雲水の餅問答 ある所に立派なお寺があった。とてもお寺は立派でも、その中のお坊さんは怠け者のちっとも修行なんかしない、檀家などのご機嫌とりがうまく、勉強なんかちっともしない和尚さんだったのよ。 そこに餡餅屋の六兵衛さんという人があった。その人は毎日毎日の信心で、お寺へ来てはお経をあげておりました。その晩も例によって来て見ると、和尚さんがいつになく青くなっているので、六兵衛さんはどうしたときくと、怠け者のお坊さんも自分が勉強しなかったとは言えかねたのか、「私はこのごろ病気で困っているところへ、旅僧が来て禅問答の試合に来ると言うので、もし出なければ卑怯だと言われるし、出れば負けかもしれない。負ければこのお寺にいることができないのだ」 それを聞いた律義なやさしい六兵衛さんは、「それでは私を出してください。もし私が旅僧より勝ったならば、和尚さんより偉いのだし、負ければ私の恥で和尚さんの恥ではない」。もう和尚さんはどうしようもないので、六兵衛さんを本堂へ連れて行って、座禅の組み方を教え、合掌の仕方を教えて、和尚さんはかげに隠れて見ておりますと、六兵衛さんは盛んに、「ムニャムニャ」いつから習い覚えたお経を唱えておりました時、旅僧が入って参りました。入りながら旅僧は、「白扇さかしまにかかる東海の天」と言いました。餡餅屋の六兵衛さんは何も知りませんから黙っておりましたら、旅僧は、「はっはあー、ここの和尚は、無言の行でおわすか」と言って自分も無言の行をなされた。六兵衛さんは黙って細く目を開けて、旅僧の方を見ていると、
旅僧は手で小さい輪を作りましたから、六兵衛さんはなんのことかわかりませんが、かまわず大きな輪を作りました。すると旅僧は「うえっ」てお辞儀を致しました。また六兵衛さんが細く目を開いて、旅僧の方を見ていると、
今度は旅僧は人差指を一本出しましたから、六兵衛さんは五本の指をひらいて出しました。それを見た旅僧はまた「うえっー」てお辞儀をし、今度は三本の指を出しましたから、六兵衛さんは アカンベーをしましたら、旅僧はまた「うえっー」とお辞儀をしてさっさと逃げ出しましたので、不思議に思ったのでさっそく小僧に後をつけさせました。
旅僧は、宿屋でえいわーえいわー息をきらして汗をふいているところだったので、きいて見ると
、「今日ぐらい偉い和尚さんに逢ったことはない」「どうしてですか」と小僧がきくと、「私が太陽はと言って小さい輪を作ると和尚さんは世界を照らすといい、三仏はと三本出すと目の下にありと言った」それを聞いて、小僧がお寺へ帰って来ると、六兵衛さんは頭から湯気を立ててぷんぷん怒っているので、小僧は、「まあまあそんなに怒りなさんな。どうしたのか話をきかせてくれ」と言うと
、「今日ぐらい太い和尚に逢ったことはない。お前の家の餅はこれくらいかと小さい丸を出したから、おれの家はこんなに大きいと大きな丸を作って出したら、一ついくらだと言うから五厘だと五本の指を出すと、三厘にまけろと言うからアカンベーとしたら、旅僧の奴さっさと逃げ出した」ということであるよ。 これでこのお話はおしめいだ。 (埼玉県・
「武蔵川越昔話集」・より)
※ 写真は自宅のアジサイ。 パソコンで加工しました。
私も遠回りしていろいろ学びました。