのが習慣になっていた。
 秋になっても、光太郎の憂鬱な日が続いた。朝の出勤から憂鬱だった。寮の仲間と一緒に出勤するのだが、昔と違って無口になっていた。最初は、話し掛けていた仲間も、次第に話し掛けなくなり、みんなと一緒にいながらも孤立感が深まっていった。
 佳津枝からは、相変わらずメールが届いていた。仕事もかなり忙しいようである。ディーラー回りの仕事も忙しい上に、新しいキャンペーンの企画要員にも選ばれたと言っている。そんな佳津枝の活躍の様子は、光太郎に対して彼女が果たして自分の結婚相手に相応しいのかという疑念を抱かせた。
 考えれば考えるほど、全てが暗い方向に行ってしまう。部屋で飲む酒の量も次第に増えて行き、最近ではウィスキーを飲むようになっていた。
 ある日、心配した寮の仲間が、光太郎を飲みに誘った。メンバーは、同期入社の大室と久恵、それに一年後輩の陽子である。
 大室と久恵は、光太郎にかなり気を使っていたが、陽子は違った。相変わらず自分のペースは変わらない。冗談を飛ばし、一人笑っている。仕事の話も平気でしている。大室と久恵はハラハラしながら聞いていたが、陽子の話に光太郎の笑顔を見たとき、初めて一緒になって笑った。
 陽子の天然系とも言える性格は、光太郎の心の緊張感をほぐした。4人は、また来ようと約束してその日の飲み会を終えた。
 光太郎にとって、仕事の方は相変わらず憂鬱だったが、寮の飲み会は楽しみになっていった。それは、陽子の存在によるところが大きかった。
            −続く−