男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2026/07/16 17:28:24|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−10−
夜の訪問者−10−

 幽子の恨み相手の利之は、電車に乗り、渋谷で降りると駅前の喫茶店に入った。そこで彼女を待っているようである。
 しばらくして彼女がやって来た。
「利之さんし待った?」
「いや、今来たばかりだよ。」
「そう、良かったわ。」
 二人は、コーヒーを飲むと、店を出た。
「ねえ、映画でも見に行こうか。」
「ええ、いいわ。」
 二人は、仲良く手を繋いで歩いている。光義は、どうすれば二人の邪魔ができるかと考えていた。しかし、どうして良いかわからず、結局その日は諦めて帰って行った。
 その夜、現れた幽子がいきなり言った。
「あんたって、本当に役立たずね。何にもしなかったじゃないの。」
「なんだ、見てたのか。」
「そりゃあ、見てたわよ。昼間は姿こそ現わせないけど、見ることはできるのよ。」
「だけど、どうして良いかわからなかったんだよ。」
「それにしても、あんたはもうちょっと頼りになる人かと思っていたけど、情けないわねえ。」
「そんなに言うなよ。俺だって、幽霊の手助けをするのは初めてのことなんだぜ。」
「わかったわ。じゃあ、食事をしてから相談しましょう。」
 そう言ってから、幽子は食べ物と酒の入った包みを開いた。今日は、築地の何とかいう老舗料理屋の和食である。酒は新潟の銘酒、次第に舌の肥えて来ている光義も、舌鼓を打ちながら食べて飲んだ。
 しばらくは飲みながら食事をしていたが、幽子が真剣な顔をして言った。
「ねえ、あなたが幽霊にならない?」
光義はびっくりした。
             −続く−







2026/07/15 20:46:06|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−09−
夜の訪問者−09−

 3日目の夜がやって来た。
 幽子は、手にオードブルの入ったバスケットを持っている。
「あなた、ワインも好きみたいだから今日もワインにしたわ。」
「そうか、いつもすまないなあ。」
「いいのよ、それで急な話だけど、あいつが明日彼女とデートをするみたいなの。何とかその邪魔をしたいのよ。あなたにその邪魔をして欲しいのよ。あたしは、昼間は活動できないから。」
「ふ〜ん、それでどうすりゃいいんだ?」
「そうね、どこに行くかわからないから、尾行して行って邪魔をするの。」
「そう言ったって、俺には金がないんだぜ。尾行だって容易じゃないよ。」
「お金は何とかするわ。銀行に行けば、何とかなるわ。」
「俺には預金なんかないし、強盗なんか嫌だぜ。」
「心配しないで、そこはあたしが何とかするわ。」
そう言うと、ス〜ッと姿を消した。
 1時間ほどして幽子が帰って来た。手には紙袋を持っている。そこから100万円の札束を3つ差し出した。
「こんな大金、どうしたんだ。」
「銀行の金庫から借用して来たのよ。金庫は密閉されているから大変だったのよ。ちゃんと自分の口座番号と借用書も書いて置いて来たわ。」
「明日になったら銀行の連中も驚くだろうな。」
「大丈夫よ、あたしだってそれなりの預金はあったんだし、その中からほんの一部を返してもらっただけなんだから。」
 それから二人で飲んだ。幽子もかなり飲んでいた。明け方になって、幽子はフラフラしながら襖の隙間から帰って行った。
 翌日、光義は、幽子から教わったとおり、黒岩利之の家の前で待った。しばらくすると利之が家から出て来た。光義は、利之の後をつけた。利之は、顔を知らない光義の尾行に気付いている様子はなかった。
           −続く−







2026/07/14 18:34:45|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−08−
夜の訪問者−08−

 光義は、初めて聞くあの世の世界の話を興味深く聞いている。
「ええ、恨みの残して死ぬと大変なのよ。でも、そうでなくて天寿を全うして死んだ人は幸せだわ。年金は出るし、蓮の花の上でゆったりと暮らしているのよ。」
「ふ〜ん、それじゃあ幽子だって恨みを晴らせば良い生活ができるんだろう?」
「そうね、私は騙された以外にはそんなに悪いことはしていないから恨みさえ晴らせば、きっとあの世で成仏できると思うわ。」
「そうか、それじゃあ、あいつ・・・、おっとっと名前も聞いていなかったな。そのあいつに仕返しをしなけりゃな。」
「そうね、あなたにはあいつの名前も言っていなかったわね。あいつは黒岩建設の部長、と言ってもつい先日部長になったばかりなんだけど、黒岩利之って言うの。私に何をしたかは、この間話したとおりだわ。」
「そうか、黒岩利之だな。ところで、どうすればいいんだろう?」
「それをあなたに考えて欲しいのよ。」
「冗談じゃないぜ、俺は、そいつに何の恨みもないんだぜ。なんで俺がそんなことを考えなくちゃならないんだ。」
「あらっ、それはないんじゃない。あたしは、あんたが飢え死にしそうなときに、食事を運んで来てあげたのよ。もしあたしが食事を運んで来なきゃあ、あんたは今頃この布団の中で飢え死んでいるのよ。」
「そりゃあ、そのことについては感謝しているよ。でも、それとこれじゃあ問題が違うじゃないか。食事は昨日、今日のことだけど、お前の恨みを晴らすかどうかは一生の問題だからねえ。」
「あらっ、同じだわ。どっちも人の生死に関係することだもの。」
「う〜ん・・・・・」
 光義は、返事に困ってうなった。結局その夜も、2人は問題解決の糸口さえ掴むことができないまま、明け方を迎えることになった。
          −続く−







2026/07/13 18:40:20|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−07−
夜の訪問者−07−

 次の日、光義は朝から何もしないで寝ていた。昨夜、久し振りに美味しい食事をし、美味しい酒も飲んだ。でもそれが果たして夢なのか現実なのかがはっきりしない。それは、今晩幽霊の彼女が出て来るかどうかではっきりする筈である。
 光義は、夜になるのが待ち遠しかった。何も食べず、話し相手もいなくて寝てだけでいるのは大きな苦痛である。
 夜の7時になり、8時になっても幽霊は出て来なかった。9時になっても出て来ない。やっぱり夢だったのかと諦めて寝ることにした。
 やっと寝付いた頃、「うらめしや〜。」と言う声が聞こえた。
「なんだ、遅いじゃないか。」
光義が言った。
「あんた、いい加減にしてよ。あんたが何か食べ物を持って来いなんていうものだから、あたしは頑張ってレストランの厨房から持って来たんじゃない。あたし達は、明るいときは外に出られないのよ。暗くなってから食べ物を集めてここに来るには、遅くなっても仕方がないじゃないの。そのくらいわかってよ。」
「そうだったのか、ごめん、ごめん。」
 そういう光義に、幽霊の女はワインの栓を抜いてグラスに注いだ。
「ところで、名前を聞いていなかったけど、君の名前は何って言うの?」
「あらっ、そうだったわね。私、幽子って言うのよ。幽霊の幽に子供の子って書くのよ。」
「ふ〜ん、変な名前だけど、それってこの世にいたときからの名前なの?」
「違うわよ。そんな名前を付ける親なんかいないわ。生きているときには菅原裕子って言っていた。でも死んだとき、あの世の入り口で「幽子」って名前を付けられたけど、これは仮名なの。これで成仏できれば、ちゃんとした名前、戒名が与えられるのよ。」
「そうか、死んでからも大変なんだねえ。」
 光義は、同情するようにそう言った。
         −続く−







2026/07/12 20:54:54|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−06−
夜の訪問者−06−

 女の話は続いた。
「あたしもねえ、こうしてあんたみたいないい人といられるのはいいのだけど、いつまでも宙ぶらりんじゃあの世で待っている両親だって心配するわ。そうそう、言っていなかったけど、両親はあたしが小さい時に死んで、叔父さん夫婦に育てられたの。」
「そうか、苦労したんだな。」
「そうよ、小学校に入る前に両親が交通事故で死んで、叔父夫婦のところに引き取られたけど、叔父夫婦っていうのが欲張りというかケチだったの。学用品も満足に買って貰えなかったのよ。でも叔父夫婦には実の子がいなかったから、差別されることはなかった。アッ、でもこんな話をしても仕方がないわ。とにかく両親はすでに天国なのよ。きっと私を待っているわ。それなのにこんなところを彷徨っていたんじゃ、両親にも会えないのよ。」
「じゃあ、恨みを晴らせばいいんだな。」
「そうなの、お願いできる?」
「う〜ん、でもできるかなあ?」
「嫌だって言えば、私、あなたに恨みを晴らすわ。」
「おいおい、そんなことはよせよ。俺はお前には何も悪いことをしていないんだぜ。」
「あたしだって、誰かに恨みを晴らさなきゃずっとこのままでいなきゃならないのよ。そんなことできないわ。そうなったら誰でもいいから恨みを晴らすの。」
「冗談じゃない、そんなことされてたまるものか!」
 光義は、大きな声で言った。話をしているうちに、外が白み始めて来た。
「あたし、帰らなくっちゃ。」
「もう帰るのかい?せっかく知り合いになれたのに。」
「さっきも言ったように、あたし達は、昼間はこの世界にいられないのよ。明日の夜暗くなったらまた来るわね。」
「頼むから、また食べ物を持って来てくれよ。」
 その返事を聞く前に、彼女は襖の向こうに消えて行った。
           −続く−