蛍―17―(最終回)
私は、美紀の手を取るとベッドに誘った。 たくさんの蛍がいた幻想的な光景が瞼の裏に残っていて、その感動が私を燃えさせた。私は、激しく彼女に挑んで行った。美紀も、私の情熱に十分に応えてくれた。いつにない激しい愛の行為の後で、私は眠りに就いた。 翌朝目覚めたとき、美紀の姿がなかった。辺りを見まわしたがいない。これまで、彼女は先に目が覚めても私の傍から抜け出すようなことはなかったので不安を覚えた。 「美紀!」と呼んでみるが返事はなかった。ベッドから起き出して洞窟の外に出てみたが彼女の姿はなかった。 私の不安は次第に大きなものになった。 「お〜い、お〜い、美紀〜!」 大声で叫んでみるが返事はなく、「お〜い、お〜い、美紀〜!」という自分が発したと同じ木霊が山の間から返って来るだけだった。 それでも諦めずに何度も何度も叫んでみるが、木霊が返って来るだけで彼女の返事はなかった。 私の不安は増すばかりだった。滝つぼにも行ってみたが、彼女の姿はなかった。次第に探す範囲を広げて、昨日蛍を見に行った場所にも行ってみたが、彼女の姿はない。 一人で帰ったのかと思ったが、私は彼女の家を知らなかった。いつも別れる場所まで行って、彼女の行く方向に歩いて行ったが、どこまで行っても家らしいものはなく、やがて道も途絶えていた。 もしかしたら、洞窟に戻っているのではないかと思って引き返してみたが、彼女の姿はなかった。私は、今迄に行ったことがあるすべての場所を探してみたが彼女を見付けることはなかった。この日は、子猿の小太郎も姿を見せなかった。 私は、山頂に行ってみたが、そこにも彼女はいなかった。私は、再び洞窟に戻って待つことにした。その日は一日待っていたが、彼女は現れなかった。 二日間待ったが、彼女は現れなかった。仕方なく家に帰った。 それから毎日のように山に登り、洞窟に行ったが、彼女に会うことはできなかった。 一か月が過ぎ、二か月が過ぎても、彼女は現れなかった。毎日のように行っていた山にも、2日に一回、3日に一回行くだけになっていった。 やがて秋が来て、冬になったが、彼女が姿を見せることはなかった。 彼女が姿を消して一年が過ぎ、最後に会った季節になった。私は、蛍を見た川の淵に行ってみた。 その日もたくさんの蛍が飛んでいた。 私は、乱舞する蛍を見ながら、彼女との一年間が何だったのか、あの夢のような時間が何だったのかと思った。私の脳裏に、彼女との日々が走馬灯のように瞼に浮かんでいた。 そのとき、蛍の群れの真ん中でひとつの光が大きく輝いた。しばらく点滅を繰り返していたが、やがて光の中のひとつになった。私には、それが美紀のように思えて、夜が更けるまでそこに佇んでいた。 ―完― |