春の行方−51−(最終回)
しばらく雑談を続けていたが、大室が「実は、君に報告したいことがあるんだ。」と言った。
「何?」
「実は、僕達、結婚をしようと思うんだ。」
「そうか、それはおめでとう。」
光太郎の反応に、それまで何となくぎこちなかった二人に安堵の色が見えた。光太郎は続けた。
「俺、大室が久恵さんに好意を持っているのに気付いていたよ。最初は、張り合う気持ちもあったけど、今は心から祝福できるんだ。実は、僕も田舎の幼馴染みと結婚しようと思っているんだ。」
「そう、三永君が入院しているときに来ていた人ね。」
「うん、そうなんだ。」
「じゃあ、もう一度3人でお祝いの乾杯をしよう。」
大室はそういうと、新しいビールを3つ店員に注文した。
そのとき、入口の方で新しい客が入って来て賑やかな声がした。見ると、陽子達寮の仲間だった。彼等は、すぐに光太郎達に気付いたようだった。
「なんだ、先輩達3人で抜け駆けですか。」
言ったのは、1年後輩の大石だった。
「別に抜け駆けってことじゃないけど、ちょっと3人で話があったのよ。」
久恵の言葉に、陽子が言った。
「お話って、どんなことですか。良い、お話なの?」
「そうね、じゃあ言うわ。私、大室さんと結婚することにしたの。そして三永さんも結婚することになったんですって。」
すると大石が言った。
「ダブルのおめでたですか。じゃあ、今日の飲み代は3人の奢りですね。みんな、今日は安心して飲もうぜ。」
途端に、席が陽気になった。
6人のメンバーで賑やかに飲んだ。飲み会が終ったときは12時近くになっていた。課の飯岡の話を聞き、佳津枝に結婚を申し込んで以来、光太郎は深酒をしなくなっていた。
このときもそんなに飲んではいなかった。
寮に戻ると、早速佳津枝にメールを送った。
「夕方、無事に松戸に戻って来た。寮の仲間が結婚するそうだ。その話を聞いていたので、到着の報告のメールが遅くなった。僕も、佳津枝と結婚することを報告しておいたよ。そうしたら後輩達が店にやって来んだ。お陰様で、彼等の分まで支払わなくてはならなかったけどね。こうして部屋で一人でいると、無性に佳津枝のことが恋しくなるんだ。早く結婚したいね。
夏休みには、東京に来ないか。みんなに紹介したいんだ。楽しみにしているよ。
光太郎」
するとすぐに佳津枝から返事が来た。
「はい、夏の休みには是非東京に行きたいと思います。あれから考えてみたのですが、結婚は2年後くらいになりそうです。今の会社の仕事にキリをつけて、私が東京に行って光太郎君と暮したいと思います。そのときは、宜しくお願いしますネ

佳津枝」
日頃、使ったことがない

マークに、光太郎の顔が思わずほころんだ。
その日、明け方近くになるまで、二人はメールのやり取りを続けていた。窓からは、冬の冴えた月明かりが差し込んでいた。
−完−