男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2026/07/11 20:04:48|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−05−
夜の訪問者−05−
 
 女は話を続けた。
「だからこうしてここに出て来たんじゃない。でなければ、こんな汚いところになんか出ないわよ。今までは寒かったりしたから遠慮していたけど、やはり夏になると出なくちゃいけないの。でないと、仲間から怠け者だって言われてしまうわ。」
「ふ〜ん、幽霊にもシーズンがあるのか。」
「当り前よ。昔から冬の寒い時に厚着をして出てきた幽霊って見たことがないでしょう。」
「たしかに、そりゃあそうだな。」
「それはいいから、もっと飲んで食べてよ。昨日から食べていないんでしょう。」
「だって、ここで死んだなどと言われては食欲もなくなるよ。」
「あらっ、当人が目の前にいるんだから大丈夫よ。幽霊でも実際に話してみると情が湧くものよ。生きている人間より、余程情が深いわよ。」
「そうかも知れないなあ。こうやって恨みを忘れずに出て来るくらいだからな。でも、こうしてずっと彷徨っていなけりゃあならないの?」
「そうね、現世に恨みを残している限り、あの世で受け入れてくれないの。天国にも地獄にも行けずに、こうして彷徨っていなければならないのよ。」
「恨みを消す方法ってないの?」
「それがないのよ。死ぬときに持っていた恨みは、ずっとそのまま残るの。でもひとつだけ方法があるわ。それは恨みの対象に復讐をすることなの。でもあたしには霊はあっても身体がないでしょう。だから彼に手を下すことができないの。せめて「恨めしや〜」と言って脅かすくらいしかできないのよ。」
「それはやってみたの?」
「ええ、何度か。でも駄目なのよ。まず、彼のマンションはここと違って完全に密封状態だから、出入りするのも大変なの。それに他の人がいる前で出ると他人に迷惑をかけることになるから一人になったときに出ようと思うでしょう。でもなかなか一人にならないし、いつも帰って来るのは明け方近く、こっちが帰らなければならない時間なのよ。あたし達幽霊は、昼間は消えなければならないの。これに違反するとひどい目に遭うのよ。結局、2、3回チャンスはあったけど、彼は気付かないままだったわ。」
「なるほどねえ・・・」
 光義は、腕を組んで話を聞いていた。
          −続く−
 







2026/07/10 21:58:09|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−04−
夜の訪問者−04−

 更に、女の話は続いた。
「次に会ったとき、あたしは彼に結婚するという噂は本当かと聞いた。彼は知らない、根も葉もない噂だろうと言って、あたしを抱いたわ。だからあたしは、ほかの女との噂のことは聞かなかった。おそらくあたしの心の中に聞きたくないという思いもあったのね。
 それから一か月ほどしたとき、私は体の異変に気がついたの。生理がないのよ。しばらく悶々としていたけど、2週間たっても3週間たってもないので、とうとうお医者さんに行ったの、そしたら妊娠しているって言うの。私は、すぐに彼にそのことを告げた。ところが彼は、堕せって言うのよ。絶対に産んではいけないと言うの。私が産みたいというと言うと、殴られたわ。堕すのなら金は出してやるけど、そうでないとこれきり別れると言い出したの。あたしは産もうと思った。あたしの体の中に宿った命、これは母親のあたしのもの、これを死なせる権利はないと思ったわ。あたしは彼に、別れてもいいから産むと言った。彼はしばらく考えていたけど、わかったと言ったの。そしてまた来るからと言って帰って行ったわ。
 次に来たとき、彼はいつになく優しかった。お腹の子供は順調かなどと聞いたわ。あたしは順調よと答えた。彼が、ワインを買って来たから飲もうと言った。あたしは赤ちゃんのことが気になったけど、せっかく彼がそう言ってくれるので飲んだわ。
 実は、記憶はそこまでなの。気がついてみると、あたしは心が身体から離れていた。つまり死んでいたというわけよ。きっと眠り薬か何かを入れられて、その後でドアのノブに紐を引っ掛けて自殺に見せたのね。」
「そんなこと言ったって、警察は調べなかったのかい?」
「一応、調べるには調べたけど、自殺で片づけられたわ。解剖もされたけど、妊娠を苦に睡眠薬と首吊りで自殺したのだろうということになったみたい。」
「で、奴はどうしたんだい?その課長とかいう奴。」
「噂のあったどこかの社長令嬢と結婚するみたいよ。あたしは、霊が宙ぶらりんだからどこにでも行けるの。一番いい情報源は、やはり女子トイレね。昔はお茶くみ場などがあったようだけど、今じゃそんなものないでしょう。それと昼間の会議室、そこにはOL達が集まってお弁当を食べたりするでしょう。あのときの噂話なんか、なかなか普段は聞けないような会話が飛び交っているわ。」
「ところで、君が殺されたというアパートはどこにあったの?」
「ここよ!」
「エッ?」
「ここよ、この部屋。そこのノブに首を引っ掛けて死んでいたのよ。」
「え〜〜〜ッ!」
 光義は恐怖で腰を抜かしそうになった。幽霊を見てもさほど怖いとも思わなかったが、実際にここで人が殺されたと思うと背筋が寒くなった。手酌で酒を注ぐと2、3杯立て続けに飲んだ。
            −続く−







2026/07/10 0:21:40|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−03−
夜の訪問者−03−

 女は、注がれた酒を美味しそうに飲むと、話を続けた。
「お酒を飲んでも彼は紳士的だった。私は、安心していたの。その日はかなり飲んだわ。学生のときも飲んだことはあったけど、酔っ払うまで飲んだことはなかった。でもその日は何となく安心していたというか、男性と二人という興奮状態も手伝っていたのね。気がついたら、ホテルのベッドの中だったわ。彼は、目覚めたあたしに「好きだ。」と言ってキスをしてくれたの。」
 そこで俺はまた酒を注いでやった。女は話を続ける。
「あたしは、彼を好きになったわ。一度きっかけがあると、男と女が仲良くなるのは早いのね。ましてやあたしは男との付き合いもなく今までやって来たから余計にそうなのかもしれないのね。
 あたし達は、次第に逢う回数が増えて行った。あたしの方から誘うことも多くなったわ。その都度、彼と一緒に寝た。最初のうちはホテルだったけど、そのうちにあたしのアパートに来るようになった。やがて彼はあたしにとってなくてはならない存在になった。もちろん彼もあたしのことを好きだと言ってくれた。
 毎日、仕事に行くのが楽しみだったわ。あたし達が会う最初の時に、彼が『秘密だけは守ろう、僕達は上司と部下、そうしないと示しがつかないから。』と言ったの。だからあたし達のことは誰にも知られないようにしたわ。
 あたし達の関係が1年ほど続いたとき、社内で変な噂を聞いたの。彼がどこかのお嬢さんと結婚するっていうのよ。あたしは嘘だと思った。あんなに優しく愛してくれているのに、そんなはずがない。そんなことあるはずがないってね。
 ある日、トイレに入っていたら、隣の課の女の子達がお喋りしているのを聞いた。彼がかなりのプレイボーイで、社内外の女の子達をかなり泣かせているっていうのよ。どこそこの課の誰それは彼に捨てられて会社を辞めて行ったとか、別の女性はかなりの額の慰謝料をもらって別れたとか、内容が具体的なの。あたしはそれを聞いて大きなショックを受けたわ。」
 女は、そこまで言うと、グイッと酒を飲んだ。
           −続く−







2026/07/09 0:11:31|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−02−
夜の訪問者−02−

 1時間ほどしたときである、再び女の声がした。
「ねえねえ、起きなさいよ。食べ物を持って来たわ。」
起き上がって見ると、手に3段重ねの重箱を持っている。
「どうしたんだ?」
「駅前の料亭があるでしょう。あそこから失敬して来たの。」
「こんな時間にか?もう店は閉まっているだろう。」
「あたしは幽霊なのよ。ちょっとした隙間があれば、屋根裏からだって、どこからだって入っていけるわ。そんなことどうでもいいから早く食べなさいよ。お腹が空いているんでしょ。こうしてお酒だって持って来たんだから。」
「酒かあ、もうしばらく飲んでいないなあ。」
 女は、重箱を広げながら、盃を出すと、光義に徳利の酒を注いだ。
「うん、これはうまいや。いい酒だなあ。」
「そうでしょう、越の寒梅よ。普通に買えば高いのよ。ねえ、これも食べてよ。」
 女は、重箱から焼いた海老や、天ぷらなどを小皿に装って差し出した。光義は、それらをうまそうに食べていた。しばらくすると、お腹が落ち着いて来た。お腹が落ち着くと、何で彼女がここに出て来たのかが気になって来る。
「さっき、天国にも地獄にも行けないって言っていたけど、なぜなんだ。」
「あらっ、やっと聞いてくれたのね。それにはいろいろ事情があるの。」
「だから、その事情ってのを聴いているんだ。」
「そんなに急がないでよ。今から話すわよ。私はOLだったのよ。山梨の高校を卒業すると東京の短大に入ったの。短大を卒業して都内の会社に就職したわ。従業員100人程の建築会社よ。入社したときの上司の課長は33歳、こんなに若くて課長になったのは彼が社長の息子だったからよ。入社して間もないある日、私は残業の後で課長に食事に誘われた。短大は女子ばかりだったし、高校時代から女子高だったので、男性と二人だけで食事、しかも夜遅い時間なのであたしはドキドキしていた。その日は、食事だけで終ったの。
 それからは、何かと残業するように言われては、その後で食事に行った。何回目かに食事の後で飲みに行こうと誘われたの。私は、断れなかったというか、半分は期待もしていたのかしら、彼に着いて行ったわ。ねえ、あたしも少しいただいていいかしら。」
「あゝ、気がつかなくてすまんな。」
 光義は、盃を渡すと、女に酒を注いだ。
         −続く−







2026/07/08 4:30:53|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−01−

夜の訪問者−01−

「うらめしや〜。」
「・・・・・」
「うらめしや〜。」
「・・・・・」
「うらめしや〜」
「・・・・・」
「ねえねえ、あんた。うらめしや〜って言っているのが聞こえないの?」
「・・・・・」
「ねえ、聞こえているの?人が話し掛けているのに、何とかおっしゃいよ!」
「うるさいなあ、一体誰だよ、こんな夜更けに。」
「あたしは、幽霊よ。むこうを向いて寝ながら喋るって失礼じゃない。こっちを向いてちゃんと話したらどうなのよ。」
「うるさいなあ、俺はそんな元気はないよ。寝かしておいてくれないか。」
「そんな不精はダメ、ちゃんと起きてから話しなさい。」
「なんだよ、しつこいなあ。」
 光義は、ようやく蒲団から起き上がると、女の方に向いて座った。
 女は、白いネグリジェを着ていた。手をお腹のところではすに垂らし、長い髪は前に垂らしている。時折、頭を動かすと、髪の毛の間から顔が見えた。
「おっ、なかなかいい女じゃないか。」
光義が言った。
「あらっ、やっとわかってくれたのね。」
「でも、なんで俺のところになんか来たんだ。俺は貧乏こそしているけど、人から恨まれることなんかしていないぜ。」
「そうね、あたし、あんたに恨みなんかないわ。でも他に行くところがないのよ。」
「他に行くところがないからって、俺のところに来られて安眠を妨害されたんじゃたまらないぜ。」
「そんなこと言わないでよ。あたし、浮かばれないのよ。天国にも地獄にも行けずに、こうして彷徨っているのだから。」
「そんなこと言ったって、俺は迷惑だよ。それに昨日から何も食べていないんだ。」
「あらっ、若いのにそんな情けないことを言って、一体どうしたのよ。」
「どうしたもこうしたもないもんだ。俺は会社をクビになって、金がないんだ。」
「会社をクビになったって、今の時代、何をやっても食べてくらいは行けるでしょう。」
「あゝ、人材派遣にも登録したさ。でも何の特技もなく不器用な俺はすぐにクビになって、結局、今じゃ無職、無収入なんだ。このアパートの電気やガス、水道だって止められているんだ。」
「それで昨日から食べてないのね。」
「あゝ、だからもう行ってくれないか。喋るのも空腹に響くんだ。」
「あらっ、あたしだってせっかく出て来て、今更他にも行けないわよ。じゃあ、ちょっと待っていて。何か食べ物を探して来るわ。」
 そう言うと、女の姿がす〜っと消えた。光義は、面倒くさそうに布団に横になった。
          −続く−