春の行方−18−
光太郎は、焦った。行き先も告げず、トイレに立つふりをして出て来たので、急いでみんなのところに帰らなければならない。しかし一恵は、一方的に話を続けている。 「あの〜、すみません。僕、今日のバーベキューの幹事だったので、今、打ち上げをやっているのです。帰らないと・・・・・」 話の合間に、やっと光太郎が言った。 「そうだったの、それ、何時頃終るの?」 「多分、あと1時間ほどで終ると思います。」 「わかったわ。じゃあ、それが終ったらまたここに来て。私、待っているから。」 「でも・・・・・」 「いいでしょう。ネッ、早くみんなのところに戻ってあげなさい。」 「はい・・・・・」 結局、一恵に押されるようにカラオケボックスを出て、みんなのいる居酒屋に戻った。 席に戻ると、大室が言った。 「おい、どこに行ってたんだ。随分、長いトイレだったぜ。」 「ああ、俺、丑年なんだ。トイレは長いんだよ。」 そう言って誤魔化したが、一恵の言ったことが気になっていた。 バーベキューでも飲んでいたので、さすがに誰も二次会に行こうとは言わなかった。 打ち上げが終って、みんなが揃って寮に帰ろうとするのを、「俺、ちょっと用事があるから。」と言って別れ、そのまま一恵の待つカラオケボックスに向かった。 部屋に入ると、一恵は一人で歌を歌っていた。 「三永君、待っていたわ。打ち上げは、もう終ったの?」 「ええ、先ほど。」 「そう、歌は得意なのでしょう。歌いましょうよ。」 「でも、僕、歌は苦手です。」 「そう、じゃあ、もうちょっと飲みに行きましょう。明日は、休みだし大丈夫でしょう。」 一恵はそう言うと、インターフォンでフロントに電話をして、清算してくれるように頼んだ。 「すぐ近くに私の行きつけのスナックがあるの。」 一恵はそう言うと、さっさと歩き始める。光太郎は、断わりきれずに黙って後ろから着いて行った。一恵が入ったのは、小さなスナックである。看板には、「再会」とあった。 店に入ると、カウンターの中の中年のおやじが「おっ、一恵さんいらっしゃい。」と言った。その言い方から、一恵はこの店の馴染みらしい。 一恵は、キープしてあるウィスキーのボトルを出すようにマスターに言い、水割りを頼んだ。光太郎は、今までにかなり飲んでいたので、あまり飲む気になれなかったが、水割りを薄くしてくれるよう頼んだ。 「今日は、お疲れさまでした。大変だったでしょう。」 「ええ、でもみんなが協力してくれたので、大したことなかったです。」 「ここは気楽な店だから、安心して飲んでね。私、仕事で嫌なことがあったりすると、たまに来るのよ。マスター も良い人だから、あなたも一人で飲みたいときは来たらいいわ。」 「はい・・・・・」 一恵はウキウキした感じで、光太郎は何となく腑に落ちないものを感じながら飲んでいた。しばらく飲んでいたとき、一恵が「行きましょうか。」と言った。 時計を見ると、11時を回っている。 光太郎は、「帰ろうか。」ではなく、「行こうか。」と言う一恵の言葉に奇異なものを感じていた。 店を出た一恵は、寮と反対方向に歩き始めた。 「あっ、先輩、方向が逆ですよ。」 思わず光太郎が言ったが、一恵はそれを無視するように歩いていた。 −続く− |