居酒屋「隼」は、夫婦でやっている店です。マスターは、自分のことを艦長と呼び、奥さんのことを副官と呼んでいます。 昔から軍艦では艦長は一番偉い人であり、副官は偉い人の世話をするのが任務で、いわば秘書です。 確かに、「隼」の艦長は怖い顔をしていて、いかにも偉そうに見えます。町内にある南九州大学の応援団長も、この艦長には日頃世話になっていることもあって頭が上がりません。消防団長をしたり、ボーイスカウトの面倒を見たりでなかなか忙しい人です。 一方、副官の方は加藤治子に似た美人で、とてもつつましやかで優しそうで、いつも微笑みを浮かべています。艦長は、客の前では威張っています。「女房なんか、俺の意のままに動いている」というようなことを言うし、客に対しても威張っています。でもそれは、副官が聞いていないときだけで、副官がいるときは、猫なで声で「順ちゃん」なんて呼んでいます。 その昔、艦長と副官が夫婦喧嘩をして、副官が20キロ離れた実家に帰ってしまいました。すると艦長は、一生懸命自転車で迎えに行ったと言います。また夫婦喧嘩で物を投げるときも、ちゃんと順ちゃんに当たらないように投げると言います。 顔も怖いし、人前ではあんなに威張っている艦長ですが、どうも副官の前では形無しのようです。 夫婦のことは、本当にわかりません。 |