男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2026/07/21 22:35:37|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−15−
夜の訪問者−15−

 アパートに帰ると、12時を過ぎていた。
 幽子は、先に来て待っていた。
「随分遅かったわね。何をしていたの?」
「よせよ、お前と相談して利之を尾行していたんじゃないか。お前は、俺の行動を見ていたのじゃないのか。」
「だって、こんな時間じゃない。あなたの食事の準備に奔走していたのよ。」
「そうか、そりゃすまなかった。」
「あなたも御苦労さまでした。まずはお食事をしながら一杯どうぞ。」
「うん、でも汗をかいたから、風呂に入るよ。」
「そう、背中でも流しましょうか。」
「いや、いいよ。先に飲んでいてくれ。」
「そんな、働いて来たあなたより先に飲むなんてできないわ。早く入って来てね。」
 光義は、お湯に浸かりながら、もし幽子が裸になったらどんな姿をしているのだろうと思った。幽霊だから脚はないはずである。すると、どこからどうなっているのだろう。興味がないではなかったが、ちょっと気味が悪い気もして、背中を流すと言うのを断って良かったと思った。
 風呂から出ると、幽子が持って来た寿司をつまみながら冷酒を飲んだ。部屋こそ狭かったが、今では冷蔵庫も買ったし、テレビも買ってある。
 早速、幽子が今日の様子を聞いたので、光義はさっきまであったことを話した。それを聞いていた幽子が言った。
「あなた、やり過ぎよ。そんなことをしたらバレてしまうわ。あなたは元々刑事になんか向いていないのよ。」
「うん、ちょっとドキッとしたよ。」
「あいつは、人を殺しても平然としている奴よ。大丈夫かしら?」
 光義は、途端に酒の味が悪くなったような気がした。
 夜が遅かったので、夜明けが早くやって来た。小鳥の鳴き声が聞こえて来て、幽子は姿を消して行った。
          −続く−







2026/07/20 16:52:25|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−14−
夜の訪問者−14−

 翌日の夕方、光義はサングラスを買った。何しろ幽子というスポンサーが付いているのでお金の心配はいらない。サングラスを買うとその足で利之のいる会社に向かった。そして利之が出て来るのを待った。利之が出て来たのは9時を過ぎたときだった。3人の仲間と一緒である。
 利之は、会社の前でタクシーに乗った。光義は、慌ててタクシーを捕まえると、警察手帳のレプリカを見せて尾行をするように言った。タクシーは銀座に向かって行った。あるクラブの前で止まり、利之達はその中に入って行った。
 光義は後から店に入ると、カウンターに座った。ボックスの席で騒いでいる利之に回りには、何人かの女の子がいて、光義の存在には全く気付いていないようだった。本当の尾行ならこれで良いのだろうが、今回はこれでは意味がない。
 光義は、わざと大きな声でバーテンに話し掛けたりしたが、一向に気付く様子はなかった。光義は、サングラスを取るとトイレに立つふりをしてすぐ近くを歩いて行ったが、それでも話に夢中の利之は気が付く様子はなかった。しびれを切らした光義は、トイレからの帰りに声を掛けた。
「おや? 黒岩さんじゃないですか、ひょんなところでお会いしましたね。随分、お楽しみのようですね。」
利之は、驚いたような顔をした。
「おや、あなたもここにおいででしたか。この店は高いのに、よく来られるのですか?」
 光義は、ドキリとした。考えてみれば、刑事がこんな店に来るはずはない。
「いや〜、ちょっとね。仕事柄いろいろありまして。それじゃあごゆっくり。」
 それだけ言うと、カウンターに戻った。
 光義は、それから30分ほどいて店を出ると、外で利之が出て来るのを待った。利之は、光義に会ったのが気になったのか、しばらくすると店を出て来て、そのままタクシーに乗ろうとした。光義は、その近くに寄って行って、わざと目に着くようにした。
           −続く−







2026/07/19 17:48:20|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−13−

夜の訪問者−13−

 その夜のことである。やって来た幽子が、いきなり言った。
「あなた、今日はやったわね。素晴らしかったわ。」
「あれで利之に効果があったんだろうか?」
「あったなんてものじゃないわ。大ありよ。あいつ、午後から部下に怒鳴りっぱなしだったわ。あんたの言ったことが、相当堪えたのね。」
「そうか、それは良かった。明日も行って来るかな。」
「それはやめておいた方が良いわ。」
「だってそれじゃあ・・・・・」
「いい、聞いて。あんたは、彼を尾行するのよ。しかも見えないように気を付けているふりをしながら、実際は彼の目に入るように後を付けるの。そうすれば、彼の恐怖心は益々大きなものになると思うわ。」
 この日の、料理は中華だった。横浜の中華街の何とかというレストランから失敬して来たとかで、ツバメの巣のスープ、北京ダック、ふかひれの煮付け、鯉の揚げ物など宮廷料理さながらである。酒は、高級な老酒だった。
「たまには、コンビニのおにぎりが食べたいものだ。」
 光義は、声に出さず口の中でそっと呟いた。
 その後も散々飲んだ後で、明け方近く幽子はフラフラになって帰って行った。

           −続く−








2026/07/18 17:44:31|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−12−
夜の訪問者−12−

 翌日、光義はリサイクルショップに行って、背広の古着と帽子を買った。刑事コロンボを真似てコートも買おうかと思ったが、夏にコートはいらないのでやめておいた。店で買ったものに着替えると、今まで着ていた物を預かって貰い、今度はアメ横に行って、警察手帳のレプリカを買った。そしてその足で、利之の会社に向かった。
 時間は、ちょうど昼休みに入ったところである。ちょっと待っていたら、利之が数人の仲間と一緒に出て来た。光義は尾行をして行った。そして彼らの食事中、外で待っていた。彼らが食事を終えてレストランから出て来て、会社の近くまで戻って来たとき、利之に近付くと、「黒岩さんですよね。すみませんが、ほんの数分だけ話を聞かせてください。」と言って、警察手帳のレプリカを見せた。利之は、「みんな先に行っていてくれ。」と言って、光義に着いて来た。二人きりになったところで、光義が言った。
「突然、すみません。実は、菅原優子さんが亡くなった事件について、検察の方から再捜査を命じられましてねえ。あなたからも、もっと事情をお聞きしなければならなくなると思うので、ちょっとお知らせしておこうと思いまして。」
「だって警察も、あの事件は自殺で何の疑問もないって言っていたじゃないか。」
「それはそうですが、検察のお偉いさんの誰かがどうも不自然な点があるって言っているみたいなんですよ。担当刑事の私も、まだ詳しくは教えられていないんですけどねえ。」
「そんなバカな、何を今さら。」
「時間を取らせまして申し訳ありません。遠くへの出張とかはないですよね。警察においでいただく場合には、こちらから連絡致しますので、そのときはよろしくお願いしますよ。」
 それだけ言うと、光義はさっさと後ろを向いて歩いて行った。
           −続く−







2026/07/18 5:12:10|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−11−
夜の訪問者−11−

 幽霊になれという、幽子の言葉に驚いた光義が言った。
「冗談じゃないぜ。俺は、まだ死にたくなんかないよ。」
「そうじゃないのよ。あなたが利之の前に幽霊の姿で出るの。」
「それなら、お前が出ればいいじゃないか。俺の前にさえ平気で出ているんだから、恨みのある利之の前に出られないことはないだろう?」
「それが駄目なのよ。あいつ、夜は飲み歩いているの。あたし達幽霊は、人ごみとか大勢の前には出られないの。利之は、いつも誰かに囲まれているわ。だから出づらいのよ。」
「そうか。」
「そうなのよ、四谷怪談のお岩だって、牡丹灯篭のお露だって、銀座の雑踏にゃ出て来ないでしょう。みんな恨みにかこつけてでしか出歩けないのよ。」
「ふ〜ん、幽霊も大変なんだなあ。」
「仕方がないから、私がまた幽霊として出るかなあ。」
「そうだよ、そのままで良いんだからいいじゃないか。それに、あいつの前に出るのが大変だからって、俺のところに出るなんてお門違いだぜ。」
「でも、それであなたも助かったんだからいいじゃない。」
「俺さあ、ちょっと考えたけど刑事になって脅かすってのはどうだろう。お前の死んだ事件に疑問が残るから、再捜査を始めたって言うんだ。」
「それは良いわ。じゃあ、私の幽霊とあなたの刑事の二本立てで行きましょう。」
 そこまで決まったところで、幽子が光義の盃に並々と酒を注いだ。更に細かい打ち合わせをしていたとき、どこかで飼っている鶏の「コケッコー!」という鳴き声が聞こえた。
「夜が明けるわ。帰らなくっちゃ!」
 幽子は、慌てて襖の隙間から消えて行った。
            −続く−