嘘―47― 梅乃さんは、話を続け、私は黙って聞いていました。 「耕造さんには、早く交際をお断りしてください。耕造さんは、強引なところがありますが、負けてはいけません。断固とした態度が必要だと思います。それがお嬢様の最初の試金石になるでしょう。お母様も、家柄が違うということで、ご結婚に反対されるでしょう。それには、粘り強い態度が必要かも知れませんが、必ず方法はあります。私は、お嬢様の味方です。困ったことが合ったら、何でも相談してください。及ばずながら、お役に立ちたいと思っています。今日は、長々とお時間を取らせて、すみませんでした。」 「ありがとう、梅乃さん。本当にありがとう。」 私は、梅乃さんの胸に顔を埋めて、そう言いました。その日の話はそこまでで、梅乃さんは階下に降りて行きましたが、私は梅乃さんの話に大きな勇気を得ていました。 光佑さんからは、何度も手紙が来ていました。その中の何度かには、私のプロポーズに対するイエスの返事を心待ちにと書かれていました。 もうひとつの心配がありました。美知さんや、響子さん、希美さんとのことです。このことは、この前の時、梅乃さんも話しませんでしたから、彼女が知らないのかと思いました。私は、梅乃さんに言おうかどうか、悩みました。知らないのに話せば、余計な心配をかけることになります。かと言って、全面的に私の味方になってくれるという梅乃さんに、嘘をついたり隠し事をしたりするのは良くないという思いもあります。 ある日、お茶を淹れに来てくれた梅乃さんに言いました。 「梅乃さん、お話があるの。」 「何でしょう、お嬢様。」 「実は、私、叔父様との他にも心配なことが・・・」 「美知さん達とのことでしょうか。」 私は、梅乃さんが全てのことを知っているのだと思いました。 「ええ、そうなの。」 「そのことなら、ご心配なさらなくて大丈夫でしょう。お嬢様は、男性にも十分愛情をお持ちになることができます。世の中には、本当に女の人しか愛せない女性もいるようですが、それとは違います。はしかのようなもので、そういう経験は、結婚して幸せな暮らしをしている多くの女性も持っているでしょう。それに、美知さん達だって、お嬢様に本当に好きな男の人ができたら、身を引いてくれると思います。」 私は、梅乃さんが「美知さん“達”」と言ったことに、私の全てを知っているのだと思いました。梅乃さんは、お母様以上に、私のことを見ていて、心配してくれていたのでした。私は、話して良かったと思いました。 叔父様から、誘いの電話があったのは、2月も半ばのことでした。お母様は、お琴の日でお留守でしたので、電話を受けた梅乃さんが呼びに来たのです。 ―続く― |