男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2026/05/24 3:40:24|小説「春の行方」
春の行方−07−
春の行方−07−

 二人は食事を終えると、バスに乗って佳津枝のマンションに向かった。マンションは、停留所のすぐ近くにあった。1LDKの狭い部屋であるが、キチンと掃除され、若い女の子らしくきれいに飾り付けがなされている。
 部屋に入ると、光太郎は、コーヒーを入れるという佳津枝の手をとって引き寄せ、抱き締めた。佳津枝も逆らわずにキスを受け、光太郎に導かれるままピンクのシーツの敷かれているベッドに倒れ込んだ。僅か4ヶ月の別離であったが、随分久し振りのような気がした。二人は貪るように愛し合った。
 愛の行為が終ると、そのまま眠ってしまい、目が覚めたときには沈みかけた夏の遅い夕暮れの陽がカーテン越しに差し込んでいた。ベッドから出ると、シャワーを浴びることにした。光太郎は佳津枝に一緒に入ろうと誘った。
 最初、佳津枝は恥ずかしいから嫌だと言っていたが、光太郎の強引さに負けたように、誘いに応じた。佳津枝の身体もちょっとぽっちゃりした感じで美しい。光太郎は、裸になった佳津枝を抱き締めてキスをした。
 シャワーを終えると、佳津枝の作った素麺と野菜の煮物のおかずでビールを飲みながら食事をした。こうして二人で食事をしていて、光太郎は、結婚生活とはこんなものだろうかと想像していた。
 食事中、お喋りをしながらも、ときどき佳津枝は光太郎の顔を見詰めている。それは愛を確かめ合った女が、男を信頼している目であった。
 ゆっくりとした食事を終えると、再びベッドに入った。狭いベッドで抱き合って寝るのであるが、狭いとは感じなかった。
 翌日は休日、二人で過ごすことにした。
 町へ出掛けて、ショッピングをしながら過ごしたが、暑さが酷いので昼食を終えるとすぐに佳津枝の部屋に戻った。
明日は、佳津枝は仕事、光太郎は両親のところに帰る予定である。佳津枝も光太郎と一緒にいたいようであった。冷たいコーヒーを飲みながら午後の時間を過ごす。
「ねえ、東京には素敵な女性がたくさんいるのでしょうね。」
 佳津枝の突然の質問に、光太郎はドキリとした。瞬間的に久恵のことを思い出していたのである。
「う〜ん、今は東京も地方もないよ。東京にも、いろいろな人種がいるからね。」
「でも、会社にもいるんでしょう?」
「うん、でも半分は地方出身の人達だから、どこも同じさ。」
「わたし、一度東京に行ってみたいわ。光太郎君がどんな暮らしをしているのか見てみたいわ。」
「侘しいものさ。部屋だって、ここよりは狭いんじゃないかなあ。」
「ねえ、もし行ったら泊めて貰えるの?」
「さあ、どうだろう? あまり聞かないけどなあ。でも単身赴任の人もいて、家族が来たときなんか泊まっているみたいだから、大丈夫なのかも知れないな。」
「ふ〜ん、みんな独身なのね。」
「うん、独身か単身赴任の人ばかりだよ。」
「ねえ、わたしのこと、嫌いにならないでね。」
「ああ、大丈夫さ。」
 そう言って、佳津枝の頬にキスをしたが、その瞬間に再び久恵のことが脳裏をよぎった。
             −続く−







2026/05/23 4:18:03|小説「春の行方」
春の行方−06−
春の行方−06−

 2通の着信メールのうち、1通は佳津枝からのものであり、もう1通は久恵からのものだった。
 久恵からのは、短い文章で今日の礼が書いてあった。
 佳津枝からのは長い文章だった。
「光太郎君は、元気でやっていますか。私も元気です。
 この週末は、家に帰らず広島で過ごしています。
会社は良い雰囲気で、先輩達も親切にしてくれます。係長が駄洒落の好きな人で、しょっちゅう駄洒落を言っては周囲の人を笑わせています。最初は変な人だと思っていたのですが、そのうちに慣れてしまいました。本来、優しくて、親切な人なんですよ。彼は、社内に好きな女性がいるようなのですが、まだ告白していないようです。どうしたら良いだろうかと相談されてしまいました。先輩に相談されても困りますよね。
 実は、先週末に家に帰ったときに、光太郎君のご両親のところにご挨拶に行って来ました。お母さんが、元気にやっているようだけど電話も寄越さないって言っていましたよ。たまには電話をしてあげてください。
 身体には気を付けてね。
 またメールをします。おやすみなさい。
          佳津枝」
 光太郎は、すぐに返事を書いた。
「メール、ありがとう。母さんのところには明日にでも電話をするよ。
 こっちも楽しくやっている。会社の先輩達もみんな親切だよ。この前なんか、寮で歓迎のバーベキュー大会をしてくれたよ。寮は地方からの出身者が多いので、すぐに仲良くなるんだ。
 お盆には帰りたいと思っている。そのときは会えるよね。
 今日も寮の仲間と飲んでいた。
 じゃあ、おやすみ。
         光太郎」
 光太郎も仕事は順調だった。もっとも新入社員なので、責任のある仕事を任せられているわけではない。先輩に頼まれた書類を届けに行ったり、顧客のところに顔を出すだけのようなことが多い。残業もあるのだが、大抵は9時頃には寮に帰って来ることができた。
 普段、久恵とは通勤のときに話をするだけだった。毎朝のように顔を合わせているので、メールでのやり取りをすることはない。佳津枝からは2日に1回の割合でメールが来ていた。その日あったことや、読んだ本の感想、会社で話題になったことなどを書いて寄越した。光太郎もほぼ同じような内容でメールを送っていた。
 お盆の休みがやって来た。工場は機械を止めて一斉に休みになるのだが、営業は電話当番で誰かが残っていなければならない。光太郎は早めに休みを貰うことにした。遠くから来ている光太郎に先輩達が気を使ってくれたのである。8月5日から1週間の休みである。
 朝の新幹線に乗ると、昼には広島に着くことができる。休みに入ると、すぐに新幹線に乗った。
 広島駅には、佳津枝が待っていた。改札口に近付くと、いち早く光太郎の姿を見付けて手を振っていた。
「やあ、元気そうだね。」
「ええ、光太郎君も。少し太った?」
「うん、会社勤めをしていると運動ができないしね。」
「昼ご飯はまだだろう?」
「ええ。」
「じゃあ、何か食べて行こうよ。」
「美味しいお蕎麦の店があるのよ。光太郎君は、麺類が好きだよね。」
「うん、そこにしよう。」
 光太郎は、佳津枝の後ろから着いて行った。佳津枝の後ろ姿に、学生時代にはなかった色気のようなものを感じていた。
         −続く−







2026/05/22 3:42:16|小説「春の行方」
春の行方−05−
春の行方−05−

 夏のボーナスの時期がやって来た。
 光太郎は両親にその一部を送ると、残りのお金で佳津枝と相談してパソコンを買うことにした。最近になってインターネットなるものができて、電子メールもできるという。たまたま週末に見た映画「ユー ゴット ア メール」に感化されたのである。電話回線に繋ぐのであるが、マニュアルを見ながら1日がかりでやっと繋ぐことができた。
 佳津枝は大丈夫だろうかと心配していたら、先輩が助けてくれたと話していた。その先輩が男か女かは敢えて聞かなかったが、こういうことをできるのはおそらく男だろうと想像した。
 朝の通勤のとき、パソコンや電子メールの話をしたら、久恵も買いたいと言った。光太郎は、週末に一緒に電器店に買いに行くことを約束した。秋葉原の電器店に買いに行き、そのまま部屋にセットするのであるが、彼女も電気は苦手そうである。光太郎は、手伝うことにした。
 久恵の部屋は、女性の部屋らしくきれいに飾られていた。カーテンも華やかで、光太郎の部屋とはまるで雰囲気が違う。ベッドの脇には人形なども置いてある。パソコンは、二度目なので、簡単にセットすることができた。
 メールのチェックでは、自分のパソコンにテスト文章を送ってみた。自分の部屋に戻ってそれを確認して返信する。今度は、久恵から返事が来た。そこにはこう書いてあった。
「ありがとう。お礼に食事にご招待したいのですがいかがですか? 良かったら、6時に私の部屋に来てください。
                 久恵」
 光太郎は、すぐに「了解です。」と返事を送った。
 夕刻がやって来た。光太郎は、近くの酒屋で買ったワインを持って久恵の部屋のチャイムを鳴らした。久恵はすぐに出て来てドアを開けた。
「いらっしゃい、昼間はありがとう。電子メールって便利だわね。」
「うん、何とか無事に使えるようになって良かったね。」
「今日は、ブイヤベースにしたのよ。私って、あまり料理が得意じゃないの。」
 部屋には良い香りが漂っていた。居間の小さなテーブルの上にはコンロの上に鍋が置かれ、その側には料理の本が開いてあった。光太郎がそこに目をやったのに気付いた久恵が、「あらっ、ネタがバレちゃったわね。」と言ってチロっと舌を出した。
 光太郎は、「ちょうど良かった、じゃあこれが合うね。」と言いながら、持って来たワインを渡した。
 久恵は小皿にブイヤベースをよそおい、光太郎は用意されていたグラスにビールを注ぐ。
「今日はありがとう!」
「美味しそうな料理に乾杯!」
 食事は楽しかった。久恵は、機嫌良さそうによくお喋りをした。会社での出来事、東京に出て来るまでのことなどを話した。
 久恵は、兄と2人兄妹であった。ずっと浜松で育ち、大学は静岡である。高校時代からバレーボールをしていて、けっこう活躍していた。スラリとしているが、腕には筋肉質なところがある。
光太郎も自分のことを話したが、佳津枝とのことは話さなかった。
 見ると、ビールの空の缶が数本並んでいる。光太郎は、料理のお礼を言って自分の部屋に戻った。風呂に入ってから、パソコンを開いてみると、2通の新着メールが来ていた。
                 −続く−







2026/05/21 3:23:32|小説「春の行方」
春の行方−04−
春の行方−04−

 1週間の研修では、会社の概要や就業規則の説明があり、うち一日は取手にある工場見学も含まれていた。
 そんな中で、みんな同期としての連帯感を深めて行った。自宅から通う者が多かったが、地方から出てきた5人が松戸の寮に入っていることを知った。男が3人、女が2人いた。
 研修が終って、配属先が発表された。光太郎は営業課、久恵は総務課に配属され、同じ寮に住む他の3人は取手の工場に配属された。
 光太郎は、プラント用の製品の販売の係員で、都内を始めとして全国的に出張することも多いとのことである。係長は35歳の飯島、先輩に30歳の細田、28歳の橋本がいた。
 配属されたその日、課の歓迎会が行われた。課長は、40歳の草川、課員は10人ほどである。
 最初の仕事は、顧客への挨拶回りだった。早速、連日近いところからの挨拶回りが続いた。
 出勤は、同じ寮の仲間と一緒にすることが多かった。慣れて来ると、8時前に寮を出れば良いことがわかったので、その時間に部屋を出ると必ず本社に通う何人かと一緒になった。その中には、大抵久恵がいた。
 入社して2週間が過ぎたとき、郵便受けに一枚の紙が入っていた。週末に歓迎会を兼ねて寮のバーベキュー大会を公園でするというものだった。
 寮には20人ほどが住んでいた。男が15人、女が5人ほどである。中には、単身赴任の人達が5人ほどいて、年長者は50歳を過ぎていた。独身者だけでいうと、男10人、女5人になる。
 バーベキューの当日は、良い天気に恵まれ、春の日差しが暖かかった。
 準備は、1年先輩の仕事だという。朝から、寮の玄関に食材や飲み物が積まれていた。これをみんなが手伝って、公園まで運ぶ。
 みんな故郷を離れている者ばかりなので、楽しみにしていた。中には、新しく入って来た人、特に女性と話すのを楽しみにしている様子も伺えた。女性の中では、久恵の美しさが群を抜いていた。
 バーベキューが始まり、お酒が入ると、男達はみんな久恵と話したがって彼女を取り巻くようにしていた。久恵は、いつもの笑顔で明るくみんなと話をしている。その様子に、光太郎は嫉妬のようなものを感じていた。
 それでも酒が入ると、みんなで楽しく過ごした。北海道や東北から来た者もいて、地域のことなど珍しい話も聞くことができ、何人かとは親しくなった。その中に技術部にいる大室純二がいた。青森の出身でいかにも純朴そうである。今度一緒に飲みに行こうと約束もした。
 週末には、佳津枝と電話で話した。光太郎の方からかけることもあれば、佳津枝からかかって来ることもあった。お互い営業で、帰りの時間が不規則なので、平日はよほど寂しいときとか、何かがあったとき以外は電話をしなかった。佳津枝は、広島にある自動車メーカーの営業部に就職していた。ディーラー回りの仕事が多いらしく、昼間オフィスにいることは少ないと言っている。自分で借りているワンルームマンションに住んでいて、週末は家に帰っているとのことである。
 電話の時間は長く、1時間も話すのは普通だった。普段はあまりお喋りでない佳津枝だが、電話ではよく喋った。それは一人暮らしの寂しさを紛らわせるかのようだった。
        −続く−







2026/05/20 3:58:21|小説「春の行方」
春の行方−03−
春の行方−03−

 翌日は日曜日、荷物が着く日である。
 昨日、久恵とは、荷物が着いたらお互いに手伝おうと約束をしていた。
 最初に着いたのは、光太郎の荷物だった。大した荷物ではなく、しかも運送屋が運んでくれるので手伝いは必要なかった。余程黙って自分だけで済ませてしまおうかと思ったが、それでは久恵も遠慮するのではないかと思い、彼女の部屋のチャイムを鳴らした。久恵は準備していたらしく、ジーンズ姿で出てきた。
 荷物の搬入は30分ほどで終った。部屋で片付けをしていると、チャイムが鳴った。片付けを途中で止めると、急いで外に出た。久恵が立っていて、荷物を運んできた小型トラックが、寮の下に止まっているのが見えた。
 久恵の荷物は光太郎のよりは少し多かったが、それでもすぐに搬入を終えた。
「片付けを終ったら、昼ご飯に行きましょうか。」
「そうですね。」
 二人は約束をしてそれぞれの部屋に戻り、荷物を片付けた。光太郎は、片付けながら佳津枝と久恵について考えた。
 佳津枝は、愛くるしい顔付きをしている。幼馴染みで気心は十分に知れている。優しくて、細かいところにもよく気が付いた。一方、久恵は端正な顔つきで、まだよくはわからないが、やや気が強そうなところがあった。そして何よりの違いは、久恵の洗練された雰囲気に対して、佳津枝には田舎臭さがあった。
 12時になり、光太郎は廊下に出て、久恵が出て来るのを待った。
 久恵は、スカート姿で、ブラウスの上にベージュのセーターに着替えていた。背が高く、端正な顔立ちによく似合っている。光太郎は、眩い目でその姿を見つめた。
 二人は、並んで駅の方に向かって行ったが、さてどこの店に入ろうかと悩んだ。光太郎が、どんな食事が良いかと聞くと、久恵は、好き嫌いはないから何でも良いと言う。しかし、さすがにラーメン屋とか大衆食堂は久恵に相応しくないような気がしたが、そんなにお金を持っている訳ではないので、ファーストフードの店に入った。
 久恵は、スポーツをしていただけあって、明るい性格だった。常に笑顔を絶やさないし、話し方もハキハキしていた。佳津枝が詩や小説などの文学好きであるのに対して、スポーツが好きな活発な女性である。学生時代には、バレーボールでかなり活躍していたと話していた。
 食事を終えて寮に戻ると、明日は一緒に出社しようと約束して別れ、午後はそれぞれ荷物の片付けと、明日の入社式の準備に取り掛かった。
 翌日は入社式である。
 電車の事情がよくわからないので、二人は早めに寮を出た。駅に着くと、昨日の日曜日とは違ってたくさんの人である。西日暮里で千代田線に乗り換えるのであるが、乗り換えにも思わぬ時間がかかる。
 やっと丸ノ内の本社に付いたときには、二人共ラッシュの疲れでぐったりしていた。
 入社式には20人ほどの同期入社の者がいた。みんな紺のスーツで、不安と期待の入り混ざった顔をしていた。入社式が終ると、総務の担当者が管理事項などを説明した。1週間の研修があって、その後配属先が決まるとのことだった。
             −続く−