「君ねえ、女なんてのは最初は優しく思えてもみんな一緒だよ。まな板の上の魚を見て、こわ~いなんて言っていたのが、魚の頭も平気で出刃包丁でバサリと落とすようになるんだ。それも結婚前には、これで料理なんかできるのだろうかと心配していた女がだよ。元々強いのが結婚前には角を隠していたのか、元は優しくおとなしいのが強くなったのかはわからないが、とにかく彼女が今のままでいると思っちゃ間違いだよ。」 光太郎の部下が結婚することになり、今日その披露宴の招待状を渡されたので、お祝いの意味を兼ねて彼を誘って二人で飲みに行った。部下の男は30歳、真面目で実直な男である。光太郎は自分の20年前の姿に重ねていた。話す内容は、どうしても結婚生活の心得になってしまう。光太郎は続けた。 「結婚を間近に控えた君にこんなことを言うのも気が引けるが、女は男と同じ種類の動物だと思ってはいけないんだ。犬と猿とか、犬と猫くらいに違うんだ。理解しようとしても無理さ。最近、地図が読まない女とか、話を聞かない男だのと言う本が売れていたというけど、脳の構造からして違うみたいなんだよ。」 青年は、一生懸命光太郎の話を聞いていた。しかし、これから結婚しようとする青年にこれではいけないと思い直して続けた。 「でもね、だから可愛くないかというと、そうでもないんだ。それは、それで可愛いところがあるんだよ。男と女は違うからこそ良いのかも知れないね。それにしても幸せになってくれたまえ。心から応援しているよ。」 光太郎は上機嫌で家に帰った。 家に帰り着いた時、「ただいま。」という光太郎に、居間でテレビを見ていた紗智子が言った。 「あ~ら、あなたはいいわね。今日は、銀座のホステスの接待、それとも赤坂? あたしも男に生れりゃ良かった。」 それを全部聞かないうちに、光太郎はそそくさと浴室に入って行った。
-完-
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