男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
CATEGORY:小説「若葉の唄」

2010/03/14 3:57:23|小説「若葉の唄」
若葉の唄-24-(最終回)
  「君ねえ、女なんてのは最初は優しく思えてもみんな一緒だよ。まな板の上の魚を見て、こわ~いなんて言っていたのが、魚の頭も平気で出刃包丁でバサリと落とすようになるんだ。それも結婚前には、これで料理なんかできるのだろうかと心配していた女がだよ。元々強いのが結婚前には角を隠していたのか、元は優しくおとなしいのが強くなったのかはわからないが、とにかく彼女が今のままでいると思っちゃ間違いだよ。」
  光太郎の部下が結婚することになり、今日その披露宴の招待状を渡されたので、お祝いの意味を兼ねて彼を誘って二人で飲みに行った。部下の男は30歳、真面目で実直な男である。光太郎は自分の20年前の姿に重ねていた。話す内容は、どうしても結婚生活の心得になってしまう。光太郎は続けた。
「結婚を間近に控えた君にこんなことを言うのも気が引けるが、女は男と同じ種類の動物だと思ってはいけないんだ。犬と猿とか、犬と猫くらいに違うんだ。理解しようとしても無理さ。最近、地図が読まない女とか、話を聞かない男だのと言う本が売れていたというけど、脳の構造からして違うみたいなんだよ。」
  青年は、一生懸命光太郎の話を聞いていた。しかし、これから結婚しようとする青年にこれではいけないと思い直して続けた。
「でもね、だから可愛くないかというと、そうでもないんだ。それは、それで可愛いところがあるんだよ。男と女は違うからこそ良いのかも知れないね。それにしても幸せになってくれたまえ。心から応援しているよ。」
  光太郎は上機嫌で家に帰った。
家に帰り着いた時、「ただいま。」という光太郎に、居間でテレビを見ていた紗智子が言った。
「あ~ら、あなたはいいわね。今日は、銀座のホステスの接待、それとも赤坂? あたしも男に生れりゃ良かった。」
  それを全部聞かないうちに、光太郎はそそくさと浴室に入って行った。

                                           -完-






2010/03/13 3:24:06|小説「若葉の唄」
若葉の唄-23-
  結局、二人は結婚の約束をした。二人で決めた後で、紗智子の家に行き、両親にその旨を報告した。その後で休みを貰って、二人で光太郎の両親のあり広島まで行った。これで誰もが認める婚約になった。
  それから大変だったのは結婚式をどうするかであった。紗智子の方は一人娘、しかも社長の娘であるから、盛大にというのが社長と奥さんの希望である。一方、光太郎の方はごく普通のサラリーマンの息子、とても対等にはできない。そのことは、両親に会わせたときに紗智子もすぐに悟ったようであった。光太郎から言うまでもなく、紗智子は両親を口説いた。会費制のパーティ式にすると宣言したのである。言い出したら絶対引かないところのある紗智子である。母親は最後まで反対したようであったが、とうとうそれも説得してしまったようであった。
  新居をどこにするかも問題になった。紗智子の両親は、屋敷の中に離れを建てるからとか、近くにマンションを借りてあげるから近くに住むようにと言っってくれたが、これも紗智子が拒絶した。紗智子は、二人で探すと言ってきかなかった。その結果、松戸にあるマンションを見付け、住むことに決めた。紗智子の両親は、マンションの費用を出すと言ったが、それも紗智子が断った。「私は、社長の娘としてではなく、一人の女として光太郎を好きになったのだ。」というのが、紗智子の言い分だった。
  そんな苦労を重ねながら、新緑の息吹がすばらしい春の吉日、二人は結婚した。
  20年の歳月が流れた。紗智子との間には3人の子供ができていた。上の女の子は高校生、その下に中学生と小学生の男の子がいた。光太郎も50歳になって営業部長になっていた。社長はずっと前に引退して、今は2代後の社長である。
仕事は忙しく、帰りはいつも深夜だった。営業という仕事柄、飲んで帰ることが多い。 そんなとき、いつも紗智子の小言を聞かされる羽目になる。
「あなた、少しはお体を労わらなくてはなりませんわ。」などと言う語調にもけっこう棘を含んでいたが、機嫌の悪いときには、「あ~ら、今日は銀座のホステスさんの接待だったの。接待したの、それともされたの?」とか、「毎晩遅くて大変だわねえ、銀座には帰りたくないほどいい女でもいるの?」とか、光太郎がドキリとするようなことも平気で言うようになっていた。
                                           -続く-






2010/03/12 4:38:54|小説「若葉の唄」
若葉の唄-22-
 その後、光太郎と紗智子は、以前のような交際に戻った。
しかし、前とはいくつかの違いがあった。もちろん”棗”には行ったのだが、大きな違いは行動範囲が広がったことだった。渋谷や上野で会うこともあれば郊外にドライブに行くこともあった。その中で光太郎が苦手だったのは、紗智子の家に行くことだった。ゴルフ場での見合いの後の1ヶ月後に母親に紹介するということで行ったのだが、母親は上品を絵に描いたような人だった。言葉遣いは丁寧であるし、挙措動作にも世間では見られない雰囲気がある。
こんな家庭と自分の家庭を比べたとき、光太郎は劣等感を覚える。
  ”棗”で飲んでいるとき、光太郎が言った。
「お母さんって、とても上品な人だね。おふくろなんかと比べると、俺、自信をなくしちゃうよ。」
「アラッ、そんなことを気にしているの?」
「そりゃ、そうだよ。いずれ親戚として付き合わなくちゃならないんだろう。」
「大丈夫よ、あなたとわたしがしっかりしていれば。」
「そうは言っても・・・・・」
「任せておいて。あなたとか、ご両親には心配をお掛けしないようにするわ。」
  次に”棗”に行ったときは、ママの寿子も久美代も久し振りに二人が一緒だったことを喜んでくれた。光太郎が元気がないことを心配していただけに、光太郎が笑顔でいることに安堵を覚えたのかも知れない。
「お久し振りね、紗智子さん。」
「すみません、ご無沙汰して。」
「私達、心配していたのよ。光太郎さんが、元気がないんだもの。」
「すみません、でも、今はもう大丈夫です。私達、ずっとお付き合いするつもりですから。」
「そう、良かったわね。うちにも忘れないで来てよね。」
「もちろんです。」
「それから、おめでたい話になったら教えてね。私達でささやかなお祝いをしたいから。」
「はい。」
そう返事した紗智子は、光太郎の方に振り向いて、顔を見つめた。

                                            -続く-






2010/03/11 18:56:32|小説「若葉の唄」
若葉の唄-21-
  紗智子は話を続けた。
「それにあなたという人にも興味があったの。今までにも似たような話があって、すぐに飛びついて来た人もあったけど、会ってみると軽薄で失望されることが多かったわ。それで、あんな格好をしてあなたに接近したの。あなたがどんな店に飲みに行っているかくらいはすぐにわかったわ。それくらいの情報は、父の力がなくても集まるの。」
「でも、何で会えなくなるなんて言ったんだ。僕は、真剣に好きになっていたんだよ。」
「それは違うの。わたしだって、あなたのことを好きだわ。今でもそうよ。でも両親の手前、町で出会った男と結婚したいなんて言えないじゃない。きちっとした形での出会いを作らなければならなかったのよ。」
「・・・・・・」
「これで両親の前でも大っぴらにお付き合いできるわ。」
「・・・・・・」
「ネッ、いいでしょう。社長の娘だからって、私を嫌いになんかならないわね。」
光太郎は、自分の気持ちが整理できずにいた。
無論、紗智子を嫌いになったわけではなかった。紗智子の考えたことも十分に理解できた。ただ何故自分に相談しないで秘密にしたまま話を進めたのだろうかということだけが腑に落ちなかった。そんな気持ちを察したのか、紗智子は続けた。
「私、あなたに言おうかと思ったけど、あなたは正直で嘘を言うことができない人だわ。あのまま父に紹介してもきっとあなたは悩んだと思う。ネッ、そうじゃない?」
言われてみれば確かにそうである。ゴルフ場で紗智子を見たときのあの驚きなどは決して光太郎には演技ができるとは思えなかった。
  結局、紗智子は光太郎を家まで送った。寄って行かないかと誘ったが、紗智子は今日は帰るけどまた来るわと言って帰って行った。

                                               -続く-







2010/03/11 5:33:51|小説「若葉の唄」
若葉の唄-20-
  「さすがに噂に聞いていただけあって、君は飛ばすねえ。」
昼食のときに社長が言った。年末年始の訓示を聞くことくらいしかない社長と違って、今日はリラックスした雰囲気ではあったが、さすがに光太郎は緊張していた。
紗智子はニコニコしながら、光太郎の方を見ている。
「いえ、下手で足手まといになってすみません。」
「でも、きびきびしていていいよ。営業は、そうでなくちゃならないよ。」
社長も、機嫌は良いようである。
「吉田君(常務)から聞いたのだが、君はラグビーをしていたそうだね。」
「はい、学生時代は勉強をしないで、ラグビーばかりやっていました。」
「そうか、運動はいいよ。僕も、学生時代にはラグビーをしていたんだよ。」
「そうですか。」
「今でも、当時の仲間とは年に一回は飲んでいるんだ。みんな還暦は過ぎちゃったけどね。」
「はい、私たちも、ときどき集まって飲みます。」
  結局、紗智子とたくさん話し合うこともできずにプレイを終えた。
ゴルフが終って、レストランでコーヒーを飲んでいるとき紗智子が言った。
「わたし、大村さんを駅まで送って行っていいかしら?」
社長は、嬉しそうに「わかった。ゆっくりしておいで。」と言った。本人は、常務に送ってもらうらしい。
  「何でこんな手の混んだ真似をしたんだ。」
車に乗るとすぐに光太郎は聞いた。
「ごめんなさい、でもこうするしかなかったのよ。」
「どういうこと?」
「あなたは、吉田さんから、わたしとの見合いの話があったとき断わったでしょう。」
「うん。」
「社長の娘というだけで断わったはずよ。」
「うん。」
「それに、わたしの良くない噂もあったみたいね。」
「・・・・・・・」
「いいの、わかっているの。だけど、私にしてみれば、会いもしないで断わられるって理不尽だわ。自分をよくわかって断わられるのなら仕方がないけど。」
「・・・・・」
更に紗智子は話は続いた。
                                           -続く-






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