赤い糸・白い糸-68-
「おや、これはどうしたんだろう。赤い糸が反り返って結べないんだよ。」 「どうしました? 白い糸は真っ直ぐなんですけどねえ。」 お互いに赤い糸と白い糸を持ち寄った佐賀の神様と、大分の神様が話し合っている。 「この大分の女の子の方が、反り返って固くなっているんですよ。」 「どうしたのでしょう。ちょっとタグを見てみましょう。」 そう言って、佐賀の神様はタグを確認した。 「あっ、こりゃあいけない。年収が”不安定”とある。これじゃあ、結婚しても食べて行けないわ。」 その頃、地上では・・・・・
ここは福岡のある町、三郎は瑞江と飲み屋街の片隅の小さなアパートで同棲をしていた。 三郎は佐賀から出て来て、大学卒業後一時期福岡でサラリーマンをしていたが、学生時代からの小説が書きたいという夢が忘れられなかった。いろいろな雑誌などに投稿していた。瑞江は、同じ会社のOLだったが、そんな三郎の夢を追いかける姿に憧れて同棲を始めた。同棲を始めて3年目、とうとう三郎は会社を辞めた。会社を辞めるときには、瑞江も賛成した。 やっと夢が叶った三郎は、小説を書くことに必死になった。書いては出版社に持って行ったが、編集者はちょっと目を通しただけですぐに原稿を返した。「うちではちょっと扱いかねますので、他を当られたらいかがでしょう。」と言った。新聞社も含めていくつか回ったが、返事は皆同じであった。アマチュアとしてはそれなりの出来でも、プロの小説家となると甘くはなかった。たちまち生活が苦しくなった。瑞江は会社勤めを続けていたのだが、収入は少ない。二人で食べて行くのがやっとである。僅かばかりあった貯金も、たちまち底をついた。 -続く-
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