春の行方−15−
松戸の寮に戻った光太郎は、一旦部屋に荷物を置いてすぐに、買ってきたお土産を渡すために久恵の部屋のチャイムを鳴らした。しかし、まだ帰って来ていないようで出てくる気配がなかった。
部屋に戻ってパソコンを開いて見ると、佳津枝からのメールが入っていた。
「無事に、東京に着きましたか。
お正月、光太郎君のお陰で楽しく過ごすことができました。光太郎君を見送ってから何となく寂しくて、家で一人ビールを飲んでいます。普段は、そんなことはしません。さっき会ったばかりなのに、次に会えるのを心待ちにしています。光太郎君が、東京に行くまでは、こんな気持ちになったことはありませんでした。
私達は、産まれたときからずっと一緒でしたものね。一緒にいることが当たり前の二人だったと思います。こうして別々に暮らすようになって、初めて光太郎君とのことについて深い絆で結ばれていたことに気が付きました。
夏休みを楽しみに、明日からまた元気に頑張って行きましょう!
佳津枝」
メールを読み終わったときに、玄関のチャイムが鳴った。出て見ると、雪焼けした久恵だった。「浜松のお土産です。」と言いながら、手に持っていた箱を手渡した。スキーの後で浜松に帰っていたようである。
光太郎は、それを受け取ってから、急いで部屋からみやげを持ってきて、「これ生もので長持ちしないけど田舎ではこんなものしかないんだ。」と言いながら、買って来たかまぼこの入った箱を手渡した。そして、一緒に夕食に行かないかと誘った。
久恵は笑顔で頷いた。二人は、そのまま駅前の居酒屋に行った。正月明けの休日、店は比較的空いていた。テーブルで飲んでいたとき、入り口に向かって座っていた久恵が突然手を挙げて言った。
「大室君、こっち、こっち。」
大室は、それに気が付いて、すぐにテーブルにやって来た。
「なんだ、二人で来ていたのか。誘ってくれれば良かったのに。」
「帰って来ているって知らなかったんだ。」
「そうか、昼過ぎには帰って来ていたんだよ。」
「でも、みんなここしか来ないもんな。飲みたい時には、ここに来れば誰かに会えるよ。」
それからは、大室と久恵の間でスキーの話が中心になった。二人の話を聞いていると大室はスキーは指導員の資格を持つほどの技量のようである。久恵は、経験はあるが初心者程度のようであった。話の内容から、そんな久恵を大室が手取り足取り教えていたことが伺われる。
二人の話を聞きながら、光太郎は一人ビールのグラスを傾けていた。そんな光太郎に気付いた久恵が言った。
「三永君は、どんなお正月だったの?」
「ああ、大掃除と餅つき、それに静かな正月だった。でも、お袋が喜んでくれたよ。」
「そう、良かったわね。どこにも行かなかったの?」
「うん、近くの神社に初詣に行ったくらいだね。」
「でも、ご家族と一緒で良かったわね。」
「うん・・・・・」
本当は、佳津枝と一緒にいたことが一番の幸せであったのだが、そのことは口にしなかった。
再び、話はスキーのことに戻った。そして大室が言った。
「今年の年末は、三永も来いよ。楽しかったぜ。」
「そうだね。」
光太郎は、何となく煮え切らない感じで返事をした。
−続く−