夜の訪問者−01−
「うらめしや〜。」
「・・・・・」
「うらめしや〜。」
「・・・・・」
「うらめしや〜」
「・・・・・」
「ねえねえ、あんた。うらめしや〜って言っているのが聞こえないの?」
「・・・・・」
「ねえ、聞こえているの?人が話し掛けているのに、何とかおっしゃいよ!」
「うるさいなあ、一体誰だよ、こんな夜更けに。」
「あたしは、幽霊よ。むこうを向いて寝ながら喋るって失礼じゃない。こっちを向いてちゃんと話したらどうなのよ。」
「うるさいなあ、俺はそんな元気はないよ。寝かしておいてくれないか。」
「そんな不精はダメ、ちゃんと起きてから話しなさい。」
「なんだよ、しつこいなあ。」
光義は、ようやく蒲団から起き上がると、女の方に向いて座った。
女は、白いネグリジェを着ていた。手をお腹のところではすに垂らし、長い髪は前に垂らしている。時折、頭を動かすと、髪の毛の間から顔が見えた。
「おっ、なかなかいい女じゃないか。」
光義が言った。
「あらっ、やっとわかってくれたのね。」
「でも、なんで俺のところになんか来たんだ。俺は貧乏こそしているけど、人から恨まれることなんかしていないぜ。」
「そうね、あたし、あんたに恨みなんかないわ。でも他に行くところがないのよ。」
「他に行くところがないからって、俺のところに来られて安眠を妨害されたんじゃたまらないぜ。」
「そんなこと言わないでよ。あたし、浮かばれないのよ。天国にも地獄にも行けずに、こうして彷徨っているのだから。」
「そんなこと言ったって、俺は迷惑だよ。それに昨日から何も食べていないんだ。」
「あらっ、若いのにそんな情けないことを言って、一体どうしたのよ。」
「どうしたもこうしたもないもんだ。俺は会社をクビになって、金がないんだ。」
「会社をクビになったって、今の時代、何をやっても食べてくらいは行けるでしょう。」
「あゝ、人材派遣にも登録したさ。でも何の特技もなく不器用な俺はすぐにクビになって、結局、今じゃ無職、無収入なんだ。このアパートの電気やガス、水道だって止められているんだ。」
「それで昨日から食べてないのね。」
「あゝ、だからもう行ってくれないか。喋るのも空腹に響くんだ。」
「あらっ、あたしだってせっかく出て来て、今更他にも行けないわよ。じゃあ、ちょっと待っていて。何か食べ物を探して来るわ。」
そう言うと、女の姿がす〜っと消えた。光義は、面倒くさそうに布団に横になった。
−続く−