嘘―62― 4日間の滞在の後、私は光佑さんと一緒に東京に戻りました。 帰りの新幹線の中、私の心に引っ掛かっていたのは自分のお母様のことと、もう一つありました。光佑さんの妹の美也子さんのことです。私は、そのことを光佑さんに話しました。 「あゝ、妬いているのかなあ。僕達は、近所でも評判の仲の良い兄妹だったからね。でも、心配することはないよ。大事なのは、僕の気持ちだよ。僕は、君を愛している。それだけで十分だと思うよ。仮に、親が反対していても、僕は自分の意思を通すつもりだけど、幸い、親父もお袋もすっかり君を気に入っているみたいだよ。」 「ありがとうございます。私の方こそ、母を説得できなくてすみません。」 「いいんだ。時間がかかるのは仕方がないよ。結婚そのものは、そんなに急ぐ必要もないしね。」 「そうは言っても、母が納得してくれないのは申し訳ありません。帰ったら、梅乃さんとも相談してみます。彼女は、子供の頃から私の味方ですから。」 それからは、普段の会話に戻っていました。 家に帰ると、買って来たお菓子を、お母様と梅乃さんに手渡しました。お母様は、黙ってお菓子を受け取っただけでしたが、梅乃さんは嬉しそうに何度も「ありがとうございます。」を繰り返していました。 次の日、私は部屋の掃除に来た梅乃さんに言いました。 「梅乃さん、私、どうしても光佑さんと結婚したいのです。」 「わかっておりますよ、お嬢様。」 「どうすれば、お母様を説得できるかしら。」 「お母様も、もうかなり覚悟はなさっていると思います。お嬢様が山口に行っておられる間にも、『彩香は、本当に結婚するつもりなのだろうねえ。』とおっしゃっていましたから。お母様のお心の中には、お嬢様の幸せを願う気持ちとご先祖に対する責任感のようなものがあって、その間で悩んでおられるのだと思います。しかし、初めの頃に比べれば、かなりお嬢様が結婚されることに諦めのような気持ちをお持ちになられたと思います。」 「そうかしら。そうだと良いけど、私にはとてもそうは見えないわ。」 「もう少しお待ちください。そして、私がお話したら、光佑さんをうちに連れて来てください。そのタイミングは大事だと思いますので、それまでは我慢してください。」 梅乃さんの言葉には、確信のようなものが感じられました。私は、「お願いします。」とだけ言いました。 光佑さんは既に仕事が始まっていましたが、私も新学期になり、教務が始まりました。光佑さんは忙しいようで、平日に会うのは難しく、土曜日か日曜日にしか会えません。やっと会えたのは、9月も半ばになっていました。その時、私は梅乃さんから聞いたことを話しました。 「そうだね、梅乃さんが一番、君とお母さんの実情に詳しいのだから、それに従うのが一番良いのだろうね。」 「すみません。」 「アハハッ、もう謝らなくていいよ。これ以上謝ると、怒るよ。」 光佑さんは、そう言ってまた笑いました。 ―続く― |