春の行方−07−
二人は食事を終えると、バスに乗って佳津枝のマンションに向かった。マンションは、停留所のすぐ近くにあった。1LDKの狭い部屋であるが、キチンと掃除され、若い女の子らしくきれいに飾り付けがなされている。 部屋に入ると、光太郎は、コーヒーを入れるという佳津枝の手をとって引き寄せ、抱き締めた。佳津枝も逆らわずにキスを受け、光太郎に導かれるままピンクのシーツの敷かれているベッドに倒れ込んだ。僅か4ヶ月の別離であったが、随分久し振りのような気がした。二人は貪るように愛し合った。 愛の行為が終ると、そのまま眠ってしまい、目が覚めたときには沈みかけた夏の遅い夕暮れの陽がカーテン越しに差し込んでいた。ベッドから出ると、シャワーを浴びることにした。光太郎は佳津枝に一緒に入ろうと誘った。 最初、佳津枝は恥ずかしいから嫌だと言っていたが、光太郎の強引さに負けたように、誘いに応じた。佳津枝の身体もちょっとぽっちゃりした感じで美しい。光太郎は、裸になった佳津枝を抱き締めてキスをした。 シャワーを終えると、佳津枝の作った素麺と野菜の煮物のおかずでビールを飲みながら食事をした。こうして二人で食事をしていて、光太郎は、結婚生活とはこんなものだろうかと想像していた。 食事中、お喋りをしながらも、ときどき佳津枝は光太郎の顔を見詰めている。それは愛を確かめ合った女が、男を信頼している目であった。 ゆっくりとした食事を終えると、再びベッドに入った。狭いベッドで抱き合って寝るのであるが、狭いとは感じなかった。 翌日は休日、二人で過ごすことにした。 町へ出掛けて、ショッピングをしながら過ごしたが、暑さが酷いので昼食を終えるとすぐに佳津枝の部屋に戻った。 明日は、佳津枝は仕事、光太郎は両親のところに帰る予定である。佳津枝も光太郎と一緒にいたいようであった。冷たいコーヒーを飲みながら午後の時間を過ごす。 「ねえ、東京には素敵な女性がたくさんいるのでしょうね。」 佳津枝の突然の質問に、光太郎はドキリとした。瞬間的に久恵のことを思い出していたのである。 「う〜ん、今は東京も地方もないよ。東京にも、いろいろな人種がいるからね。」 「でも、会社にもいるんでしょう?」 「うん、でも半分は地方出身の人達だから、どこも同じさ。」 「わたし、一度東京に行ってみたいわ。光太郎君がどんな暮らしをしているのか見てみたいわ。」 「侘しいものさ。部屋だって、ここよりは狭いんじゃないかなあ。」 「ねえ、もし行ったら泊めて貰えるの?」 「さあ、どうだろう? あまり聞かないけどなあ。でも単身赴任の人もいて、家族が来たときなんか泊まっているみたいだから、大丈夫なのかも知れないな。」 「ふ〜ん、みんな独身なのね。」 「うん、独身か単身赴任の人ばかりだよ。」 「ねえ、わたしのこと、嫌いにならないでね。」 「ああ、大丈夫さ。」 そう言って、佳津枝の頬にキスをしたが、その瞬間に再び久恵のことが脳裏をよぎった。 −続く− |