男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
CATEGORY:小説「孤島の風」

2012/03/26 5:16:23|小説「孤島の風」
孤島の風-08-
  南国の浜辺近く、空には明るい月が照っていた。結ばれた後の二人は、仰向けに並んで寝ころび、月を眺めていた。
「わたしね、男の人とこうなったのは初めてなの。」
幸枝が静かに言う。
「わたし、今まで男の人は嫌いだったの。わたしの母は父とは正式に結婚していないの。早く言えばお妾さんなのよ。それでわたしがまだ小さい頃、時折やって来る父は母と寝るためだけだったわ。そんな父を見ていたわたしは男って本当に嫌らしいものだと思い込んでいたの。それに比べると、女は弱いしそんなところが好きなの。わたしは、同性愛の世界に入り込んで行ったの。新宿あたりに行くと、そんな女の子はすぐに見つかったわ。それに大学時代の女の子にも、けっこうレズの女の子がいたの。だからわたしは、男に興味を持ったことはなかった。むしろ嫌悪感を持っていたの。それを知っているから、父も母も、わたしがこんな航海に行くことを許してくれたのだわ。」
「・・・・・」
「でも、あなたとこうしてこの島で暮らすようになって、わたしの中に違うものが芽生えたの。男に対する興味のようなものを覚えたわ。あなたを見て、男の中にも素晴らしい人がいるんだってわかったの。」
「・・・・・」
俺は、黙って幸枝の話を聞いていた。
「あなたはわたしの命の恩人だわ。今回の遭難で助けてくれたと言うより、わたしを女として目覚めさせてくれた恩人という意味なの。今、改めてお礼を言うわ。」
「恩人だなんて言われるなんて思わなかったな。僕は、不器用な人間だし、それはともかくとして、ここを何とか脱出することを考えなければ・・・・・。」
「いいの、無理することはないわ。わたしは、ここで生まれ変わったの。ここでなら楽しく充実して過ごせるわ。ピーコもいるしね。」
「そうもいかないよ。近くを船でも通ってくれるといいのだが。」
「そうね。でも、無理をしなくていいのよ。気長に待ちましょう。」
俺は、沖を船が通ったときに見つけてくれるようにと、ヨットの帆を岬の突端に立てていた。
  それから2週間ほどしたときである。海岸で魚釣りをしていた幸枝が俺の方に走って来ながら、沖の方を指差し、「ねえ、見て!」と大きな声で言った。沖を見ると、大きな貨物船が停泊していて、ボートがこっちにやって来ている。
「見つけてくれたんだ。僕達、帰れるんだ。」
「でも、わたし帰りたくないわ。」
幸枝の言葉に、俺は驚いた。
「何を言うんだ。こんなところで一生暮らすわけにはいかないよ。」
「でもわたし、ここで幸せを見つけたのよ。東京に戻ると、また元の生活に戻らなければならないわ。あんな欺瞞に満ちた生活に戻りたくはない。」
「君は東京に戻って元の生活に戻り、そこで新しい幸せを見つけるんだ。君ならきっと見つけられるよ。」
「嫌よ、帰りたくない。」
「我が儘を言うんじゃあない。」
俺が強い語調で言った。幸枝は、目に涙を浮かべている。
その間にも、ボートはどんどん近づいて来て、やがてエンジンの音が聞こえてきた。

                                                 -続く-






2012/03/25 5:00:54|小説「孤島の風」
孤島の風-07-
  朝起きて釣りをし、午後はバナナや椰子の実を採ったりしながらの島の生活が続いた。娯楽のない生活は、それなりに退屈を覚える。そして夜になると、焚き火の他は灯りもなく、日没が過ぎてしばらくすると寝なければならない。と言うより、寝る以外にすることがないのである。
  ある晩、寝ていた俺が物音に驚いて目を覚ますと、隣に毛布を持った幸枝がいた。
俺が振り向くと、幸枝が「寂しい。」と言った。こんなにしおらしい幸枝を見たのは、初めてであった。俺がどうしていいか戸惑っていると、「横に寝かせて貰っていいかしら。」と言う。俺が黙って後ろを向いて寝ていると、幸枝は毛布を被って俺の背中に横になった。その日から、俺達は同じ小屋で寝るようになった。しかし、幸枝の体に手を触れるようなことはなかった。
  ある日、俺がオームを捕まえた。無人島だからだろう、まるで人を警戒しないオームを捕まえるのは比較的簡単だった。そっと近づいて手を差し伸べると、向こうから手の上に乗って来たのである。捕まえたオームの足を紐でしばって肩に留まらせると、おとなしくしている。俺は、そのオームを幸枝に渡した。幸枝は、そのオームがとても気に入ったようだった。オームを得てからの幸枝は、人が違ったように明るくなった。一日中、いっしょにいて、言葉を教えたり、バナナなどの餌を与えたりしていた。オームの方も、そんな幸枝によく懐いた。今では、紐をしなくても逃げ出したりしないし、たまに飛んで行っても、お腹が空くと
すぐに帰って来た。幸枝はオームに”ピーコ”と名付けた。
名前を付けるとき、「ねえ、この子ピーコってしたいんだけどいいかしら。」と俺に聞いた。
俺は、黙って頷いた。
この頃、幸枝は俺の話し掛けに対しても素直に応じていたし、釣りや焚き火などの仕事の手伝いも積極的にしてくれるようになっていた。
  ある晩のことである。
隣に寝ていた幸枝が起き上がって、俺の背中に手を当てながら「ねえ、私を抱いて!」と言った。
俺は、ちょっと驚いた。今までに、幸枝がセックスに興味を抱いているような素振りはまるで見えず、俺はむしろ、男嫌いではないかと思っていたのである。俺は体を反転させて、幸枝の方に向き、しばらく顔を見合わせた。
  目と目が合う。俺は、幸枝の手を取ってゆっくりと引き寄せる。幸枝の身体が俺の上に倒れた。 俺は、幸枝を抱き締めてキスをする。幸枝もしっかりと俺の唇に合わせていた。それから二人が結ばれるのに、時間はかからなかった。

                                                     -続く-






2012/03/24 4:40:27|小説「孤島の風」
孤島の風-06-
  しかし、幸枝の笑顔もそれまでだった。
食事が終わって焚き火を挟んで座っているのだが、幸枝は黙っているだけだった。俺も、自分から話し掛ける気になれず、黙っていた。
  夜が明けて、島に来てから3日目の朝を迎えた。俺は食料探しを兼ねて、山の方へ探検に出掛けることにした。幸枝も一人でいるのは嫌なようで、俺の後ろから着いてきたが、途中からジャングルのような険しい道を登って行く頃になると、「待って!」とか、「もうちょっとゆっくり歩いて!」などと命令調で言う。
「嫌なら、来なくていいんだ。小屋のに帰ればいい!」
俺が、ちょっときつい言葉でそう言った。こんな言い方をしたのは、幸枝と出会ってから初めてのことである。
幸枝は、ちょっと驚いたような顔をしたが、そのままそっぽを向いて黙ってしまった。俺は、そんな幸枝を無視するように歩いて行った。幸枝は、遅れながらも黙って後ろから着いて来ていた。
  1時間ほど歩くと、開けた湿地のようなところがあって、そこにバナナの木が群生しており、幹にはたくさんの黄色い実がなっていた。俺は、そこに駆け寄ってバナナを取って食べてみた。
久し振りの果物のような気がして、とてもおいしく感じた。幸枝に渡すと、彼女もおいしそうに食べた。そこでしばらく休憩し、大きな房を取って、元の道を戻って行った。魚にバナナ、贅沢は言えないまでも、これでとり敢えずの食料の確保はできた。その後も、海岸の反対側の方に行ったり、別の方向から山の方に行ったりしたが、探検の回数が増すに従って、ここが無人島であることがはっきりとしてきた。人の住んでいる形跡がまるでないのである。一体、助けは来るのか、自分達のことを捜索してくれているのか、それは全くわからなかった。
  島に着いて一週間ほどした頃から、退屈と倦怠が始まった。日数が過ぎるとともに、我々は捜索されていないのではないかという不安が根強いものになって来たのである。この頃の幸枝は半ば諦めたように、淡々とした態度を取っていた。俺に命令調の口を利くこともなかったが、かと言って打ち解けてくる様子もなかった。

                                               -続く-






2012/03/24 4:38:14|小説「孤島の風」
孤島の風-05-
  朝が来た。
「ギャー!」という鳥の鳴き声で驚いて目を覚ました。
見ると椰子の林の奥の灌木の茂みにオームのような鳥が鳴いていた。こっちを不思議そうな目で見ている。
  初夏の太陽は水平線からかなり上の方に上っている。幸枝の寝ている洞窟の方に行って見ると、洞窟の中ではなく、もう消えている焚き火の側で横になり毛布を被って寝ていた。俺は、缶詰を持って来て、幸枝を起こした。
「朝食にしましょう。」
幸枝は、眠そうに目を擦りながら起きた。
俺が缶を開けて幸枝に差し出したが、「また、缶詰なの。わたし嫌いだわ。食べたくない。」と駄々をこねる。
俺は、知らん顔をすることにした。焚き火の跡に座りながら、一人で缶詰を食べる。幸枝は同じように座りながらもそっぽを向いている。
  今日は、洞窟の入り口に小屋を作り、少し居心地良くしたいと思うし、缶詰だけではいずれ食料も底を突くので釣りをするか、島を探検しながら食料を探そうと思っていた。幸いヨットにはナイフや鉈、釣り道具などがある。
まず午前中に、木や椰子の葉っぱを切り出して、昨日寝た洞窟の入り口に小屋を作った。 粗末なものだったが、これでかなり快適になるはずである。それから岬の岩場の方に行って釣りをした。
このとき、幸枝も私の後ろから着いてきて、俺が釣りをするのを見ていた。砂浜で岩に着いた貝や蟹を取り、それを餌にして釣るのであるが、他に人がいないからかすぐに魚は釣れた。 問題は、どれが食べられる魚で、どれが食べられないものかがわからないことだった。赤いのや青いの、黄色いのなどがいて、毒でもあったらと思い、けばけばしい色のものはすぐに海に放し、鰺のようなのや白身のようなものだけを木の枝に刺して持って帰った。小屋のところまで帰って来てから、焚き火をし、木の串に刺した魚を焼いた。魚の焼ける匂いが空腹のお腹を刺激する。先に焼けた魚を差し出すと、幸枝は無言でそれを受け取って食べ始めた。
「おいしい。」
このとき、俺は島に着いてから初めて幸枝の笑顔を見た。

                                          -続く-






2012/03/22 4:45:20|小説「孤島の風」
孤島の風-04-
  俺は、幸枝を無視して鰯の缶詰を開けて食べた。
間もなく夕方がやって来る。とりあえず、寝るところも作らなければならない。ヨットは風が吹けば流されるかもしれないので、とにかく陸地にいる方が安全である。俺は、椰子の林に入って行き、適当なねぐらを探した。幸い林の奥の方に岩場があって、そこが小さな洞穴になっていた。そこに椰子の葉を集めて敷き、その上に毛布を置くと、雨露は凌げる。
「さあ、寝床が出来ました。今日は、ここで寝ましょう。」
俺がそう言ったときに、最初の幸枝の言葉が出たのである。
「嫌よ。私、こんなところでは寝れないわ。ヨットに帰りましょう。」
「ヨットは危ないのです。夜中のうちに潮が満ちてきて流されたら、もう帰って来られなくなるかも知れません。エンジンの動かないヨットは危険なのです。」
「・・・・・」
幸枝は、観念したように黙り込んだ。
それが終わっって、今度は自分の寝床を作る。
幸枝のところから10メートルほど離れたところに、もうひとつ小さな洞窟があったので、そこに椰子の葉を敷いた。暗くなったので、木や葉っぱを集めて焚き火をし、缶詰を開ける。
「さあ、夕食にしましょう。食べないと、お腹が空いて眠れませんよ。」
俺が言うと、幸枝もお腹が空いていたのだろう、今度は比較的素直に缶詰に手を伸ばした。
食事といっても缶詰を食べるだけ、あっと言う間に終わる。
「さあ、もう寝ましょう。明日から、しなければならないことがたくさんありますし。」
しかし、なかなか洞窟に寝るのが怖いのか、幸枝は焚き火の側から離れようとしない。 俺は、しばらく一緒にいたが、これでは仕方がないと思い、自分の寝床のある洞窟の方に向かった。
                                             -続く-






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